書評「エディー・ウォーズ 」(生島淳)

本書「エディー・ウォーズ」の紹介にあたっては、amazonの「書籍紹介」にかかれていた文章をそのまま紹介します。

稀代の勝負師、エディー・ジョーンズは、グッドボスだったのか、バッドボスだったのか

2015年9月19日、英国の地で世界を驚かせた、ラグビー日本代表の大勝利。あの感動的なシーンを迎えるまでには、指揮官エディー・ジョーンズとチームの間に長い戦いがあった。選手やスタッフは肉体的にも精神的にも追い詰められ、極限に達していた。そこで生じたパワーが、あのワールドカップで強豪南アフリカを倒したのだ。ワールドカップ後、選手、関係者30名以上に取材をし明かされた真実は、日本ラグビー界に「成績」と共に残されるべき稀有な「プロセス」だ。ワールドカップは、エディーの戦いであり、エディーとの戦いだった。本書はその一部始終である。

選手・スタッフを「ハッピー」にさせない

エディー・ジョーンズがどれだけ選手を追い込んだのか、本書に掲載されているエピソードを紹介します。

ワールドカップが行われた年の合宿で、ラインアウトの練習をしていた時、スローワーの選手がミスをしました。ミスをした瞬間、エディー・ジョーンズは「ダメ!ダメ!ダメ!」と叫び、「このレベルでラインアウトの練習をやっても意味がない!次の練習に移るぞ!」と叫びました。ここまでは、他の監督でもやります。

エディー・ジョーンズは翌日早朝にミスした選手を部屋に呼びました。そして、こう叫びました。

「なんだ、あのスローイングは!トップリーグではあれで通用するかもしれないが、とてもインターナショナルレベルとは言えない。あの程度の事しか出来ないのなら、もう帰ってください」

そして、こう続けました。

「その方が、ご家族もハッピーじゃないですか?」

ミスした選手にはふたりの小さな子供がいました。普段からフェイスタイムを使って会話してたものの、合宿でひと月ほど家を空けてしまうと、息子は父親の顔を忘れてしまうということがあったそうです。妻にも負担をかけているのは、重々承知しています。

それでも、エディー・ジョーンズは追い込む手を緩めません。近くに控えていたマネージャーに「チケット!」と叫び、いますぐ羽田までの航空券を手配しろ!と言うのです。そして、書類をまとめて出ていってしましました。

エディー・ジョーンズは「選手・スタッフをハッピーにさせない」と常々語っていたそうです。「ハッピー」になった途端に人は満足してしまいます。満足させず、課題を与え続け、選手を追い込み、成長させ続ける。これをエディー・ジョーンズは退任までずっとつづけました。

自分も「ハッピー」にさせない

本書を読んだ時に思い出したのは、「永田農法」という栽培方法です。永田農法は、作物を育てる時に、出来るだけ肥料も水も与えずに育てる栽培方法です。肥料も水も与えないような厳しい環境で育てると、上手く育てれば、作物は通常時より太く、大きく根を張り、自ら栄養分を大きく取り込み、大きく丈夫な作物に成長します。成長の過程で取り込んだ豊富な栄養分が果実としてみのり、通常時より美味しい作物が育つというのです。

ただ、永田農法は枯れないように見守り続けなければならないので、通常の育て方より、手間暇が圧倒的にかかります。エディー・ジョーンズのチームづくりも、圧倒的な手間と、何よりエディー・ジョーンズ自身のハードワークによって成り立っています。朝4時半に起床し、枕元に追いてあるメモパッドに当日すべきことを記入します。5時半にはオフィスに出社し、メールをチェック。7時前にはオフィス近くのジムでトレーニングをこなし、8時半ごろに戻ると、すぐにスタッフとミーティング。そして、夜10時過ぎまで圧倒的なスピードで仕事をこなしていきます。就寝前に出した課題がクリアされていなかったら、エディー・ジョーンズは相手を叱責します。「スピード感がない!」と。

エディー・ジョーンズは、たしかにチームを強くしてくれます。しかし、対人関係では徹底的に追い込んでくるので、必ずしも付き合いやすい相手ではありません。選手が紙一重で我慢出来たのは、「チームを強くしたい」という想いは同じだからです。明晰で、人間観察も鋭く、物事を捉えるのが巧み。そして、逃げ道は絶対に用意してくれません。僕も以前こういう上司と仕事をしたことがあります。自分自身成長出来たという実感はありますが、また一緒に仕事をしたいとは思えません。

「世界を驚かせる」「歴史を変える」ためには、これだけの犠牲と献身が必要なのかと思うと、ゾッとします。サッカー日本代表がワールドカップで優勝しようと思ったら、どれだけの事をやらなければならないのか。本書を読みながら吐き気がこみあげてきました。本を読んでいて、こんな気持ちになったのは久しぶりでした。

エディー・ジョーンズの「日本人観」

エディー・ジョーンズは、こんな「日本人観」を持っていたそうです。


選手によって違うが、日本人は求めれば求めるほど、厳しければ厳しいほど、その言葉に応えるべく力を発揮する。パフォーマンスを自分から上げていく自主性や欲求は外国に比べて低いけど、要求に対する仕事のレベルが高い。

的を得ていると思いますが、この日本人観には、日本人がもつ課題、そして今後のラグビー日本代表がかかえる課題が端的に書かれています。2015年ラグビー日本代表の快挙は、エディー・ジョーンズという卓越した指導者の力が大きかったと思います。選手たちはエディー・ジョーンズの要求に応えようとした結果、大きく成長し、快挙を成し遂げました。

しかし、ここから先に進もうと思ったら、エディー・ジョーンズに頼らす、パフォーマンスを自ら上げていく自主性が必要です。自分で目標を定め、問題点をみつけ、解決方法を考えて、取り組む。自分を追い込んで取り組む。エディー・ジョーンズという鬼コーチがいなくても、自分たちが同じことが出来るのか。その事が求められているのです。

本書を読んだ後に、エディー・ジョーンズが行った「朝4時半から仕事をする」「選手を徹底的に追い込む」といった、表面的な行動だけ真似するのは、止めて欲しいと思います。本書から読み解かなければならないのは、目標を定め、問題点をみつけ、解決方法を考えて取り組むために、どうしなければならないのか。学ぶべき点はそこではないかと思います。

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