サッカー選手の移籍に大きく影響する”所得税率”

2013/10/22

先日「メッシの脱税疑惑で考える、サッカー選手と税金とタックス・ヘイヴン問題」という記事を書きました。
サッカー選手は高額のサラリーをもらっていますが、一般市民同様税金を払う義務があります。所得税率は国によって異なるのですが、所得税率が選手の移籍に大きな影響を及ぼしていることは、あまり知られていません。以前は、外国人労働者に対する優遇措置を武器に、有力な選手を獲得している国もありましたので、分かる範囲で紹介したいと思います。

UEFA主要国の高額所得者向け所得税率

まず紹介したいのが、各国の所得税率です。
以下は、各国1部リーグでプレーする選手の年収に該当すると思われる範囲の所得税率です。

イングランド:年収£15万以上の納税者にかかる所得税の最高税率:50%
ドイツ:年収€25万以上:45%
スペイン:年収60万ユーロ(約8100万円)43%
イタリア:年収€7万5,000以上:43%
フランス:年収€15万以上45%
ロシア:13%
オランダ:年収€6万以上:52%
—–
(参考)
日本:年収1,800万円以上:40%
(JETRO Webサイトより抜粋)

これを見ると、イングランド(イギリス)は50%と他の国と比べて高額所得者への所得税率が高く、逆にロシアの所得税率は13%と安いことが分かります。

サッカー選手の税金はクラブが負担する

サッカーの所得税率を考える上でおさせておきたいのは、「サッカー選手の税金はクラブが負担する」という事です。公表されている選手の年収は「手取り」の金額であり、クラブは選手の年収+税金(+契約解除金(以下、移籍金))を、選手の獲得のために支払う必要があるのです。

選手の移籍のニュースを読んでいると、ついつい移籍金の金額が選手獲得に費やす経費の全てだと思いがちですが、税金や年俸やその他経費を負担していることを考えると、クラブが選手獲得にかけている金額は、安い金額ではありません。したがって、税金を負担する立場にあるクラブにとっては、所得税率はクラブ経営を左右する重要な要素なのです。

そこで注目すべきは、ロシアの所得税率です。ロシアの所得税率は年収にかかわらず13%なので、選手獲得にかけられる経費が、他の国のクラブに比べて低いことがわかります。ただし、ロシアのクラブの条件がよいため、ロシアのクラブに一旦移籍すると、他の国のクラブはロシアのクラブを納得させる好条件がなかなか提示できず、移籍したい選手がなかなか移籍できない、というケースも発生しています。本田圭佑の移籍がなかなか成立しないのは、こうした理由もあるのだと思います。

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リーガエスパニューラに多大な影響を与えた”ベッカム法”の廃止

2009年11月、スペイン議会は外国人の高額所得者に対する税制優遇を撤廃すると発表しました。通称”ベッカム法”と呼ばれていたこの税制優遇適用前は、外国人(10年未満のスペイン居住)で年俸60万ユーロ(約8000万円)の選手の所得税率は24%だったのですが、撤廃後はスペイン人選手同様に43%の税率が適用されるようになりました。(ちなみに、クリスティアーノ・ロナウドは適用前の加入だったので、対象外)この法律改定は、リーガエスパニューラの勢力図に多大な影響を与えました。

ベッカム法撤廃前のスペインは、優遇されている税率を武器に他国から力のある外国人選手を獲得することが出来ていました。したがって、リーガエスパニューラのレベルが高まり、UEFA主要大会でも好成績を挙げると共に、リーグ全体のレベルも高まりました。

しかし、ベッカム法撤廃後は、税率が他国とほとんど変わらなくなったので、有力な外国人選手を以前ほど獲得することが出来なくなりました。さらに、スペイン国内の財政危機の影響を受け、確固たる財政基盤や支持層を抱えているレアル・マドリーやFCバルセロナ以外のクラブは、補強どころかクラブを維持するだけで精一杯になってしまいます。有力な外国人の不在を補うための若手選手も、需要に対して供給が追いついていないという印象です。

近年のリーガエスパニューラは、レアル・マドリーとFCバルセロナの2強と他のクラブとの差が圧倒的に広がってしまい、リーグとして面白くなくなっていると言われていますが、実は面白くなった理由には、税金が関係しているというわけです。

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税金優遇を武器に選手を集めるASモナコ

今年の移籍市場で積極的な補強を行なっているのが、今年フランスリーグ リーグ・アンの1部に昇格したASモナコです。ポルトガル代表の司令塔モウチーニョ、コロンビア代表のファルカオ、ハメス・ロドリゲスといった選手を獲得しただけでなく、FCバルセロナの正GKでもあるビクトール・バルデスにもオファーを出していました。(バルデスは残留を表明)

ASモナコはリーグ・アンに所属しているものの、本拠地があるのはモナコ公国なので、選手の所得税は無税になります。以前のモナコ公国には、特定のスポンサーがついていなかったためチーム予算が少なく、無税のメリットをチーム強化に活かせていなかったのですが、今年からオーナーになったロシア人の富豪が積極的に補強資金を投入することで、無税のメリットを活かして、他のクラブチームより資金効率のよい補強が可能になったのです。

税金というテーマとサッカーの関わりについて紹介しましたが、現代社会で起きている出来事は、何らかの形で社会に影響を及ぼしています。サッカーのニュースを耳にした時、どんな出来事が要因になっているのかを深く掘り下げていくと、よりサッカーの魅力を知ることができるはずです。

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