書評「footballista 2017年4月号「「ポジション」多様化時代へようこそ」」

2016-17年シーズンのヨーロッパのサッカーを観ていると、2つの事に気がついた。1つ目は、「複数のフォーメーションを使い分けるチームが増えている」事です。例を挙げると、チェルシーはアントニオ・コンテが監督に就任してから、攻撃の時は、3-2-5、守備の時は5-4-1というフォーメーションで戦う。攻撃の時と守備の時のフォーメーションを変え、プレミアリーグの多くのチームが採用している、4-4-2フォーメーションとの”ズレ”を作ることで、優位に試合を進めている。チェルシーだけでなく、固定したフォーメーションで戦う印象がある、FCバルセロナは試合によっては、昨シーズンまで戦っていた4-3-3のフォーメーションではなく、3-4-3のフォーメーションで戦うこともある。

2つ目は、「従来起用されていたポジションと違うポジションで起用される選手が増えている」事です。例を挙げると、今シーズンの長谷部誠は、試合によっては”リベロ”と呼ばれる、5-4-1の「5」の中央のDFとして起用されてます。サイドバックで起用されていた酒井高徳は、ハンブルガーSVではボランチで起用される事もあります。FWもしくは右MFで起用されてきた浅野拓磨は、シュツットガルトでは、4-3-3の「3」のMFとして起用される事もあります。日本人選手だけでなく、FWで起用されてきたクロアチア代表のマンジュキッチが左MFで起用されたり、右MFで起用されてきたベルギー代表のメルテンスが中央のFWで起用されたりと、従来起用されてきたポジションと違うポジションで起用される選手が増えてきています。

この事象の背景には、どんな考えがあるのか。現在のヨーロッパはどうなっているのか。2017年04月号のfootballistaは「「ポジション」多様化時代へようこそ」と題して、現在のヨーロッパサッカーの潮流を読み解こうとした1冊です。

プレーモデルを実現させるためのポジション変更

そもそも、選手のポジションを規定する要因は何か。本書の冒頭で、トリノの戦術分析担当であるレナート・パルディは以下のように語っています。

ポジションを規定する大きな要因は2つあるということです。1つは、選手自身の資質や特徴。これはそのポジションの解釈、すなわちどのように振る舞うことができるかを規定する要因です。1つのポジションの解釈は、そこでプレーする選手の資質や特徴によって大きく変わってきます。(中略)
もう1つの要因は、監督が規定するプレーモデルです。プレーモデルはチーム全体としての戦術と振る舞いを規定するので、そこからそれぞれのポジションに求められる機能やタスクも必然的に決まってきます。この2つを抜きにして、ポジションや選手起用の話をすることは不可能です。

僕が注目したのは、「プレーモデル」です。僕はプレーモデルは、「コンセプト」という言葉でも置き換えられると思います。どんなサッカーがしたいのか。どう勝ちたいのか。どんなチームでありたいのか。このプレーモデルを実現させるために、対戦相手を踏まえて、勝つための戦術を組み立てていきます。そして、戦術を実行するために、時には選手のポジションを変えた方がよいと思ったら、選手のポジションも変える。こんな試行錯誤の結果、「ポジションの多様化」が起こっているのだと思います。

お前、試合中に右サイドでプレーしたことはあるか?/h2>
ポジション変更の話でよく思い出すのは、名古屋グランパスの風間監督が、筑波大学の監督時代にある選手に右サイドバックでプレーしろと言ったら、その選手は「右サイドバックなんてやったことありません」と答えたそうです。その答えを聞いた風間監督は、「お前、試合中に右サイドでプレーしたことはあるか?」と聞きました。ある選手が「あります」と答えると、風間監督はこう語ったそうです。「だったら、その時間が増えるだけだ」。

もしかしたら、戦術、フォーメーション、ポジションといった枠にあてはめて考えようとしているのは、もしかしたら僕のように外からサッカーを観ている人たちなのかもしれません。現場で戦う人たちは、相手との競争、選手同士の競争に勝つのに精一杯です。細かい事に気にしている余裕はないのかもしれません。試行錯誤の結果、従来の考えを捨て去り、新しい潮流に柔軟に乗ることが出来なければ、流れの激しいヨーロッパサッカーの現場で戦っていくことなんて、出来ないのかもしれません。ヨーロッパサッカーの現在を知るのに、とてもよい1冊です。

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