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書評「FIFA 腐敗の全内幕 」-サッカーから世界情勢を理解する-

   

国際サッカー連盟「FIFA」に対しては、長年贈収賄疑惑が噂されていました。FIFAのビジネスモデルは、ワールドカップなど連盟主催の大会のスポンサーを募り、放送権を販売することで主な活動資金を得ています。特にワールドカップは、世界中から注目をあつめる大会ゆえに、莫大な金額の放映権やスポンサー契約が結ばれ、特定企業や人物との不正なつながりが噂されてきました。2015年5月にアメリカ合衆国の司法省が、不正に関与したと見られる14人を組織的不正の罪で起訴します。そして、そのうち、7人をスイス当局が逮捕します。捜査は現在も続いていて、さらに逮捕者が増えるのではないかとも言われています。

FIFAの汚職は1974年にジョアン・アベランジェが会長に就任したところまで遡ります。アヴェランジェは、FIFAワールドカップを世界中から注目を集める大会へと成長させるのに大きく貢献しました。反面、金銭のやりとりを慣習化させ、FIFAという組織への汚職を常習化させたのも、アヴェランジェです。つまり、40年以上にわたって、FIFAでは公然と汚職が行われていた事になります。

FIFAはどのような手口で汚職を行っていたのか。なぜ40年以上も汚職が罪に問われなかったのか。この事件に関する情報を追いかけていると、幾つもの疑問が浮かんできます。本書「FIFA 腐敗の全内幕」は、20年以上にわたって、FIFAの汚職を追いかけ続けたジャーナリストによってまとめられた、FIFAという組織の腐敗の歴史をまとめた1冊です。

常習化していた汚職

本書を読んでいると、FIFAの汚職の手口は、決して巧妙とは言えません。メールで公然とキックバックや入金のやりとりがされていたり、個人口座やタックス・ヘイブンに直接入金が行われています。ただ、手がこんでいないが故に、いかにFIFAに汚職が浸透していたか、よく分かります。

本書を読み進める前に疑問だったのは、なぜこのタイミングで逮捕者が出たのかという事です。40年以上にわたって、汚職が行われていたということについて、各国の捜査局が全く知らなかったわけではありません。事実、何度か逮捕につながりそうな追求が行われています。しかし、その度に潰されています。お金の力によって。でも、2015年はそうなりませんでした。なぜでしょうか。

なぜアメリカが起訴したのか

FIFAの汚職事件について、僕が注目していたのは、起訴したのはアメリカ合衆国の司法省ということです。アメリカ合衆国内の銀行口座を介して、金銭のやりとりが発覚したことが、起訴に至ったきっかけでした。もちろん、本書の著者も起訴に至る証拠となる資料を提供したりしています。ただ、FIFAの本部があるのは、スイスです。なぜ、起訴したのはスイスではなく、アメリカなのでしょうか。

このタイミングで起訴・逮捕に至ったのは、複雑な要素が絡んでいます。例えば、逮捕直前に、FIFAでイスラエルを追放することをパレスチナが提案しました。(結果的に逮捕劇によって、決議案自体が退けられました)イスラエルに対する影響力が強いのは、アメリカです。パレスチナを支援しているのは、EUだと言われています。

ロシアのプーチン大統領は、今回の逮捕劇について、「アメリカはロシアワールドカップを阻止しようとしている」と強く批判しました。日本では面白おかしく取り上げられたこのニュースですが、プーチンは別に面白い事を言おうとして、発言したわけではありません。

そして、今回の逮捕劇に大きな影響を与えているのが、EUとスイスが同意した、金融機関口座の自動情報交換です。「非居住者による口座情報を、居住国の当局に対して自動的に提供できる」という取り決めは、スイスフランの暴騰にも少なからず関係があるのですが、この取り決めによって、スイス国内の銀行口座の秘匿性は著しく下がりました。パナマ文書による、タックス・ヘイブンを介した租税回避行為が公になったのは、この件と大きく関係していると、僕は考えています。

FIFAは国際統括団体故に、「各国の法律に準拠する必要はない」という一文が規約に盛り込まれています。この規約故に、汚職を知っていても、逮捕できないというジレンマが捜査当局にはありました。しかし、この金融機関口座の自動情報交換によって、FIFA幹部の居住国側の口座の取引から、逮捕することが出来るようになったのです。

EUへの影響力を強めようとするアメリカ

このような事実を踏まえて考えると、アメリカはFIFAの汚職を知りつつ、タイミングを見計らっていたということが読み取れます。なぜか。それは、スポーツを介したEUが持っていたサッカーの権益を、自国のものにしようという考えがあるからです。アメリカは、自国内のスポーツビジネスについては、すでに飽和状態にあります。レッドソックスを運営する投資会社がリバプールFCを買収したように、アメリカのスポーツビジネスの手法をEUに持ち込み、自国の利益としようとしています。そして、その流れを支えているのが、ナイキ、コカコーラといったグローバルカンパニーです。

特にナイキは、長年アディダスが持っているFIFA関連の権利を、自国のものにしようと躍起になっています。以前はブラジル代表を使って、大々的にプロモーションを行いました。(選手選考にも関与したと批判を浴びましたが)アンダーアーマーに追い上げられている現状を踏まえ、EU内でのブランドの影響力を高めたい。そんな思惑もあるはずです。つまり、FIFA汚職事件は、EUへの影響力を強めるきっかけを狙っていたアメリカが、政治の道具としてFIFAを利用したといえます。FIFAの役員は、自分たちは金銭受領によって、全てを動かしている気分だったかもしれませんが、実際はより大きな権力に踊らされていたというわけです。

FIFA汚職事件を読み解いていくと、アメリカとEUによる水面下の経済・政治戦争がいかに苛烈なものになっているか、理解出来ます。ゾッとします。FIFA汚職事件は、世界の経済・政治の問題が凝縮された事件なのだと、本書を読み終えて、改めて確信しました。本書はどんな経済書より、世界で起こっている問題や、現在の世界情勢を分かりやすく教えてくれます。

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