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書評「サッカー通訳戦記」(加部究)

   

サッカーの試合を観ていると、外国人監督の横で、監督と同じくらいのテンションで熱く指示を出している日本人スタッフの姿が目に留まることがあります。彼らは通訳です。サッカーに対する知識や、語学レベルの高さを評価され、監督、スタッフの意図を選手に正しく伝え、逆に選手の意図を監督やスタッフに伝える、コミュニケーションのプロです。そして、時には、外国人スタッフや選手に対して、慣れない日本の生活をスムーズに過ごせるようにするマネージャーのような役割を兼ねる事もあります。

本書「サッカー通訳戦記」は、「オシムの言葉」で有名になり、2017年シーズンからは愛媛FCの監督を務める間瀬秀一さん、2002年ワールドカップでフィリップ・トルシエの通訳を務めたフローラン・ダバディさん、長年ジーコの通訳を務めた鈴木國弘さん、川崎フロンターレで「ゴンさん」のニックネームで親しまれる中山和也さん、セレッソ大阪で「ガンジー」の愛称で親しまれる白沢敬典さん、といった10人の通訳にインタビューし、サッカーの現場で必要不可欠な存在になっている通訳という仕事について、どんな人が、どのような仕事をしているのかについて紹介している1冊です。

サッカーにおける言葉とは?

本書で最も印象に残ったのは、著者によるあとがきに書かれた、以下の文章です。長文ですが、引用させて頂きます。


草サッカー仲間との会話や、少年サッカーの指導スタッフ間での談笑で、時折きづかされるのだ。
「バイタルエリア?なに、それ」「クサビを入れる、ってどういうこと?」
こうした疑問符が、僕らの戒めになっている。お気づきの方がいるかもしれないが、専門誌なら当たり前のように頻出するFWやGKも、本書では各章で初めて登場する時は、フォワード、ゴールキーパーと表記している。
コレクティブ、アタッキングサード、デュエル、こんなものは持っての外で、スカパー!ならともかく地上波ではつうようしない(はずだ)。
こうした専門用語を解説者に平気で羅列させているディレクター(現場監督)は、どうなの?と思わず首を傾けたくなる。

通訳という仕事は、単に言葉を母国語に置き換える仕事ではありません。異なる言葉で話した意図が、正しく相手に伝えるのが仕事です。そして、通訳に限らず、専門的な言葉を理解しない人に対して、その人に分かる言葉で話し、理解を深めてもらうという場面は、どんな人も経験しているはずです。そんな時、相手の知識レベルが低いからといって、専門的な言葉で話してしまう人は、むしろ話している人自身の知識を疑うべきかもしれません。僕は、サッカーに関する記事や、「サッカーに関する知識がある」という方のツイートを読んでいると、本書のあとがきに書かれていた事を思い出してしまいます。

専門用語を用いるのは簡単です。もちろん、専門用語を使わなければ、表現できない事もあります。でも、本当に大切なのは、相手に意図を正しく伝える事です。専門用語が理解出来ない相手に対して、「○○とはこういうことだ」と後から説明するのを聞いていると、最初から説明すればよいのに、なんて思ってしまいます。

通訳とはコミュニケーションのプロ

本書は、通訳という仕事を選び、悩み、苦しみながらも、前向きに仕事に向き合う人々の姿が紹介されています。契約期間も短く、翌年の将来が保証されていないにもかかわらず、本書に登場する人物は皆前向きで明るく、読んでいると明るい気持ちになってきます。それは、彼らがコミュニケーションという事に対して深く考え、人と向き合う仕事をしている事と関係がある気がします。サッカーは、こうした熱い情熱をもった、裏方の人々によって支えられています。ぜひ読んでみてください。

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