書評「行こう、どこにもなかった方法で」(寺尾玄-バルミューダ株式会社-)

バルミューダという会社の名前を知らなくても、製品の事を知っている人はいると思います。美味しいトーストが食べられるトースター、炊きあがりが違う保温機能のない炊飯器、自然の風に近い風が受けられる扇風機。バルミューダの作り出す製品は、他社の製品より高いものの、他社の製品にはない機能とデザインで、多くの人の支持を集めています。

革新的な製品を生み出し続けるバルミューダという会社を牽引するのが、社長の寺尾玄さんです。本書「行こう、どこにもなかった方法で」は寺尾さんがバルミューダを創業し、最初のヒット商品である扇風機を作り出すまでの、バルミューダの「原点」を記された書籍です。

倒れるなら前に倒れよう

本書は一定の成功を手にした経営者が書いた成功物語というよりは、自分の半生を克明に記した「私小説」のような文体で書かれています。情熱的だった両親、両親の離婚、学校生活、突然起こった母親に関する出来事、母親に関する出来事がきっかけになった人生初の旅、売れないミュージシャン時代、モノづくりをイチから学びバルミューダの創業、リーマンショックで会社倒産の危機、そして「倒れるなら前に倒れよう」と開発した扇風機。寺尾さんの波乱万丈の人生と、精一杯生き抜いたことによって培った「体験」が、バルミューダの革新的な製品を作り出しているのかもしれないと、読み終えて感じました。

変わりゆく人生こそが私たちの居場所なのだ。

本書で最も印象に残ったのは、この言葉です。

場所や、集団に定着して、そこを居場所だと思うほうが間違っているのかもしれない。どんなに移ろいやすくても、不安定でも、この旅が、というか、この変わりゆく人生こそが私たちの居場所なのだ。むしろ所属や肩書きの方が、よっぽど移ろいやすいものだろう。

人が定住生活を始めたのは、農耕生活が始まってからの事なので、狩猟生活に比べて圧倒的に短い期間でしかないのだそうです。獲物を求めて移動し続けるのが人の性なのだとしたら、変化を容認し、変化に身を委ねながら、まだ見ぬ自分を発見し続けるために日々を精一杯生きる事が大切なのではないか。精一杯生き続けいれば、やりたいことや、成功は後からついてくるのかもしれない。苦しいし、不安もあるし、辛いこともたくさんあるだろうけど、歩みは止めずに前に進み続けなければならない。そんな事を本書は教えてくれます。

経営者の本が好きでない人でも、本書は小説のような文体で書かれているので、とても読みやすいと思います。読み終えた後は、1つの物語を読み終えた後のような気分になりました。ぜひ読んでみてください。

おすすめ