書評「スタジアムの宙にしあわせの歌が響く街: スポーツでこの国を変えるために」(天野 春果)

スタジアムでフォーミュラカーを走らせたり、電車に関するイベントを行ったり、毎回話題になるプロモーションを仕掛ける事で知られる、川崎フロンターレのプロモーション企画。そのプロモーション企画を手動しているのが、プロモーション部部長の天野春果さんです。以前「僕がバナナを売って算数ドリルをつくるワケ」という本を出版し、どのような考えでプロモーション企画を行っているのか紹介していました。

最新刊の「スタジアムの宙にしあわせの歌が響く街: スポーツでこの国を変えるために」では、2016年に実施した最新の事例「シンゴジラとのコラボレーション」「JAXAとのコラボレーション」「陸前高田での復興支援イベント」を紹介し、川崎フロンターレのプロモーションの企画がどのように実現しているのか、プロモーション企画実現の裏側で起こっている様々な問題にどう対応しているのか、生生しくも、プロジェクトの熱が感じられる1冊です。

なぜサッカーに関係ないと思われるプロモーションを企画するのか

なぜ、サッカークラブがJAXAとコラボレーションし、宇宙ステーションと通信するのか。なぜ、川崎のサッカークラブが陸前高田でイベントを企画し、公式戦の翌日に試合をするのか。サッカークラブとは、サッカーの試合をして、勝利するために存在するという考えのクラブや、社会活動の範囲は自分たちの商圏に限るという考えのクラブとは、川崎フロンターレの発想は異なります。川崎フロンターレは、発足当時、周りにはヴェルディ川崎と横浜F・マリノスという人気クラブがありました。野球も読売ジャイアンツと横浜ベイスターズというチームがあり、他のチームと同じ事をやっていては、来場者を増やす事は出来ませんでした。他のチームと同じ事をやっていては、来場者を増やせない。だったらどうするかという考えが、川崎フロンターレのプロモーションの原点になっています。

最近の僕の仕事は、「いかに自社のサービスに興味がない人に、興味をもってもらうか」という問題の解決方法を求められる事が増えました。サッカーに興味がある人は、サッカーに関するコアな情報を提供すれば、来場してくれます。しかし、スタジアムの大多数の来場者は、サッカーにすごく興味がある人ばかりではありません。スタジアムの雰囲気が好きな人、選手が好きな人、ただビールが飲みたい人、大きな声が出したい人もいるでしょうし、家族が行くから仕方なくついてきた人もいると思います。

ただ、野球、バスケットボールなど、他のプロスポーツチームが様々な施策をうって観客を呼び込もうとしている上に、ライブ、ディズニーランドなど、余暇を楽しむための手段は、年々増えています。サッカーだけでなく、スポーツに対する興味を持ち続けてもらい、サッカーに対する興味が薄い人を、いかにスタジアムに来場してもらうか。そして、来場してもらった人をいかにもう1回来てもらうためには、サッカーだけでは難しいのです。サッカーとは一見遠いトピックとサッカーを上手く関連させて、来場者を楽しませる工夫が、スポーツクラブには求められています。川崎フロンターレは、こうした「サッカーに興味がない人を、いかに呼び込むか」という取組において、日本のスポーツのトップを走っているクラブです。スポーツクラブだけでなく、見込み顧客をいかに獲得し、ファンになってもらえるかという点でも、企業のマーケティング担当者や、プロモーション担当者にも参考になるはずです。

実現させたい企画や会いたい企画があれば、口に出し続ける

天野さんの凄い所は、アイディアではなく、実行力だと思います。最初は到底無理なように思える企画も、アプローチを変え、様々な人に会い、会った人の心を焚き付け、自分ゴトにさせ、高校の文化祭のような雰囲気にして、プロジェクトを進めてしまう。勢いだけで進めているようですが、天野さんは緻密な人でもあります。スケジュールをしっかりたて、タスクリストを作り、企画書はフォーマット化して、誰でもある程度の仕事が出来るようにする。プロジェクトマネジメントとヒューマンマネジメントが出来る実行力があるからこそ、これだけ人の心を惹きつける企画が実現出来るのだと思います。

本書で印象に残ったのは、実現させたい企画や会いたい人がいれば、「こんな企画がやりたい」とか、「こんな人に会いたい」と人に言い続けるべきだという事です。言い続けていれば、自分自身がやりたいこともより具体的になってくるし、希望を聞いた人が、自分がやりたい事を実現させるための方法や、実現する事が出来る人を紹介してくれるのだというのです。これは、僕もその通りだと思います。2016年は、自分が「会いたい」と言った人に、次々と会った1年でした。西本直さん、そして岡田武史さんなど、会いたい人に会って、意見交換出来た1年でした。ちなみに、僕が今やりたいことは、「川崎フロンターレの記事を本にする」「試合の解説」、そして「海外への解説記事の発信」です。どれも時間がかかっても実現させたいと思います。

本書を読み終えると、元気が出てきますし、「仕事頑張ろう」という気分にさせられます。苦しく、辛いことも多いですが、熱をもって目の前に取り組んでいれば、見てくれる人、協力してくれる人、そして、少しだけ良いことがあるのだということを、本書は教えてくれます。天野さんは、2017年から東京オリンピックの組織委員会で活動される事になっています。天野さんの今後の活躍にも期待したいと思います。

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