都市の魅力を活かした再生事業とは。書評「バルセロナ旧市街の再生戦略―公共空間の創出による界隈の回復」(阿部 大輔)

2014/10/04

バルセロナ旧市街の再生戦略―公共空間の創出による界隈の回復

僕はいろいろな国や街を訪れた中で、最も素敵な街だと思ったのがバルセロナです。2009年の2月に訪れたのですが、2月とは思えないほど気候は暖かく、天気はほとんど快晴。料理もお酒も美味しかったことも印象に残っていますが、何より印象に残っているのは、街を歩く人がみな楽しそうだったことです。東京のように下を向いて暗い顔をしている人はスリぐらいです。街にいるだけで楽しい。そんな場所を訪れたのは、初めての経験でした。

バルセロナの魅力の1つに、古い街並みと新しい建物が見事に共存している点にありますが、そんなバルセロナの古い街並みが残っているのが旧市街と呼ばれる地域です。

公共空間を作ることで、街を再生する

本書を読んで驚いたのは、現在のバルセロナの旧市街の姿は、計画的に再建されて出来上がった姿だということです。立て直しを行うまで、バルセロナの旧市街は治安が悪化しており、(現在も特別よいとは言えませんが)人が集まりづらい環境にあったそうです。

そこで、バルセロナ市は旧市街の再生にあたって、再生プランを策定し、公社を設立して再生を図ります。再生プランのポイントは主に2つ。古くなった住宅を取り壊して新しく建てなおすだけでなく、住宅を壊してできた土地を公共空間や道路を広くして風通しをよくすることで、人を呼びこもうとしたのです。

再生プランを実施した結果、公共空間に人が集まるようになったことで、自然と露店やストリートパフォーマーが集まるようになり、旧市街はバルセロナの観光スポットとして、多くの観光客が訪れる場所へと生まれ変わりました。

バルセロナの旧市街の再生が起動にのったのは、広場そのもののクオリティが高かったからでも、有名建築家が質の高い美術館を設計したからでもありません。広場や文化施設を古い市街地に埋め込み、それらを公共空間を介して人の流れを地区内に呼び込むことで、古臭くさく危険で薄暗い界隈が再び「都市生活の舞台」として脚光を浴びるようになるプロセスそのものが、バルセロナ旧市街の再生戦略の真髄なのです。

誰のための都市なのか

バルセロナの都市再生事業は、公社の主導によって行われている点が大きなポイントです。なぜ公社が行ったほうがよいのかというと、民間主導で行うと短期間で収益のあがる地区においてのみ事業が進行してしまい、本来再生事業を行わなければならないエリアの再生計画が実施されないことがあるからです。

また、大規模都市開発は消費の欲望を喚起するように入念に設計されています。消費という予定調和的行為が前提とした空間では、都市に本来内包されている異なる文化や住民が暮らすことによって生まれる魅力がなくなってしまう恐れがあります。

日本では、民間主導の再開発によって、短期間で街が生まれ変わり、活気をもたらすことがありますが、反面、街が持っていた本来の魅力を失い、他の街との差がなくなってしまっていると言えるのかもしれません。そう考えると、公社主導による再生事業は時間もかかるし、予算も十分とはいえませんが、旧市街の魅力を残した上で街を再生しようとしたバルセロナ市民の考えがよく反映された選択だと思います。

バルセロナという街が、なぜ観光客の心を掴み、「また行きたい」と思わさせるのか、よくわかる1冊です。

関連商品