現代に生きる人が抱えるジレンマを丹念に考察した名著。書評「暇と退屈の倫理学」(國分功一郎)

本書を読み終えて、思い出したのはTHE BOOMの「手紙」という歌のこんな1節でした。THE BOOMの「手紙」は、現代に生きる人々の姿を、宮沢和史がポエトリーリーディング形式で歌った名曲です。

ただ、こうして便箋にペンを泳がせ、
行間でお茶を入れては、日々の生活のすき間を埋めている。
生きているから時間が過ぎていくのか、
時間をつぶすために生きているのか、
時々それが分からなくなる。

(THE BOOM「手紙」より)

時間をつぶすために生きているのか

本書「暇と退屈の倫理学」という本で考察されているテーマは、現代社会を生きる上で非常に興味深いテーマです。

資本主義が導入され、少なくとも先進国の人々は裕福になりました。裕福になって得たものは何か。それは、暇という名の時間です。しかし、現代に生きることで得られた暇を、現代で生きる人々は有効につかっているとはいえるのでしょうか。

暇をどう使って良いのか分からず、何が楽しいか分からない。自分の好きなことが何かわからない。まさに「生きているから時間が過ぎていくのか、時間をつぶすために生きているのか、時々それが分からなくなる。」という状態である。

そこに、つけこむのが資本主義です。文化産業が、産業に都合の良い楽しみを提供し、かつて労働者の労働力を搾取すると言われていた資本主義が、いまでは、むしろ労働者の暇を削除しているのです。

なぜ、暇が搾取されるのか。それは、人が退屈することを嫌うからです。暇を得たが、暇を何に使えばよいか分からない。だから与えられた楽しみ、労働に暇を費やすことで、退屈を避けるのだと言うわけです。本書によれば、人が仕事をするのは、生きる糧を得るためというのもありますが、退屈を避けるためでもあるというのです。

退屈を避けるために、働く。この点については、すごく考えさせられました。

現代に生きる人が抱えるジレンマ

本書を読み終えて、もう一つ思い出したのは、高城剛のメールマガジンに掲載されていたこんな喩え話です。

世界のどこかにある何も無い南の島に、
スーツを着たセールスマンが最新の家電製品を売りにきました。
セールスマンは、島の人たちに「こんなに便利で素晴らしいモノはない! 文明の利器だ」と力説しましたが、
島民は聞く耳すら持ちませんでした。

そのうち、島民のひとりが「こんな所まできて、そんなに仕事してどうしたの?」と話すと、
セールスマンは「成績をあげて、出世したい」と素直に答えました。
すると島民は「出世してどうするの?」と聞くと、
セールスマンは「高給取りになりたい」と答えたのです。

そこで島民は「高給取りになってどうするの?」と聞くと、
セールスマンは「いっぱいお金をもらって、働かないで遊んで暮らすんだ」と答えると、
島民は「それだったら、もうやってるよ!」と答えたのです。

本書に書かれているのは、暇と退屈、お金と時間、といった現代を生きる人が抱えるジレンマについてです。なんのために働くのか。なんのためにお金を稼ぐのか。なんのために自分の時間を使うのか。僕自身、はっきりした答えもわからないまま生きています。

この巨大な渦の中心にいるのは、いったい誰なんだろう。
きっと、誰もいやしないよ。
今は風が止むのを待ったほうがいい。
その間に僕らはナイフを研いでおくべきだ。

(THE BOOM「手紙」より)

今度電話でもするよ

THE BOOMの「手紙」という曲は、こんな言葉で終わります。

誰かが僕を愛してくれるなら、
その全ての人を道連れにしたいと思っているんだ。
ロックンロールの限りなき、うねりの中へ。

君も一緒に行かないかい?
今度電話でもするよ

(THE BOOM「手紙」より)

暇と退屈。現代を生きる人々のジレンマを、これほど分かりやすく説明した本はないと思います。
本書が出版されたのは、2011年10月。3年前の書籍ですが、ぜひ読んだことがない人は、読んでみることをオススメします。

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