みんなが知らない日本の漁業の現状。書評「日本の魚は大丈夫か―漁業は三陸から生まれ変わる 」(勝川 俊雄)

本書「日本の魚は大丈夫か―漁業は三陸から生まれ変わる 」は、日本の漁業の危機的な状況を伝えるとともに、漁業の危機的な状況をどうしたら変えられるのか、日本の漁業の未来を変えるための提言が記された1冊です。

日本の漁業は危機的な状況にある

ご存知でしょうか。

日本のサバより、ノルウェーのサバの方が高い価格で取引されているということを。日本では衰退産業だと思われている漁業が、ノルウェーやチリのような漁業先進国では、成長産業として年々取扱高を増やしているということを。日本では年収100万円の漁師もいるのに、ノルウェーには年収1,000万円以上の漁師もいて、よい生活をしているということを。

本書を読み終わると、自分がいかに漁業について無知だったかに気付かされます。そして、日本の漁業がいかに危機的な状況にあるのかも。スーパーで魚を買って、食卓に魚が並んでいるのが、不思議なくらいです。

持続的に儲かる漁業の方程式

なぜ、日本の漁業がこんなに危機的な状況にあるのか。著者は、「持続的に儲かる漁業の方程式」として、以下の2点を挙げています。

  1. 漁獲を一時的なものでなく、持続させるために「十分な親魚を獲り残す」こと
  2. 利益を上げるために「獲った魚をできるだけ高く売る」こと

日本の漁業は、この2点が出来ていないことが、危機的な状況を招いた大きな要因なのです。本書によると「十分な親魚を獲り残す」という点についていうなら、日本を含む世界の主要漁業国が持っている漁船の漁獲能力は、自然の生産能力を大きく上回っているのだそうです。だからこそ、漁業が中長期的に成り立つためには、次世代を生産するのに十分な数の親を残せるように漁獲規制をする必要があるのです。

漁獲規制を行い、出来るだけ高く売るしか、漁業を経済的に発展させるには方法はないと著者は語っています。しかし、日本の漁業は、形が小さく、市場価値がない魚も獲ってしまうため、高く売ることが出来ないのです。自らの仕事で、自らの首を締めているとしかいえない状況が続いているのです。

他の産業でやっていることをきちんとやる

「持続的に儲かる漁業の方程式」を実現させるために、著者は2点の改革案を提言しています。

1点目は、「十分な親魚を獲り残す」ために、国が漁獲量を規制すること。漁師たちは、何の規制もなければ、本能的に目の前に魚があれば、獲ってしまうのだと思います。だからこそ、国が漁獲量を規制し、「十分な親魚を獲り残す」必要があるというわけです。

2点目は、「獲った魚をできるだけ高く売る」ために、獲った魚の価値を高める努力をすることです。漁師だけではなく、加工業者を含めた、水産業者全体で高く売るための努力をする。今までどんなお客様が魚を食べていたのか、どんなお客様がどんな魚を求めているのか、こうした他の産業で普通に行われていたマーケティングを、きちんとやる必要があるのだと言います。

この話を聞いて思い出したのは、「みやじ豚」の話です。「みやじ豚」は、神奈川県藤沢市の養豚業者を継いだ宮治勇輔さんが興した豚肉のブランドです。豚肉の美味しさをより多くの人に知ってもらいたいと考えた宮治さんは、週末に知り合いに声を掛け合って、バーベキューを実施。バーベキューでみやじ豚を食べた人の感想が口コミで広まり、みやじ豚は、直販だけでなく、高級料理店でも取り扱われるようになりました。

畜産業でも出来たことが、漁業で出来ないとはいえるでしょうか。魚は生物なので、実現は簡単ではないと思います。でも、ぜひこうした事例が増えて、漁業が活性化し、漁業をやる人の生活が豊かになる事例が増えて欲しいと思います。

なお、本書の第6章には「水産物の放射能汚染について最低限知っておきたいこと」というタイトルで、水産物の放射能汚染について書いています。僕が知るかぎり、水産物の放射能汚染について、最も分かりやすく書かれている文章だと思いますので、放射能汚染について気になる人はぜひ読んでみてください。

関連記事

食は人を表す。書評:熱風2013年9月号 特集「食品」
究極のポジティブシンキング。書評「ライフ・イズ・ベジタブル」
被災地に必要な地域ブランディングとは。書評「人口18万の街がなぜ美食世界一になれたのか―― スペイン サン・セバスチャンの奇跡」

関連商品