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勝っても、負けても、川村卓也

   

先週、何気なくBリーグの映像を観ていたら、この映像が飛び込んできた。

秋田ノーザンハピネッツ対横浜ビー・コルセアーズとの残留プレーオフ、1勝1敗で第2戦目の後に行われた5分ハーフの延長戦、2点差で負けていた試合の残り時間1秒。彼は2人の守備者を振り切って、シュートを放った。ボールはリングに吸い込まれ、試合終了。負けたらB2降格。そんな試合のラストプレーで、外したらB2降格という状況で、敵のチームを応援するブースターに囲まれてシュートを打つというのは、どんな心境なのだろうか。僕には想像がつかない。

しかし、彼はいとも簡単にシュートを決めてみせた。彼、川村卓也は、このようなシュートを決めるのは初めてではない。2016-17シーズン第19節千葉ジェッツとのGAME1でも、チームを勝利に導くシュートを決めている。

川村のプレーを観ていると、「自分が勝敗の責任を背負うのだ」という声が聞こえてくるようだ。勝てば自分のおかげ。負ければ自分の責任。勝敗を背負うとはそういう事だ。その責任を背負える日本人選手は、他の競技で探しても多くない。サッカーだと、FC東京に移籍した大久保嘉人くらいだろうか。そのくらい川村という選手は貴重だ。

僕は秋田ノーザンハピネッツ戦のシュートを観て、思わず5月19日に代々木第二体育館で行われる、残留プレーオフのチケットを買ってしまった。川村を観に行くために。

会場に着くと、凄まじい熱気と歓声で、隣の人の声がほとんど聞こえない。対戦相手の富山グラウジーズのブースターは、サッカーの応援のノリで、強烈にチームをサポートしようと試みた。一方、横浜ビー・コルセアーズのブースターも、ハリセンを使い、大きな声を張り上げ、チームをサポートする。今日も川村がやってくれる。そう信じていたはずだ。

しかし、試合は思わぬ展開で始まった。1Qから横浜ビー・コルセアーズのシュートが全く入らない。最初の得点が入るまで、7分近くかかってしまった。その間に15点もの差をつけられてしまった。オフェンスリバウンドが取れていたので、シュートが入っていれば、逆の展開になっていてもおかしくなかったのだが、とにかく動きが重く、相手の守備を外せない。

川村は先週の活躍が嘘のように、シュートが入らない。打っても、打っても、入らない。3ポイントシュートも入らない、ミドルショットも入らない、切り込んでのレイアップも入らない。そして、ゴール下のノーマークのシュートも外した。打っても、打っても、入らない。明らかに気負っていた。チームを勝たせようという意識が裏目に出てしまった。エースが落ち着かなければ、チームは落ち着かない。横浜ビー・コルセアーズの尺野ヘッドコーチは、2Qの途中から川村をベンチに下げた。休ませて、頭を冷やさせる事が目的だったに違いない。

ハーフタイム。横浜ビー・コルセアーズのチアリーダーのパフォーマンスが終わったら、真っ先にコートに現れた選手がいた。川村だ。終わった瞬間に出てきたので、たぶんロッカーでほとんど休まずに、終わるのを待っていたのだろう。真っ先にボールを持って、シュート練習を始めた。フリースローラインから始め、3ポイントラインの外側から次々とシュートを決めていく。必死に自分のあるべき姿を取り戻そうと必死だった。

試合中もあるべき姿を取り戻そうとする試みは続いた。川村は、試合開始前にかならず試合で使うボールを触る癖があるのだそうだ。試合で触るボールの感触を確かめ、試合に備える。そんなルーティンがあるのだという。しかし、この試合は試合中もボールを離さなかった。ボールがタッチラインを割った後、ファウルで試合が止まった後、そしてベンチで座っている最中も、川村は腕からボールを離さなかった。手でボールを持ち、感触を確かめるように、何度もシュートを打つふりを繰り返していた。

しかし、川村のシュートの感触は戻ってこなかった。2ポイントシュートは、2/9。3ポイントシュートは、1/8。エースが得点を奪えなければ、試合は勝てない。ジェフリー・パーマーが26得点と奮闘したが、富山グラウジーズに敗れ、来週の入替戦を戦うことになった。

先週は川村のおかげで勝ち、今週は川村のせいで負けたのだ。

試合後、川村はがっくりと膝に手をついてうなだれ、ブースターに挨拶するときは、手をあわせて謝っていた。ただ、川村を責める人はいなかった。川村がシュートを決めていなければ、この試合は戦えていない。その事を皆知っていたからだ。

膝を怪我する前に、「オフェンスマシーン」と呼ばれた頃のパフォーマンスではないかもしれない。横浜ビー・コルセアーズの選手たちは個性が強く、チームより自分がいかに目立つかを考えてプレーしているように見える選手もいる。しかし、川村は言い訳をしない。彼は、全てを引き受け、責任を背負い、戦い続けている。

勝っても、負けても、絵になる男。それが、川村卓也。僕はそんな男が好きなのだ。

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