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書評「ビッグデータ・ベースボール 20年連続負け越し球団ピッツバーグ・パイレーツを甦らせた数学の魔法」-“素人”がスポーツを変える-

   

今、メジャーリーグで画期的な取組で注目を集めているチームがあります。それは、ピッツバーグ・パイレーツです。

ピッツバーグ・パイレーツは、2012年まで20年連続負け越しを続けていた弱小チームでした。選手の総年俸は30チーム中27位(2015年シーズン現在)。「選手の年俸が高ければ高いほど、良い成績が上げられる」と言われているスポーツの世界で、パイレーツのように、選手の年俸が低い球団は、それだけで大きなハンデを背負っているといえます。ところが、2013年以降3年連続でプレーオフに進出。2016年シーズンも、勝率5割以上の成績を挙げています(2016年5月23日現在)。選手の年俸が低く、負け続けていた弱小チームを変えたのは、データを活用した野球でした。

データを活用した野球といえば、野村監督がヤクルトで提唱した「ID野球」や、オークランド・アスレチックスが提唱した「マネーボール」などが知られています。ところが、ピッツバーグ・パイレーツが導入したデータを活用した野球は、これまでのデータ野球とは全く異なるものでした。

本書「ビッグデータ・ベースボール 20年連続負け越し球団ピッツバーグ・パイレーツを甦らせた数学の魔法」は、ピッツバーグ・パイレーツがどのようにデータを活用したのか、どのようにチームを変えたのか、そしてどんな取組をしたのかについて、2013年シーズンの取組を中心に、克明にまとめた1冊です。

ピッツバーグ・パイレーツのデータ活用法

ピッツバーグ・パイレーツのデータ活用法は、主に2点あります。1点目は、「他のチームが注目しないデータに着目する」です。

ピッツバーグ・パイレーツは、これまで注目されてこなかった「キャッチャーの捕球技術」に注目しました。「ピッチングフレーム」と言われるこの技術に着目することで、キャッチャーの捕球技術によって、ボールかストライクか分からない際どいボールをストライクと判定してもらえると、シーズンを通して失点を減らすことが出来る。そう考えました。

ピッツバーグ・パイレーツは、ピッチングフレームに優れていて、当時フリーエージェントになっていたラッセル・マーティン(現在トロント・ブルージェイズ)を獲得します。ラッセル・マーティンは打率2割前半のバッターでしたが、ピッツバーグ・パイレーツのデータ解析によると、ピッチングフレームの技術に非常に優れているキャッチャーであることが分かりましたので、ピッツバーグ・パイレーツは2年契約で獲得します。従来の評価基準に照らし合わせると、ラッセル・マーティンをFAで獲得するというのは考えられないことでしたが、ピッツバーグ・パイレーツは実行します。

そして、ラッセル・マーティンのピッチングフレームの技術を活かせるピッチャーの登用、獲得を試みます。低めのボールをストライクか分からない、ギリギリのボールを「ストライク」と判定させられるラッセル・マーティンの技術を活かすため、ツーシーム・ファストボールやストライクからボールになるスライダーを投げることが出来る選手を登用します。今まではコントロールが悪いと言われていたピッチャーも、ラッセル・マーティンの技術があれば、よいピッチャーに生まれ変わらせることが出来ます。こうして、ピッツバーグ・パイレーツは失点数を減らすことに成功しました。

2点目は、大胆な守備シフトです。ピッツバーグ・パイレーツは、データを分析した結果、右打者は左方向、左打者は右方向に主に打球が飛ぶことを突き止めます。このデータ分析結果を踏まえて、打者によって守備シフトを大胆に変更。従来の守備位置とは全く違う位置で守備をさせることによって、失点を減らしてみせました。

データを活用するために実行したこと

こうしたデータ活用法をサポートしたのが、2013年から重要視されたデータアナリストの存在です。ピッツバーグ・パイレーツでは、2013年からデータアナリストがチームに帯同し、データ解析した結果、問題点、解決方法などを選手やコーチに伝えます。コーチはアナリストの報告を受けて、解決方法を選手に指示します。選手もアナリストとコミュニケーションを積極的にとりながら、よりよいプレーが出来るように試みます。

こうしたデータ活用を促したのが、監督のクリント・ハードルとGMのニール・ハンティントンです。GMはデータアナリストを登用し、データが活用できる環境を整えました。そして、監督はデータ活用に疑問を呈する選手、コーチにデータを活用するメリットを丁寧に説明。コミュニケーションを円滑にさせる努力を続けました。データを活用するには、ただ解析するだけでなく、人と人とのコミュニケーションが円滑で、お互いの信頼関係が構築出来ていなければ、成り立ちません。

フロントからの大量のデータを送り込んでくる分析スタッフにも質問するように求めた。コーチには単に渡されたデータに従うのではなく、自ら考えた理論の検証を分析スタッフに求めるようになってもらいたい。コーチと分析スタッフが互いの意見を尊重する関係になってもらいたい。データを最大限に活用して統合していくためには、それが唯一の方法だった。

野手たちに従ってもらい、投手たちに納得してもらうためには、一丸となった協力体制を示さなければならなかった。コーチ陣にも協力してもらわなければならなかった。コーチたちにはデータに基いた資料を受け入れるだけではなく、その資料を作成した人間も受け入れてもらわなければならなかった。尊重の空気とコミュニケーションを生み出すこと自体が、大きな壁として立ちはだかっている状態だったのだ。

エンジニア、アナリスト、ブロガーがスポーツを変えている

近年、メジャーリーグではデータサイエンティスト、データベースエンジニアといった職種の人材や、ブログなどで試合やデータを分析していた人物の採用が増えているそうです。今まで、競技の専門家として携わってきた人材以外の人材を登用することで、新たな可能性がひらけることを、ピッツバーグ・パイレーツは証明してみせました。また、データ解析技術が進み、ピッチャーの球筋や野手がボールを捕球するまでの動作など、データ化出来なかった部分もデータ化出来るようになりました。

本書を読み終えて、日本の野球はメジャーリーグに比べて著しく遅れているのかもしれないと、感じずにはいられませんでした。また、野球だけでなく、サッカー、バスケットボールといったスポーツも、同じなのかもしれない。そう感じました。データを活用する最大のメリットは、新たな問題解決策を発見できる事にあります。データ活用によって、スポーツの可能性がひらけることを教えてくれる1冊です。僕自身、こういう仕事がしてみたい。読み終えてそんな事を考えました。

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