企画は半径3メートルから生まれる。書評「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ 3」

2014/09/30

「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」というラジオ番組は、「れんが家」と呼ばれるスタジオジブリの別室に集まった様々なゲストと、スタジオジブリのプロデューサーである鈴木敏夫さんとのトークを放送する番組です。番組の内容はPodcastでほぼ全回聴けるのですが、番組の内容を手軽に楽しめるようにと、書籍になって発売されました。本書は3巻目です。

本書には、山口智子、久石譲、瀧本美織、三池崇史、矢野顕子・森山良子といった方との対談が収録されています。

本書で紹介されている番組で、僕自身が印象に残っている番組が2つあります。

「ONE PIECE」の作者が語る元ネタ

1つ目は、「ONE PIECE」の作者である尾田栄一郎さんとの対談です。尾田さんとは、「次郎長三国志」を始めとする昔の任侠映画や時代劇映画の話で盛り上がります。

鈴木
今日ね、「ONE PIECE」の第1巻だけ読んだんですよ。
尾田
そんなにがんばってもらわなくても・・・(笑)。
あれは、「七人の侍」をイメージしたんです。
鈴木
やっぱり、そうだよね。
(中略)
鈴木
だからね、ほんとのこと言うと、「ONE PIECE」を読んだ最初の感想は、
「何だこれ、やくざ映画だな」と思ったんですよ・
尾田
好きなんだと思います。
(中略)
だから今回の映画版(エピソードオブチョッパー+ 冬に咲く、奇跡の桜)を、ちょっと観て欲しい。
ぼくはその中で、日本人の”討ち入りDNA”に問いかけたんです。
鈴木
任侠ものだね、はっきり言うと。

なぜ、「ONE PIECE」がこれほどまで人気があるのか。また、「ONE PIECE」はなぜ海外でも評価が高いのか。その理由は、この対談に全て語られているような気がします。「ONE PIECE」ファンは読んで損はないと思います。

悩んでいる人は増えていない。

2つめは、きたやまおさむさんとの対談です。きたやまさんは、ザ・フォーク・クルセダーズのメンバーとして活躍しただけでなく、「戦争を知らない子供たち」「あの素晴らしい愛をもう一度」といった名曲を作詞しただけでなく、精神科医として臨床活動を行うだけでなく、九州大学名誉教授(現在)として、教鞭を振るっています。

きたやまさんと鈴木さんの対談は、こんな言葉から始まります。

鈴木
近ごろ、何で悩む人が増えたんですかね?
きたやま
悩む人は、僕は増えてないと思いますよ。
「悩む人が増えた、増えた」っていうふうに精神科医は簡単に言いやすいし、
いろんな事件なんかを見ていると、悩む人がいかにも増えているような感じですけど、
「ハムレット」の時代から、あるいは「古事記」の時代から、悩んでいる人はいました。

悩んでいる人は増えていないのに、悩んでいる人の話を聞いたり、文章を読んだりすることが増えてきたと、僕も感じます。

では、なぜ悩んでいる人の話が表に出てきたのでしょうか。2人はこんなことを語っています。

きたやま
端的に言ってしまえば、”駅裏”って、すごく大事な場所だったと思うんですよね。
鈴木
ああ、わかります。
きたやま
駅の裏側って、やっぱりおかしな人がいるっていう雰囲気で。
(中略)
で、そこに行かなければ、みんな、ある程度安全だった。
ところが今や、駅の裏も表も、みんな同じような顔をし始めて、
かつてのような駅裏がなくなってしまった。
(中略)
今は、みんな”表”しかなくなってしまった。

裏がなくなり、怪しい物は「管理しましょう」ということになって、社会から怪しげなものがなくなった。怪しげなものから、新しい文化が生まれていたところもあったといいますが、それもなくなってしまったと、2人は語っています。

なぜ、裏がなくなったのか。社会に対するジブリの映画の影響といったところまで、2人は語っています。現代社会について非常に興味深い話が語られている対談です。おすすめです。

ジブリとは思想である

本書は、単なるラジオで放送された対談をまとめた書籍ではありません。「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」の書評でも書きましたが、「ジブリの思想」を最も身近に体験できるのが、本書だと思います。

なお、今回は、巻末に書かれている鈴木さんのエッセイが、いつにもまして面白いです。特に、鈴木さんが住んでいるマンションの住人に関するエッセイは必読です。

部屋の前に住んでいる若い夫婦、若い夫婦に英語を教えているアメリカ人、チケット屋のおじさん、福岡に引っ越した女性、居酒屋勤務の不良っぽい男の子、台湾からの留学生、など。そして、不良っぽい男の子に誘われ近所の居酒屋に気軽に食事にでかけ、台湾からの留学生の女の子と気軽にご飯を食べる鈴木さん。

鈴木さんはなぜマンションに住む人々と、交流を深めているのか。それは、マンションに住んでいる人の生活から、「今という時代」を読み取ろうとしているからだとも言えますし、たんなる好奇心なのかもしれません。宮﨑駿さんは、よく「企画は半径3メートル以内に転がっている」と語っています。鈴木さんの行動は、スタジオジブリの企画に対する思想そのものだと言えます。

「ジブリとは思想である」と語ったのはロッキング・オンの渋谷陽一さんですが、「ジブリの思想」とはなにか。そのことが分かる1冊になっています。あなたも体感してみてください。

関連商品