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直感を信じ、自分に嘘をつかない。書評「指揮官の流儀」(チョウ キジェ)

   

僕は、現在Jリーグの監督で、湘南ベルマーレのチョウ・キジェ監督ほど、「この人の元でプレーしてみたい」と思わせる監督はいないと思います。この人の元でプレーすれば、自分が成長出来る。この人の元でプレーすれば、楽しくプレー出来る。そう思わせてくれる監督です。

チョウ・キジェさんという人物を物語る上で、象徴的なエピソードが本書の冒頭に収められています。チョウ・キジェさんが中学進学を間近に控えたある日、父親の意向で在日韓国人が通う学校に通う予定だったチョウ・キジェ少年の元に、クラスメイトが大挙して彼の家を訪ねてきます。そして、クラスメイトはこう切り出します。

「貴裁くんといっしょにサッカーがしたい。大原中学校へ行かせてあげてください」

クラスメイトの訴えを聞いた父親は、大原中学校への進学を許可します。少年時代から、周りの人々を惹きつける魅力を備えた人物だったのだと思います。それは、リーダーとしての素質と言い換えることも出来ます。

ただ、生まれながらリーダーとしての素質を備えているからといって、サッカーチームの監督が務まるほど、甘い世界ではありません。

チョウ・キジェさんは、どんな考えでチームを率いているのか。そんなチョウ・キジェさんが掲げる「湘南スタイル」とは、どんなスタイルなのか。今までインタビューなどで断片的に語られていたチョウ・キジェさんの考えを、1冊の著書にまとめたのが、本書「指揮官の流儀」です。

そのスパイクを買うために、お前のご両親は何時間働いたと思っているんだ

チョウ・キジェのエピソードで、僕が好きなエピソードがあります。

川崎フロンターレのジュニアユースの監督を務めていた頃、チョウ・キジェさんは、サッカー選手としてだけではなく、一人の人間としてしっかり育って欲しいと考えて、指導していたそうです。チャレンジした限りは失敗して試合に負けても、笑顔で迎える。対照的に、スパイクを忘れたとか、磨いてこなかったなど、準備を怠った子どもに対しては、真剣に叱ったそうです。

スパイクの値段を聞いた上で、ある選手にはこんな質問をしたことがあるそうです。

「そのスパイクを買うために、お前のご両親は何時間働いたと思っているんだ」

合宿などで集合時間に遅れてきた子どもに対して、お金を渡した上でこう言ったこともあるそうです。

「5,000円あればここから帰れる。試合に出なくていい。早く帰れ」

本人は「クラブに苦情が届いていたんじゃないか」と振り返っていますが、ここまで、真っ直ぐに、熱い言葉を話せる人に、苦情を出すような親なんていません。

選手たちを成長させることを第一として、その上で選手たちを本気にさせて勝利を手にする。

チョウ・キジェさんは本書で、「シンプルな目的を持ってここまで歩んできた」と語っています。それは、選手たちを成長させることを第一として、その上で選手たちを本気にさせて勝利を手にする。ただ、目的は決まっていますが、その目的をなし得るためのプロセスは、常に試行錯誤の連続だと語っています。

特に大切にしてきたのは、その時の直感だと、チョウ・キジェさんは語っています。ギリギリまで考えぬき、時には入念に準備した練習メニューや戦略を捨てることもいとわないし、自分が間違っていると思ったら、謝ることもある。サッカー監督の決断に、正解はありません。大切なのは、「自分に嘘をつかない」ことだと、チョウ・キジェさんは語っています。

「自分に嘘をつかない」こと。それが、直感にしたがって朝令暮改と思われるような決断を下しても、人からは「ぶれない人」と思われる人物の原点なのだと、本書を読んで強く感じました。そして、少年時代から「自分に嘘をつかない」人物だったからこそ、クラスメイトに「貴裁くんといっしょにサッカーがしたい。」と言われたのだと思います。

本書には、真っ直ぐで、熱い男のリーダーとしての考えがまとめられている1冊です。リーダーとは、どんな人物であるべきなのか。チョウ・キジェの姿や立ち振舞は、リーダーとしてのあるべき姿を体現しています。湘南ベルマーレのサポーターだけでなく、サッカーファン、リーダーシップを備えた人物とはどんな人物なのか学びたい人におすすめの1冊です。

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