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住まいがもたらす本当の役割とは何か。書評「安藤忠雄 住宅」

   

今や建築家と言われれば、最も名前が知られる存在となった安藤忠雄。安藤さんの代表作といえば、長屋が軒を連ねる場所にコンクリートの箱を挿入した住宅「住吉の長屋」です。だからかもしれませんが、安藤忠雄は有名になった今でも、年間3〜4件ほどの個人住宅を設計するのだそうです。

本書「安藤忠雄 住宅」は、2011年までに安藤さんが手がけた住宅作品を振り返り、「住宅とは何か」「建築とは何か」について自身の考えを語った1冊です。

住宅を作り続ける理由

安藤さんはなぜ住宅の作品を続けるのか。その理由について、以下のように語っています。

住宅の設計を続けている理由は、私にとっての建築の原点を忘れたくないという気持ちがあるから。

住宅は、企画から基本設計、実施設計、現場管理、
そして完成後のメンテナンスと、建築が出来上がっていくプロセスを、
一人の設計者の手でコントロールすることが出来る仕事です。

言い換えれば、全てに眼と手が行き届くスケールの空間であるがゆえに、
その全てに対して設計家が責任を負うことができるということ。
仮に、仕事の範疇でなくとも、そこに置く家具、
インテリアのことに思いを馳せる。
素材一つ決めるにしても、デザインと同時に、コスト、
さらには耐久性といった完成した十年後のことも考えねばならない。
そして、台所や水回りといった、部分の機能性を延々と話し合う傍らで、
自分たちが理想とする建築空間のことを考える。
さまざまな次元の問題が重なり合う中で、
一つひとつ決断を積み重ねて全体を組み立て上げていく・・・。

この建築という仕事の本質を最も実感できるのが、住宅なんです。

「極小」「ローコスト」住宅を作り続ける理由

安藤さんは、U2のボノ、ダミアン・ハースト、トム・フォード、佐渡裕さん、コシノヒロコさんなどの著名人の住宅も手がけていますが、「極小」「ローコスト」と呼ばれる厳しい条件の住宅も数多く引き受けています。

安藤さんの代表作の「住吉の長屋」は、「極小」「ローコスト」という条件で、豊かな空間を作り上げた作品です。安藤さんは、「極小」「ローコスト」という住宅を引き受ける理由をこう語っています。

こうした仕事を引き受けるのは、やはり厳しい条件の家のクライアントほど、
アンバランスに大きい夢を向かってくるからでしょうね。
夢と現実がかけ離れている、そのギャップを建築家が埋めなければならない。
だからこそ面白いと(笑)

住みにくいけど豊かな住宅

安藤さんの住宅は住みにくいのだそうだ。コンクリートで作られた家は、夏は暑く、冬は寒い。安藤さんの代表作「住吉の長屋」は、中庭に屋根がかかってないため、雨が降ると隣の部屋に移動するのに、傘をささないと移動出来ません。コシノヒロコさんは、冬は自宅にいるのにスキーウェアを着て生活していたそうです。

しかし、コシノさんは「あの空間に身をおくことは、感性を研ぎ澄まし、デザインを生み出す活力でもあった」と語っています。このコシノさんの言葉は、住宅に本当に必要な要素が何かを現している気がします。

家の中の生活を豊かにするのは、冬も夏も快適な温度で、ほこりもニオイもしないきれいな空気の中で暮らすことではなく、風を感じ、差し込む光に時の流れを感じ、豊かな空間の中で家族や友人と素敵な時間を過ごす。それこそが、住宅が持つべき役割なのだと、安藤さんは自らの作品を通じて、語ってきたのではないかと感じます。

人が住まうとは何か。豊かな生活とは何か。
本書を読んでいると、改めてそんなことを考えさせられます。

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