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「みんな」ではなく「当事者」の時代。書評「当事者の時代」(佐々木俊尚)

      2013/01/18

「当事者」の時代 (光文社新書)

ようやく、佐々木俊尚さん(以下、著者)の「当事者の時代」を読み終えました。本書は、現代の日本のマスメティアの文脈がどこから生まれたのか丹念な取材を元に解き明かした上で、マスメディアの文脈がいかに現代の日本社会に侵食し、日本人の集合的無意識の根源となっているのか、ということについて言及した1冊です。あとがきも含めて、450P以上もある大作です。(450P以上ありますが、新書です。)

膨大な量の考察から暴き出される日本人の集合的無意識の根源

本書は「ジャズ・シンガー」という世界で初めてのトーキー映画、1964年に中国・南京を旅していた一人の若者、古代日本に行われた「神様の引っ越し」先と言われる檜原神社の不思議なつくり、という3つの物語を紹介することから始まります。

一見全く共通点のないこの3つの物語を軸に、400P以上にわたって幾つもの事例を織り交ぜながら、現代の日本のマスメティアの文脈がどこから生まれたのか、これでもかというほど丁寧に説明しています。著者の取材力と、膨大な取材で得た情報を文章としてまとめあげる文章力には、本当に驚かされます。

なぜ、400P以上にわたる説明が必要だったのか

僕が本書を読み進めていて最も疑問に思ったことは、「なぜ、400P以上にわたる説明が必要だったのか」ということです。当初読み進めている時は、なぜ著者はこれほど丁寧に事例を用いて説明したのかわからなかったのですが、読み終わってしばらく考え、ようやく理解することができました。

著者はなぜ丁寧に説明をしたのか。なぜならば、現代に生きる日本人の多くが、この本で解き明かされている”集合的無意識”の根源となっている、背景を理解していないからです。

僕自身、義務教育の歴史教育は太平洋戦争前で終了し、戦後の出来事や歴史的な背景はほとんど教わらなかったため、現代史を正しく理解していないのではないかと思います。

本書でも指摘していましたが、現代の日本人の集合的無意識の根源には、太平洋戦争と戦勝終結後の経済発展が大きく関係しています。しかし、多くの日本人は、太平洋戦争と戦勝終結後の経済発展の要因や背景と、裏で抱えていた問題を理解していません。

著者は、現代の日本において、マスメディアの文脈がいかに現代の日本社会に侵食し、日本人の集合的無意識の根源となっているのかを解き明かすには、前提となる背景を説明できなければ、読み手がきちんと理解することはできないと考えたのだと思います。実際、僕自身認識していない歴史や時代背景を、本書を通じて理解することができました。

「みんな」や「市民」という人物はいない

特に印象に残ったのは、第2章の「幻想の「市民」はどこからやってきたのか?」という章です。この章を読んでいて、僕が思い出したのは、仕事で以前お付き合いがあったマネージャーがよく言っていた、
”みんな”って誰やねん?”みんな”って人おるんか?(マネージャーは関西弁だったので)」という言葉です。

会議中に部下の方が「この方法がよいと思います。みんなそういっています。」と言った時、そのマネージャーはいつも「みんなって誰やねん?」と問いただしていました。「みんな」という言葉は、AさんとBさんとCさんと・・・といった個人個人があつまって、はじめて「みんな」という意味を持つ言葉です。

しかし、上記のようなケースで「みんな」という言葉を使う人は、「みんな」という言葉に含まれているAさんやBさんやCさんの顔を思い浮かべて使っているわけではなく、あくまで「多数」という意味を伝える記号として、「みんな」という言葉を使っているのではないのでしょうか。

本書で言及されていた「市民」という言葉は、一見個人について言及されている言葉のようですが、実際は特定の個人を指しているわけではありません。そういう意味では「みんな」と使い方は同じです。

同じように使われる言葉としては、「視聴者」や「消費者」といった言葉が挙げられます。「みんな」や「市民」や「視聴者」や「消費者」といった人物はいないにも関わらず、さもそういった人々が集まって同一の意見を語っているように論じるのはなぜかを、本書では詳しく説明しています。

「みんな」ではなく「当事者」の時代

本書にも書かれていますが、当時者性を獲得するのは簡単なことではありません。ひとりひとりができることをしていくことが、当事者性を獲得する唯一の近道なのでしょう。

誰かの真似をしたり、「みんな」という言葉を隠れ蓑にするのではなく、自分の責任で一歩一歩前に進む。本書には、「こうすれば出来る」とか、「これで安心」といった安易な結論は一切書かれていませんが、読み終えた後、不思議と身が引き締まるような思いがしました。これからの時代を生き抜くための手掛かりとなる1冊です。

冬休みは終わってしまいましたが、ぜひまとまった時間をとって読むことをおすすめします。

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この記事を読んで興味を持った方はこちら。

佐々木俊尚さんが新たな情報収集時代について書いた書籍「キュレーションの時代」はこちら。
本書と併せて読むと、より内容が理解できる書籍だと思います。

Twitterというツールを通じて、NHKという会社と個人個人をつなげる取り組みをされている@NHK_PRさん
タイトルの「中の人などいない」という言葉は、本書のメッセージにも通じる気がします。

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