書評「美術手帖2017年1月号-特集 Rhizomatiks(ライゾマティクス)-」

2016/12/22

2016年を振り返る時、リオデジャネイロ五輪で話題となった東京2020大会のプレゼンテーションの面白さが記憶に残っている人も多いと思います。

このプレゼンテーションの技術演出を担当したのは、Perfumeのライブ演出の技術演出を担当している「Rhizomatiks(ライゾマティクス)」です。Rhyzomatiksは、メディアアーティストとして作品を発表しながら、開発したテクノロジーを、広告やエンターテイメントといった規模や予算の大きいビジネスにも展開し、海外からも高い評価を受けています。そして、Rhizomatiksはこうしたクリエイティブを、会社として運営しながら続けています。

例えば、Perfumeが2015年にアメリカのSXSWというイベントで行ったライブでは、AR、3Dスキャン、モーショントラッキング、プロジェクションといった技術を複合的に構成し、現実とバーチャルを行き来するような全く新しい演出を実現。YouTubeで生中継され、大きな話題となりました。

例えば、「Sound of Honda/Ayrton Senna 1989」という作品では、1989年の日本グランプリ予選、アイルトン・セナは鈴鹿サーキットでF1世界最速ラップを樹立したそのラップの記録を、当時ホンダが開発した車載センサーからリアルタイムでデータを収集する「テレメトリーシステム」に保存されていた走行データを解析し、現代の先端技術を駆使し、エンジン音と光を用いて再現しました。

Rhizomatiksとはどんな集団なのか。「美術手帖2017年1月号」では、Rhizomatiksという組織について、Rhizomatiksの中心的な存在である真鍋大度さんや関係者のインタビュー、そして過去の作品などを元に、どんな活動をしてきて、今後何をしたいのか、よく分かる特集になっています。

SAJ2016でRhizomatiksの齋藤精一さんに登壇頂いたのですが、齋藤さんのセッションを聞いて、よりRhizomatiksの事を詳しく知りたいと思った時、ちょうど本書が発売になったので、購入してみました。

見えない垣根を軽々と飛び越え、面白いものを生み出す

Rhizomatiksは2016年に「Reserch」「Design」「Architecture」という3部門に分けました。以前は「Design」部門で広告を制作し、その費用で「Reserch」と呼ばれるメディアアートやライブ演出を行う部門の活動に充てていたのですが、現在は「Reserch」部門が稼ぎ頭になっているそうです。

また、最近はデジタルテクノロジーを駆使した空間のデザインや都市開発についても請け負う事があり、「Architecture」という部門を設立したそうです。Rhizomatiksという組織の面白いところは、営業、アカウント、ディレクターといった、管理職がほとんどいないところです。スタッフのほとんどが、何らかしらの専門のクリエーターで組織が構成されています。デザイナー、エンジニア、あるいはその垣根も分からないくらい、様々な事が1人で出来る人物が何人もいます。こうして、見えない垣根を軽々と飛び越え、面白いものを生み出していく事が出来る人が多く集まっていることが、Rhizomatiksの強みなのだと思います。

世界中の人が作品を見に来る場所を日本につくるべき

僕が最も印象に残ったのは、Rhizomatiksと共に、Perfumeの演出を担当しているMIKIKOさんの言葉です。

世界中の人が作品を見に来る場所を日本につくるべきなんじゃないかと思ってるんです。アメリカにあれを見に行こう、パリにあれを見に行こうって、私たちがわざわざ他の国に行くのは当たり前じゃないですか。でも日本にも「それを見るために来て、交通費の元が取れたね」って思えるような場所をつくるべきなんじゃないかと思うし、それが実現できたなら、私も関わってみたいなと思います。

日本は、文化、アート、スポーツといった分野で、世界中の人が観に来たいと思わせるようなものが、まだまだ少ない。歌舞伎のような伝統芸能はあるけれど、現代の作品やスポーツで、海外から人が来るような取組が出来ないのか。特にスポーツで、出来ないのか。僕はそんな事を考えていたので、MIKIKOさんの言葉は印象に残りました。そして、RhizomatiksやMIKIKOさんのような方々がスポーツに関わってくださることで、スポーツに普段興味・関心が低い人でも、興味をもってもらえるきっかけが作れないか。そう思っています。

なお、最近Bリーグの京都ハンナリーズの岡田優介さんも、こんな事をツイートしてました。

もっと、スポーツを人に楽しんでもらったり、観てもらったりするにはどうしたらよいのか。Rhizomatiksの取組には、何かヒントがあるんじゃないか。僕は本書を読み終えて、改めて実感しました。1,700円以上しますが、読んで損はない1冊です。

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