「孤独、憂鬱、怒り、それを3つ足してもはるかに上回る希望」書評「起業家」(藤田晋)

ベストセラー「渋谷ではたらく社長の告白」から8年。
前作は壮大な予告編でしかありませんした。

ネットバブル崩壊後の買収危機を乗り越え、順風満帆だったはずのサイバーエージェントは、実は大きな転換点を迎えていました。第二のネットバブル、ライブドア事件と親友の逮捕、そして主力事業の転換。

本書「起業家」は、前作「渋谷ではたらく社長の告白」の続編として、草創期を乗り越えた企業の社長が、いかにして新たな危機を乗り越えたのか。そして、藤田晋という経営者が訪れた危機にどのように考え、対応したのかが書かれた1冊です。

物語に引き込まれ、あっという間に読み終えてしまう

前作同様「起業家」も、冒頭から物語の中に引き込まれ、あっという間に読み終えてしまった人が多いのではないのでしょうか。僕もその1人です。

読み始めると、本の世界観に引き込まれあっという間に読み終えてしまう。小説を読み終えた時に体感することですが、ビジネス本ではあまり例がありません。企業の社長が書いた本は無数にありますが、「起業家」や「渋谷ではたらく社長の告白」のような読後感をおぼえることはありません。

では、「起業家」や「渋谷ではたらく社長の告白」は、他のビジネス本と何が違うのでしょうか。

実は人々が熱狂する物語というのは、1つのパターンしかないそうです。
それは、主人公が夢や目的を描き、旅に出る。旅で仲間に出会い、時に別れを経験しながら、迫り来る多くの困難に、仲間と協力して立ち向かい、ついには夢を目的を達成する・・・というもの。
「指輪物語」も、「One Piece」も、「七人の侍」も、同じようなストーリーで構成されています。

「渋谷ではたらく社長の告白」も「起業家」も、同じです。
「21世紀を代表する会社を作る」ことを夢見た1人の男が、志を共にする仲間に出会い、時に別れ、時に裏切られ、そして時に自らの未熟さを通関しながら、あきらめずに一歩一歩前に進むことで、目的を達成し、自らの夢に一歩づつ近づいていく・・・。

王道の物語と同じストーリー構成と、著書がブログで培った短い文章で淡々と感じたことや事実を語る文体が合わさることによって、本書は素晴らしい物語になっています。
そう、「起業家」や「渋谷ではたらく社長の告白」は、良質な物語であり、エンターテイメントとして成立している作品なのです。

「孤独、憂鬱、怒り、それを3つ足してもはるかに上回る希望」

もう1つ、「起業家」と「渋谷ではたらく社長の告白」に込められているものがあります。
その答えは、本書の冒頭にで引用された、THA BLUE HERBのMC ILL-BOSSTINOがLiveで語った言葉の中にあります。

「孤独、憂鬱、怒り、それを3つ足してもはるかに上回る希望」

そう。本書にはこれが全て詰まっています。

第8章「熱狂の後」で、メディア事業が成功した要因として、藤田さんは幻冬舎社長の見城徹さんから聞いたこんな言葉を引用しています。

「全ての創造はたった一人の『熱狂』から始まる」
「新しいことを生みだすのは、ひとりの孤独な『熱狂』である」

皆の反対を押し切っても、逆風に晒されても、窮地に追い込まれても、不屈の精神で乗り越える。それは、王道の物語も同じです。
One Pieceのルフィには「海賊王になる」という夢がありますが、藤田さんには「21世紀を代表する会社を作る」という夢があります。夢に向かって真っ直ぐ前を向いて歩き続ける男の素晴らしさを、「起業家」と「渋谷ではたらく社長の告白」は伝えてくれます。

本書は、矢沢永吉の「成り上がり」にとっての「アーユーハッピー」であり、中田英寿の「鼓動」にとっての「誇り」という位置付けの作品です。

しかし、本書はまだ夢の途中にいる主人公について書かれた作品で、物語には続きがあるはずです。
いつの日か、本書の続きが読める日を楽しみにして、書評を締めたいと思います。

THA BLUE HERB – 未来は俺等の手の中

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