デザインのマネージメントにスケッチは要らない。書評「ニホンのクルマのカタチの話」(中村 史郎 )

2014/09/30

クルマのデザインは、どうやって考えられているのか、僕自身よく知らなかったので、図書館の本棚でこの本を見つけた時、思わず手にとってしまいました。

本書「ニホンのクルマのカタチの話」は、日産のチーフクリエイティブオフィサー(CCO)を務め、日産のカーデザインを司る著者が、「デザイン」「クルマのカタチ」「デザインのマネージメント」といったテーマで、デザインについて語った1冊です。

スケッチを描いてはいけない

本書を読み終えて印象に残ったのは、「デザインのマネージメント」についてです。

日産には世界中に800人ほどのデザイナーが在籍していて、世界中に5つのデザインセンターがあります。これらのスタッフをどのようにチームとして機能させ、クリエイティブなデザインを生み出しているのか。その手法が興味深かったです。

著者は自身の事を「スケッチを描かないデザイナー」だと語っています。昔は、それこそ1日に最低100枚くらい、毎日朝から晩まで飽きるほど描いてたこともあったそうです。しかし、自分でプロジェクトをリードする立場になってからは、きっぱりと「ひとに見せるためのアイデアスケッチ」を描くことは、やめたそうです。

なぜ、やめたのか。それは、プロジェクトをリードするポジションのデザイナーが自分でスケッチを描いてしまうと、それでデザインの方向性が決まってしまうため、アイデアの広がりが出ないからです。そして、自分よりスケッチのうまい人、アイデアのある若い人が沢山いるのであれば、みんなのアイデアをまとめたり、いいアイデアを見つけ出して発展させたりする方が、はるかに良い結果に結びつくのだというのです。そして、それが「デザインのマネージメント」だというのです。

デザインしやすい環境を整備する

著者は、クリエイティブなデザインを生み出すために、まずは環境から整備します。リバイバルプラン以降の11年間で、世界中のデザインセンターすべてを新しくしました。アメリカはサンディエゴ、ヨーロッパは3箇所あったデザインセンターをロンドンに統合、日本は厚木、2011年には北京。面白いのは、国ごとに担当する車が必ずしも決まっているわけではないということです。

例えば、現在のキューブは厚木でデザインされましたが、デザイナーはベトナム人とキューバ人、ジュークはロンドンでデザインされ、まとめたのはイギリス人と日本人といった具合です。GT-Rのように、厚木、ロンドン、サンディエゴの合作で生まれたデザインもあります。

多国籍なデザインチームで日本国籍のデザインを生み出すポイント

こうした多国籍なデザインチームで、どのように日本国籍のデザインを生み出しているのか。重要なのは、「なにが日産デザインであるのか」を知っていることだと著者は語ります。

1つ目は、デザインのビジョンと目標を共有すること、つまり、デザイン戦略の共有です。それがデザイン部門のリーダーとして最も責任の大きな仕事だと考えているそうです。デザイン戦略づくりには、全スタジオが参加します。2つ目は、最後のデザインの仕上げは必ず日本で行うこと。それが、日産らしさを表現するには不可欠だというのです。

自分自身が100%安心出来るデザインは成功しない

著者は、いままでの経験から、出来上がったデザインが自分自身で100%安心、あるいは自分の感覚にぴったりなのが成功するかというと、むしろそうではないと考えているのだそうです。自分の範囲ギリギリの少し違和感があるくらいが、ちょうどいいというのです。

自分の美意識そのもので作るのであれば、ひとりでデザインすればよいのですが、チームでデザインをするということは、違和感を受け入れることだと、著者は考えているそうです。そして、そんな違和感を受け入れることが、自分に対してのチャレンジであり、そんなチャレンジを積み重ねていくことが、チームでデザインをするということなのだと考えているそうです。

いいアイデアをまとめたり、発展させる。そのために環境を整備するだけでなく、戦略を考え、仕上げは自分の手元で行い、入口と出口を管理することで、クオリティを保つ。そして、自分自身で100%安心のものではなく、自分の範囲ギリギリの少し違和感があるくらいのものに、チャレンジしていくこと。

本書には、デザインという範囲に収まらず、クリエイティブなチームを作っていくか悩んでいる人にとって、ヒントになる要素がたくさん詰まった1冊です。

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