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書評「サッカー上達の科学 いやでも巧くなるトレーニングメソッド」(村松 尚登)-スポーツの練習をする前にやっておくべき事がある-

   

「サッカー上達の科学 いやでも巧くなるトレーニングメソッド」は、FCバルセロナのカンテラでコーチを務めた著者が、日本に帰国後の指導経験も踏まえて、本当にサッカーの技術を向上させるためには、何をすればよいのか。どんな考え方でサッカーに取り組めばよいのかをまとめた1冊です。

スポーツの練習をする前にやっておくべき事

本書は、武井壮さんがテレビ番組で語ったこんな言葉から始まります。

スポーツの練習をする前に、やっておくべき事があるんです。それは、「自分の身体を動かす技術」を上げること。頭でやっていることと実際にやっていることは、ズレてしまう可能性があります。スポーツ選手がよく陥る”スランプ”の原因が、それなんです。

自分が真横だと思ったところまで腕を上げたのに、それがズレている。これが、アスリートにとっては大きな問題なんです。たとえば、ボールを投げるとき、自分で自分の腕を見ることはできません。同じように、打つときもバットを振る自分のフォームを見ることができません。スポーツをやっているときは、自分の視線をボールや相手選手に向けて、自分が動かしている腕や脚を見ずに自分の身体を動かしているんです。つまり、”自分の目では見ていないもの”を動かしている。だから、自分が思っている動きとズレてしまっているということは、かなり大きな問題なんです。

ズレている状態のままスポーツを習得するのと、しっかりした基準を覚えて、それから練習するのとではまったく違う。だから、自分の身体を思ったように動かすトレーニングをすることがいちばん大事なんです。

著者は動きを繰り返しトレーニングする練習を否定していた

サッカーが上達するにはどんなトレーニングをしたらよいか。著者はスペインや日本での経験を通じて、「自分の身体を動かす技術」を上げる事だという考えにたどり着きます。かつては、著者はドリブルしながらコーンの間をすり抜けたり、リフティングを「サッカーの技術を磨く練習ではない」と否定していました。しかし、著者は「自分の身体を動かす技術」を磨くためには、考え方次第では、こうした「ドリルトレーニング」と呼ばれる、単純なトレーニングが有効なのではないかと、考えるようになりました。

著者のように、スペインなど海外で指導経験があるコーチほど、ドリルトレーニングを否定し、複雑な状況を設定し、問題を解決させるようなトレーニングを好む傾向にあると、僕は感じます。ただ、問題を解決するためのトレーニングを積めば積むほど、矛盾するようですが、問題の解き方ばかり詳しくなり、選手個人の技術はあまり進歩しないということにならないかと、僕は思うのです。

ドリルトレーニングは、本書では「無意識に身体を動かす」ためのトレーニングとして、紹介されています。単純な動きを繰り返すことで、意識せずとも身体が動くようになる。軽視されがちなトレーニングですが、案外効果は無視できない気がするのです。

高い基準に基いて練習すれば、単純な練習でも技術は高まる

本書を読んで思い出したのは、川崎フロンターレの練習です。川崎フロンターレは風間八宏監督が就任後、個人の技術を向上させることで、チーム全体の能力を上げてきました。風間監督も「自分の身体を動かす技術」を高めることが、能力向上につながると考えている指導者です。

風間監督は、NewsPicksに掲載された中竹竜二さんとの対談で、以下のように語っています。

僕がまず言うのは、「目をそろえよう」ということです。チームのみんなで同じ基準を持ち、そこから自由な発想と成功を見つけていくのです。

たとえば、ボールを止める、蹴る、運ぶという定義は、最初は選手によって違います。でも、同じ認識を徹底して備えていくのがチーム。ボールをどうやって止めて、足下のどこに置くのか。個々がその認識を徹底し、みんなが同じ質、タイミングでプレーしようとすることが求められます。

そうやって個々が技術を高めることで、チームとしてもっと上を目指すことができる。互いにアイディアを出し合うことで、個人がチームとしてまとまっていきます。出発点として「目をそろえる」=「共通した技術へのこだわり」を持つことで、最終的にチームの意識が変わっていくのです。
NewsPicks「組織の中に隠れたら終わり。まずは「個」を打ち出せ」より

高い判断基準を基にトレーニングを行っていると、OKだと思っていたプレーが、実はOKではないと判断される事もあります。そうすると、2人1組のパス交換といった単純な練習でも、技術を高める事が出来るのです。風間監督が就任してから、川崎フロンターレのトレーニングを何回か見学しましたが、練習メニューは非常にシンプルです。中学校でもやっているような練習を繰り返し繰り返し行っています。

中竹:風間さんの発想を聞いていて、非常に極端だと感じました。反面、実際に練習で行うのは超基礎ですよね?
風間:超基礎しかやらないですね。
中竹:それがすごい。普通、発想はシンプルで、基礎を凝った方法でやるというケースが多いです。でも風間さんの場合、発想は極端で、練習はシンプル。
風間:原則さえ理解すれば、うちの選手にとって理解できないことはひとつもありません。ただ、それをやり続ける難しさがある。足下のどこにボールを置けばいいのか、それを難しいと感じる人もいます。
でも僕が言っているのは、別に魔法をかけろということではありません。ボールをどうやって止めて、どこに置いて、どうやって運ぶのか、その細部まで徹底的にこだわるだけです。それを普通のことと認めて、徹底できるか。だから僕はいつも、「技術は頭の中にある」と言います。それに気づくか、どうかです。
NewsPicks「スポーツは、1番うまい人のためにある」より

川崎フロンターレでは、自主練習の時間が必ず設けられています。選手個人個人が課題を把握し、自分の課題を解決するために、自主的に技術を高めるための練習を行うことが、選手を成長させる近道なのだと、風間監督は考えているのだと思います。当然、課題が把握できていなければ、何を練習してよいか分かりません。そんな選手もいると思います。でも、自分で課題を乗り越えていける選手は、時間はかかりますが、成長し続けることが出来ます。こうした地道な努力の積み重ねが、現在の川崎フロンターレのサッカーを支えているのです。

思い通りに身体が動かせること。これがスポーツにおけるパフォーマンスを向上させるのは、個人競技であっても、団体競技であっても変わりません。パフォーマンスを向上させる方法に、近道はありませんし、正解もありません。その事を教えてくれる1冊です。

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