Bリーグが行った画期的な記者会見で分かった可能性と課題

2017/02/11

11月2日にBリーグが面白い記者会見を行いました。B.LEAGUE理事・東野技術委員長がバスケットボール専用分析ツール「Synergy」を活用したSTATS分析を実際の選手・試合のSTATSを交えて説明するというものです。唐突にFacebookで告知され、Facebook Liveで生中継されたこの記者会見の内容がとても面白かったので、紹介したいと思います。

Synergyとはどんなツールなのか

「Synergy」とは、NBA、NCAA、海外のリーグの1,500以上のチームで採用されているバスケットボール専用の分析ツールです。Synergyは世界各国の試合を解析し、6時間後には対象とする試合の様々なSTATSが、Synergyの会員ページで閲覧することが出来ます。また、Synergyでは各プレーと動画を配信するプレーが結びついているので、例えば、田臥勇太の速攻からゴールを奪ったプレーの動画などを、試合ごとに閲覧することが出来るというわけです。既に、stats.nba.comでは、一般公開されています。

Synergyは、各プレーヤーのプレーの傾向もひと目で分かるようにしています。記者会見で紹介されていた例として、アルバルク東京の田中大貴が、攻撃時にボールをキャッチしたら、どんなプレーをするのか、傾向が紹介されていました。田中大貴は、ゴールから右45度でボールをキャッチしたら、66.7%の確率で右方向にドリブルしてゴール前に切り込むのだそうです。こうした、個々のプレーの特徴がすべてSTATSで示されるというわけです。

Synergyで具体的に分かるゲームの見どころ

SynergyのSTATSを活用すれば、ファンに対するゲームの見どころの紹介も、今までとは違って、より具体的に紹介することが出来ます。記者会見で紹介していたのは、11月5日、6日に開催する、横浜ビー・コルセアーズ対川崎ブレイブサンダースの試合の紹介です。共に攻撃に特徴があるチームなのですが、攻撃の特徴をSTATSを用いて、具体的に紹介していました。

横浜ビー・コルセアーズは、川村卓也、ジェフリー・パーマー、ジェイソン・ウォッシュバーンの3人で、得点の55%を占めます。川崎ブレイブサンダースは、ニック・ファジーカスと辻直人の2人で、得点の50%を占めます(40%近くファジーガスだと思いますが)。攻撃に特徴のあるチーム同士の対決として、この5人に注目すると面白いということが分かります。

攻撃のパターンも違いがあります。横浜ビー・コルセアーズは、ハーフコート(ボールを敵陣に運んでから組み立てるオフェンス)のオフェンスの攻撃効率が高いのですが、川崎ブレイブサンダースはハーフコートも、速攻も、どちらの攻撃効率が高いのが特徴です。

また、注目選手についても、STATSを用いることで、より具体的に知ることが出来ます。横浜ビー・コルセアーズのキーマンである川村卓也は、3PTシュートの決定率が高い選手なのですが、それだけではありません。川村の特徴として、サイドラインから再開したプレーと、タイムアウト後の攻撃効率、フィールドゴールの成功率が、とても高いのです。攻撃効率は、PPP(Points Per Possession)の略で、1回の攻撃回数でいかにポイントを挙げたかを算出した指標です。川村の最ドラインからスタートしたプレーのPPPは、1.58、タイムアウト後の攻撃が1.17と2回に1回以上の確率で成功していることが分かります。また、フィールドゴールの決定率が、サイドラインから再開した場合は70%以上、タイムアウト後は50%以上と、いずれも高い数値を残しています。

一方、川崎ブレイブサンダースの辻直人は、ピックアンドロールの時の攻撃効率が高いのが特徴です。辻直人といえば、3PTシュートが武器と言われているのですが、ピックアンドロール(ボールハンドリングしているプレーヤーをマークしているディフェンダーに対しスクリーンを仕掛け(ピック)、ディフェンダーのマークを遅らせ、ボールハンドリングしているプレーヤーの移動の自由度を増すと共に、スクリーナーが方向転換し、デフェンダーの進路を塞ぎ、自らのフリースペースへ動き(ロール)、パスを受けるプレー。)でも、高い攻撃効率を残しています。ピックアンドロールからのオフェンスのPPPが1.12、パスだけだと1.34と高い数値を残しています。

川村は昨日行われた試合でも、第4Qの残り31秒で2PT差に詰め寄る3PTシュートを決めました。辻も昨日は3PTシュートが好調でしたが、切れ込んでからのノールックパスで、何本もアシストしています。STATSが個々のプレーを裏付けていることがよくわかりますし、STATSを把握することで、より試合を細かく楽しめることが、この会見で提供されたSTATSからも分かります。

記者会見を行ったことでわかった課題

Bリーグが実施した記者会見は、実施したこと自体がとても画期的だったと思います。なぜ画期的かというと、リーグ自らがSTATSをどう利用したらよいか、どこを見たらよいか、解説した点にあります。STATSのどこが見どころなのか、どうやってメディアは、ファンは、STATSを利用すればよいのか。一例を示したというのは、とても良いことだと思いますし、今後も続けていくべきだと思います。

ただし、画期的だったがゆえに、課題もあります。まず、ターゲットを誰に設定した記者会見なのか、ほとんど分かりませんでした。メディア向けなのか、ファン向けなのか、それともバスケットボールの指導者向けなのか、ターゲットによって、届ける方法も違います。翌日のメディアが取り上げたのは、アルバルク東京対千葉ジェッツの件ばかりだったように、この記者会見を行った事によるPR効果はほとんどありませんでした。もっとメディアに取り上げてもらうなら、違うアプローチがあったと思います。記者会見は、技術委員長とアシスタントコーチの掛け合いで進んでいきましたが、あんな寸劇は要らなかったと思います。もっと正々堂々と情報を伝えるべきでしたし、STATSを分かりやすく伝えるスポーツアナリストが必要だなと、改めて感じました。Bリーグには適任の方がいるはずなので、期待しています。

そして、BリーグのSTATS自体の精度にも問題があります。こちらの記事でも指摘されていましたが、Bリーグは試合後にボックススコアを訂正するケースがよくあります。正直、今までバスケットボールのSTATSをこれほど細かく収集する機会はなかったので、バスケットボールに対する理解度が低いスタッフが、スタッツの入力を行っているというのも要因だと思います。スタッフの教育も課題ですが、メディアを含めて、これまでのバスケットボール関係者が、細かいSTATSを必要としてこなかったからだとも言えます。Synergyの素晴らしさを語る前に、Bリーグは「STATSの収集・入力精度の向上」というやるべきことがあるのではないかという意見は、もっともだと思います。

そして、こうしたSTATSをメディアが使いこなせるかというと、僕は疑問です。これまでの日本のスポーツメディアは、「誰が何を言ったか」というコメントを掲載することが重視され、事象を分析する記事は重要視されていませんでした。しかし、「誰が何を言ったか」という記事の重要度は、今後どんどん低くなっていき、目の前の事象を、STATSというエビデンスを用いて、きちんと分析した上で掲載する記事の重要度が高まっていくはずです。ただ、そんな記事を書ける人は、ごく一部です。

また、まだSynergyのアカウントは、一部の人にしか公開されていません。今後はメディアにも積極的に公開していくのだと思いますが、どういうメディアに公開していくのか、そして利用方法や情報の分析の仕方を、メディアに教えていく必要があります。今後、SynergyのSTATSが、どのように活用されていき、メディアの記事にいかされるのか、注目したいと思います。

サッカーファンとしては羨ましいBリーグの取組

ただ、サッカーファンとしては、Bリーグの取組はとてもうらやましいです。攻撃、守備における数値が事細かく算出され、試合後数時間以内で、動画とあわせて提供される。こんなシステムがあったら、もっと違う楽しみ方が出来るはずです。サッカーも走行距離とスプリント数を2014年シーズンから公開し始めましたが、全く勝敗に関係ないSTATSなので、楽しみ方が増えたわけではありません。もっと、サッカーも細かいSTATSの公開、提供が求められていると思います。サッカーファンには、STATSが好きな人も多いので、もっとJリーグはリアルタイムで、STATSを公開していってほしいと思いますし、「STATS公開が世界一進んでいるリーグ」というのは、Jリーグの強みに出来る気がします。ぜひ実施して思います。

中村憲剛がボールを持った、何%の確率でスルーパスが出るとか分かったら、観戦の楽しみも増えると思います。各リーグは、もっと積極的にSTATSを提供してほしいと思います。

おすすめ