書評「footballista 2017年5月号「サッカーとメンタルのはなし」

最近、サッカー選手が「メンタル」という言葉を口にするようになりました。日々の練習で技術を磨き、身体をいかに鍛えても、本人の気持ちが沈んでいて、元気がない状態なら、上手くはいきません。ただでさえ、サッカー選手は、心揺さぶられるものが多い職業です。何万人もの人が観ている前に立つだけでも大きなストレスなのに、お金、名声と批判、過酷な競争、厳しい鍛錬と、いかにストレスに向き合い、自分の心をベストの状態にもっていくか、現代のサッカー選手に求められているスキルだと、僕は思います。

そして、現代のサッカー選手のかかえるストレスを考えると、こうしたストレスは1人で解決出来るものではありません。メンタルコーチ、心理学者といった専門家を個人的に雇う選手もいますし、メンタルコーチ、心理学者といった専門家を帯同させているチームもあります。2014年ブラジルワールドカップで、ドイツ代表がメンタルの問題の専門家を帯同させていたことが話題になりました。技術、体力といったコーチだけでなく、メンタルの問題にいかに対応するか、現代のサッカーチームには求められています。

2017年05月号のfootballistaは「サッカーとメンタルのはなし」と題して、「環境適応」「メンタルコンディショニング」「キャプテンシー・リーダーシップ」「モチベート術」「認知と判断」といったテーマで、サッカーとメンタルに関する最新情報を紹介している1冊です。

メンタルとデータは似ている

本書を読み終えての僕の率直な感想は、データに関する取り組みと、メンタルに対する取り組みは似ていると思いました。なぜそう感じたかというと、サッカーの技術、体力を鍛えるトレーニングというのは、ある程度出尽くしているからだと思います。道具の発展によって、より細かい粒度でトレーニングを組み立てたり、コントロール出来ることはあっても、トレーニングメニュー事態は劇的に変わることは、ルールが変わらない限りないと思います。

しかし、データやメンタルといった要素は、昨今研究が進み、今まで目に見えなかった貢献度が、少しずつ目に見えるようになりましたし、メンタルの影響度をデータで測るということも出来るようになってきました。そして、技術、体力のアプローチにある程度限界を感じていた現場の人々が、メンタルやデータといった今までと違う分野にアプローチすることで、少しでも現状を改善させようと考えても不思議ではありません。

悩む人は増えていない

僕自身がメンタルについての本をよむときに思い出すのは、心理学者の北山修さんのお話です。北山修さんは「最近、悩む人が増えた」という言葉に対して、「悩む人は増えていない」と語っていました。では何が違うのかというと、「悩む人が行くところがなくなった」というのです。北山さんのお話によると、例えば「駅裏」という言葉が昔はありました。駅の裏の暗い路地には、人が寄り付かない反面、悩みや辛い気持ちをかかえた人が訪れ、悩みを共有したり、吐き出したりする場所でした。もしかしたら、教会やお寺といった場所も、そんな効果がある場所なのかもしれません。

しかし、今はそんな場所はありません。駅に「表」も「裏」もありません。心の問題をかかえた人が行き場をなくし、表に出てきているのです。そして、表に出てきている人に対して、以前は「裏」で対応していたような対処法を、「表」のやり方で対応しているのが、心理学者やメンタルコーチのメソッドであり、コーチングの手法だったりするというのは、考えすぎでしょうか。

ただ、今後メンタルを含めた「頭の中」をいかにコントロールするか、どう能力を引き出すかという取り組みは、もっと注目されると思います。既に、アメリカでは頭に電極をつけて、能力を引き出す取り組みが行われている程です。今後「頭の中」に対するトレーニングやアプローチは、どのような発展をみせるのか。読んで損はない1冊です。

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