権力を嫌ったロック魂にあふれた経営者。書評「清貧と復興 土光敏夫100の言葉」(出町 譲)

「土光のメザシ」という言葉をご存知でしょうか。

石川島造船所(現・IHI)に入社後、石川島播磨重工業、東芝の社長を歴任し、経団連の会長を務め、戦後の日本の復興と高度成長期を支えた経営者、土光敏夫さんの愛称です。

「土光のメザシ」の愛称の由来は、大企業の経営者に似つかわしくない質素な生活にあります。通勤は電車・バスを使い、生活費は月3万円。夜は接待には行かず、自宅の書斎で読書。休日はゴルフには行かず、自宅の庭の農作業。経営者として得た収入は、母親が作った学校に寄付していたそうです。

そんな、土光さんがファッション誌の表紙に着飾って登場する経営者を見たら、どんな風に感じたでしょうか。

壁を毎日破れ

ボクらの生活は、毎日が行き詰まりだ。行き詰まらん方がおかしい。
前に進んでいれば必ず行き詰まる。
「壁を毎日破れ」といったら「私には壁はありません。」という人がいた。
「そうか、ないか。君は座っているじゃあないか、立って歩いてみろよ。四畳半だろうと六畳だろうと、立ってあるけば、壁にすぐぶつかる」といったんだ。
つまり、この人には問題意識がないのだ。
だから、「歩いて毎日壁にぶつかれ」といったんだ。

反省することは帳面につけろ

失敗は終わりではない。
それを追求してゆくことによって、始めて失敗に価値が出てくる。
だから、僕は失敗という言葉をあまり使ったことがない。
(中略)
自分が失敗である、これはちょっとまずいぞ、と反省しなければならない。
毎日、反省することは、帳面をつけろということだ。
そうすことによってまた先へ伸びていく。
一年前はバカなことをしたな、と思うことが必要なのだ。

自分の火種は、自分で火をつけろ

私たちは、ごくわずかだが、”火種のような人”がいることを知っている。
自ら、カッカッと火を発し燃えている人だ。
(中略)
実は、職場や仕事をグイグイ引っ張っているのは、そんな人だ。
そうして、まわりの人たちに、火をつけ燃えあがらせているのも、そんな人だ。
しかし、誰にも皆、火種はある。必ずある。
他の人から、もらい火するようではなさけない。
自分の火種には、自分で火をつけて燃えあがらせよう。

会社が終わってから勉強せよ

バブソンという人が、過去百年間に世界の実業界で活躍した人々を調べたところ、
その人たちが成功した要因は「例外なしに、彼らが、会社が終わってからの時間が大切だと思っていた点に求められる」と言っている。
つまり、成功の要因は、回医者での時間中になく、
私生活での時間中にあるというわけだ。

家では絶対”仕事の顔”はしない

家にいる時は絶対に”仕事の顔”はしない、この原則は断固つらぬいた。
休日は数少ない家族とのコミュニケーションの場であるし、
ゴルフにいくなんておよそ考えたこともない。
(中略)
だいたい子供は親の後姿を観て育つというじゃないですか。
親が誰に恥じることなく生きていれば、何も言わなくてもそれは背中に現れる。

就職先より、仕事の中身が重要だ

技術者の道を歩けるなら、就職先はどこでもよいと考えた。
(中略)
給料は安いかもしらんが、仕事はまかせてくれる。
バカ高い輸入機械をポンと買ってくれる。こんないい会社はないかと反論した。
もちろん出世なんて考えたこともない。
ただ自分の専門については誰からも文句はいわせなかった。

退き際の美学を

人間、誰しも権力欲があり名誉欲もある。
トップの座に長くいればいるほど、そうした欲望は満たされるし、
収入面その他いろんな利点もあるだろう。
(中略)
僕なんかに言わせると「社長」なんてのは、
会社の中で一番つらいポストなんだから、一日もはやく退きたい。
そのために後事を託せる人材を育て、いままでやれなかった個人生活を楽しみたい、
と考えるのがふつうだ。
(中略)
日本の経営者には、どうもこの”退き際”が下手な人が多い。

よりよい社会のための力を尽くす

仕事に情熱を燃やしながらも、社員の声をよく聞き、女性の力を積極的に活用しようとお茶汲み係を廃止した土光さん。

資源の少ない日本のエネルギー源として、原子力発電所の導入を進める反面、リスクも見据えた上での管理方法や、再生エネルギーの活用を模索し、自宅に太陽光パネルを設置したりといった具合に、未来を見据え、日本という国を良くしようというエネルギーに満ちた人物だということが本書を読んでいると伝わってきます。

また、権力を嫌い、正面から戦う姿はどこかロック魂のようなものを感じます。

晩年は国の行政改革に力を注いだ土光さんが亡くなったのが、1988年。
もう26年前になります。
土光さんの発言を過去のものとして受け止めるのか、今の自分と照らしあわせて受け止めるのか。

ただ、土光さんは、こういうはずです。
自分の火種は、自分で火をつけろ、と。

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