書評「ラグビー日本代表監督エディー・ジョーンズの言葉―世界で勝つための思想と戦略」(柴谷 晋)

本書「ラグビー日本代表監督エディー・ジョーンズの言葉―世界で勝つための思想と戦略」は、ラグビートップリーグの東芝ブレイブルーパスのアナリストを務める著者が、前ラグビー日本代表監督であり、2015年に開催されたラグビーワールドカップで南アフリカ、サモア、アメリカに勝利し、国内外から賞賛されたチームを作り上げた、エディー・ジョーンズのチームマネジメントやコーチング哲学についてまとめた1冊です。

ビジネスマンにも参考になるマネジメントの考え方

本書は、「目標設定編」「準備・計画編」「組織形成編」「規律編」「教育編」という5つのパートに分かれて、エディー・ジョーンズがどのようにラグビー日本代表をマネジメントしてきたのか、詳しく紹介されています。この5つのパートは、ビジネスのマネジメントにも共通する事が多く、ラグビーのコーチだけでなく、ビジネスマンにも参考になると思います。

まず考えるべきは、スケジュールではなくチームをどこに連れていきたいか。つまり目的地だ。次に、どうやってそこに行くのか。そのためには何が必要なのか。それを明確にした上で、最後に決めるのがスケジュールだ。

なでしこジャパンの選手たちは小さい。頭一つ大きい相手と戦うときに、ゴール前のヘディングで競り合いでは不利になる。そこで、より細かなスキルの面で有利に経とうとしている。(中略)彼らはフィジカルは言い訳にならないことをしっている。だから、そのうえで、どうやって勝つかを考え、実践しているのだと思う。フィットネスをどの国よりも高める。スキルを高める。そして頭を使う。この三つがないとダメ。ラグビーの日本代表もこれは同じだよ。

練習というものは、逆算して計画されるべきもの。チームをどうやって勝たせるかを決めたら、そのための最善の方法、環境を事前に計画していく。その上で、チーム状況を観察して、必要に応じて変化を加える。

卓越しているエディー・ジョーンズのデータ活用法

特に僕が印象に残ったのは、エディー・ジョーンズのデータの活用法です。

データの活用法は、チームによって変わる。そのチームに何が必要かを考えてから決めないと意味がないからだ。重要なデータは、それぞれのチームで異なるのが当たり前だろう?そして、チェックする項目は三つに絞る。それ以上、項目を増やしたからといって、そのすべてを把握できるわけではないからね。どの項目に焦点を当てるかは、シーズンが始まる前にコーチたちとディスカッションをして決める。

データを見る際には気をつけるべきこともある。それは単に回数だけが重要ではないということ。回数だけで分かることは少ないんだ。(中略)2011年度の日本選手権決勝のサントリー対三洋戦、この試合のサントリーのキックは13回。13回というのはラグビーの一般的な試合においては少ない試合だけど、このシーズンの三洋戦では一番多い回数なんだ。三洋とは三試合戦ったが、リーグ戦ではキックは4回。プレイオフファイナルでは9回だった。そして、今回の日本選手権では13回。こうしたデータを見ると、この試合のサントリーの戦い方はキックを多用したディフェンシブなものだったという印象をもつかもしれない。だが実際は逆なんだ。この試合では、キック自体がアタックに繋がる事が多かった。つまり、より攻撃的に戦うための手段としてキックが活用されていた。こうした内容に関する事は、データの数値だけ見ていたらわからなくなってしまう。

どのデータが大切か。それは自分で判断しなくてはいけない。他のチームのコピーをしても意味がない。チームをどうやって勝たせるか、そのためのポイントは何か、それはどうすれば測定できるのか。それを考え、自分のチームに適していたデータを見つけることがコーチの仕事だ。

データだけを見て物事を判断するのではなく、データが記録された背景(文脈)を把握した上で、目的、目標を達成するために、データをどう活用するか。エディー・ジョーンズという指導者がよく理解した上で、チームを運営していた事がわかります。

サイクルの一貫性のレベルが他のコーチと違う

本書に書いてあったのですが、ラグビー日本代表のアナリストを務める中島正太さんによると、エディー・ジョーンズは、自分の目で考え、データを当たって確認し、課題を突き詰め、データを活用した実践的なトレーニングを行い準備する、といったサイクルの一貫性のレベルが、他のコーチとは段違いなのだそうです。

エディー・ジョーンズは、常に向上心を持ち、学び続ける指導者です。オフシーズンになって休むどころか、スーパーラグビーの視察に出かけ、バイエルン・ミュンヘンの練習を見学し、ジョセップ・グアルディオラ監督(当時)にアドバイスを求め、ACミランのメディカル施設「ミランラボ」を見学していたように、常に自分を向上させるヒントはないか、探し続けている人です。選手にハードワークを求める反面、自らも朝5時半にクラブハウスに現れ、クラブハウスを出るのは22時過ぎ。ブラック企業も真っ青なほどのハードワークぶりですが、これだけハードワークされたら選手は何も言えません。

正直あまり期待せずに手にとった本ですが、とても面白かったです。ぜひ読んだことがない方がいらっしゃったら、読んでみてください。

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