プロレスラー クリス・ジェリコが教えてくれた、WWE仕込みの「ファンの注目を集めるためのプロモーション」

新日本プロレスは、2018年1月4日に「WRESTLE KINGDOM 12 in TOKYO DOME」というイベントを開催します。1月4日に行われる東京ドーム大会は、通称「イッテンヨン」と呼ばれ、プロレスファンには親しまれています。

今回のイベントは元々IWGPヘビー級チャンピオンのベルトをかけて、チャンピオンのオカダ・カズチカと挑戦者の内藤哲也がメインイベントで戦う事が決まっています。2人は以前こちらの記事で紹介したように、前哨戦から丁々発止のやり取りを繰り広げているのですが、先日メインイベントが「ダブルメイン」になることが発表されました。それは、セミファイナルで予定していたある試合の注目度が急速に高まっているからです。

ある試合とは、IWGP USヘビー級チャンピオンのベルトをかけて戦う、チャンピオンのケニー・オメガと挑戦者のクリス・ジェリコとの試合です。特にクリス・ジェリコが試合に向けて行った様々な仕掛けによって、この試合への注目度が急速に高まりました。

クリス・ジェリコが仕掛けた「プロモーション」

クリス・ジェリコは、WWEという世界最大のプロレス団体で、長年に渡って活躍してきたスーパースターです。クリス・ジェリコが新日本プロレスに参戦するというだけで、プロレスファンにとってはインパクトがありました。ただ、クリス・ジェリコの事は、WWEが好きな人は知っていても、近年新日本プロレスが好きになって、WWEのことが詳しくない人(僕のような人)にとっては、大きなインパクトはありません。

そこで、クリス・ジェリコは、新日本プロレスのファンを巻き込むためのある仕掛けをします。11月に福岡で行われた試合、ケニー・オメガの試合が終わった後、突然姿を現し、ケニー・オメガを急襲したのです。

この急襲のインパクトは絶大でした。翌日のクリス・ジェリコの会見中に、やられたケニー・オメガがクリス・ジェリコを急襲。「本番はどうなるのか?」「どんな試合になるのだろうか?」と注目度が高まりました。そして、新日本プロレスは、2人の試合を「ノーDQマッチ(反則裁定なし)」とすること、世界中から注目されていることを受けて「ダブルメイン」とすることを決定しました。

この試合に注目を集めるように仕向けたのは、クリス・ジェリコです。僕はクリス・ジェリコは、この試合への注目度を高めるために意図的にやったのだと思っていました。そうしたら、昨日クリス・ジェリコのインタビューがSportivaに掲載されていました。その内容が、スポーツのプロモーションを考える上で、とても参考になる内容でした。

クリス・ジェリコはなぜ「プロモーション」を仕掛けたのか

クリス・ジェリコは、なぜ一連の仕掛けを実行したのか。そこには、こんな考えがあったそうです。

僕は27年間プロレス界のトップで、しかもWWEで17年間やってきた。プロレスというビジネスにおいての、コンセプトとプロモーション、そしてキャッチフレーズの重要性はわかっているつもりだ。だから最初にクリス・ジェリコvsケニー・オメガって構図を思い浮かべた時、アイツがオメガなら俺は”アルファ”だって思った。

アルファは最も大きく、最も重要で、最高な存在だ。つまり僕にピッタリなキャッチフレーズってワケだ。それにアルファvsオメガって、Tシャツにするにもピッタリな字面だろ?(笑)

説明すると、「アルファ」とは、ギリシャ文字の最初の文字「α」のこと。「No1」という意味でもあります。対する「オメガ」とは、ケニー・オメガの名前でもありますが、ギリシャ文字では最後の文字「Ω」の事でもあります。つまり、「自分はNo1。お前はビリだ」ということを暗に匂わせ、対決を煽ったのです。クリス・ジェリコのコメントにもある通り、「アルファvsオメガ」という言葉は、キャッチフレーズにもなります。試合のコンセプトを明確にし、キャッチフレーズにしたことで、ファンに分かりやすく試合の重要性を伝えたのです。

アイツらが「BULLET CLUB」なら、こっちは「ALPHA CLUB JERICHO」だっていうアイデアは気に入ってる。対戦する1月4日まで時間がない。その間に僕の新しい”アルファ”ってキャッチフレーズをキッチリ認知させたいと思ってね。BULLET CLUB 対ALPHA CLUBってのはやり方としちゃ、なかなかいいだろ? SNSでもガンガン拡散してるし、ファンにもすぐに浸透するだろうね。

クリス・ジェリコが凄いのは、自分が新日本プロレスのファンに直接メッセージを伝える機会が少ないことも分かっていたことです。時間もない、メッセージを伝える機会も少ない。その中で、どうやってインパクトを与える仕掛けをして、SNSなどで拡散されるようにするか。全てはクリス・ジェリコの「手のひらの上」なのです。

WWEのスーパースターですら、自分が出るからといって、チケットが売れると思っていない

クリス・ジェリコは、自分が出るだけでチケットが売れるとは思っていません。ファンが自分の試合に、そして「WRESTLE KINGDOM 12 in TOKYO DOME」に興味を掻き立てるために、どうしたら良いのか。とてもよく分かっています。だからこそ、こんな事を語っています。

最初の一歩は人々の期待値を上げること。ネタを投下してバズらせて、憶測を飛び交わせる。アルファVSオメガはここ10年でも稀に見るビッグマッチだ。世界中を見渡してもこんなケタ外れな試合は存在しなかったはず。世界中が新日本プロレスワールド(新日本の試合が見られる動画配信サイト)を見たがるだろうね。

物事には順序ってものがあって、僕にとって今いちばん重要なのはこの試合への興味を掻き立てること。チケットをガンガン売って、東京ドームを満員の観客で埋め尽くすこと。史上最多動員数も記録したいし、実際そんなペースでチケットが売れていると聞いてるよ。

クリス・ジェリコと同じ事をやっているのが、棚橋弘至さんです。棚橋さんも、試合のコンセプトを決め、キャッチフレーズをつけ、ファンにプロモーションする。それを何年も続けてきました。棚橋さんを見習い、新日本プロレスの選手たちは、どの選手も自分たちなりのやり方で、試合のコンセプト、キャッチフレーズをファンにプロモーションするようになっています。「WRESTLE KINGDOM 12 in TOKYO DOME」は、素晴らしいペースでチケットが売れているそうですが、その要因は選手や団体のメッセージが、ファンにきちんと伝わっているからです。

選手がよいプレーをするだけでは、ファンは試合を観に来てくれなくなりました。選手も、チーム(団体)も、試合のコンセプトを決め、分かりやすいキャッチフレーズに置き換え、しつこいくらいファンにプロモーションする。そうしないと、ファンは観に来てくれません。スポーツチームのライバルは、相手チームだけではありません。ディズニーランド、コンサートなどのエンターテイメント、旅行など、余暇の時間を過ごすサービス全てがライバルなのです。他に負けないような、メッセージをきちんと伝えなければなりません。

もちろん、メッセージを伝えるからには、よい試合を見せなければなりません。選手たちは今まで以上にプロフェッショナルとして求められるレベルが高くなるのですが、そこに応えられなければ、ファンからお金はもらえません。棚橋さんは「プロモーションの成果が出るのは3年後」と語っています。今は成果が出なくても、続けなければ、成果は出ません。

クリス・ジェリコは、エンターテイメントの本場であるアメリカで培ったやり方を用いて、新日本プロレスのファンに教えてくれた。そんな気がしています。他のスポーツが好きな人も、ぜひ参考にして欲しいと思います。

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