第96回天皇杯準決勝 川崎フロンターレ対大宮アルディージャ レビュー「Focus on now.Make the right play.Lead to victory」

第96回天皇杯準決勝、川崎フロンターレ対大宮アルディージャは1-0で川崎フロンターレが勝利。決勝戦進出を決めました。

上手くいってないようで、悪くはなかった前半

この試合の前半15分までは、大宮アルディージャのペースで進みました。大宮アルディージャは4-4-2のフォーメーションで守ります。守備の時、FWの江坂とムルジャは、谷口とエドゥアルドにボールを奪いにいくだけでなく、エドゥアルド・ネットと中村に対しても、背後から挟み込むようにボールを奪いに行き、自由にプレーさせません。エドゥアルド・ネットには横谷、中村には大山がマークし、大久保が下がってきたら、大山が中村を捨ててマークにいきます。ただ、大久保が下がったら中村が前に行くというようなポジションチェンジはしないので、大山がマークについても問題ありませんでした。

また、小林にはセンターバックのうち1人がマークにつき、小林が足元でボールを受けようとする時は、距離を詰め、積極的にボールを奪いに来ました。登里がなかなかボールを上手く受けられなかったこともあり、前半15分までは、川崎フロンターレはなかなか思うとおりに攻める事が出来ませんでした。

また、大宮アルディージャは攻撃時に川崎フロンターレのどこを狙うのか、はっきりしていました。大宮アルディージャが狙っていたポイントは2つあります。1つ目は、田坂が守る右サイドを泉澤でドリブルで崩しに行くこと。2つ目は、谷口の背後です。あまり知られていない弱点ですが、谷口は背走する時のボールの処理が上手い選手ではありません。大宮アルディージャは、明らかに谷口の背後を狙って、ムルジャとマテウスを走らせて、1回チャンスを作られてしまいました。

攻撃時の相手の守備を外すこと、そして谷口の背後を狙ってきている相手の狙いに対応するため、川崎フロンターレは前半15分過ぎに4-4-2のフォーメーションに変更します。この変更によって、大宮アルディージャのペースから、五分五分の展開に持ち込む事が出来ました。

まず、センターバックを右に谷口、左にエドゥアルドに変更します。谷口の背後をマテウスとムルジャに狙わせていたのですが、エドゥアルドに代ったことで、狙いづらくなりました。そして、川崎フロンターレがボールを持った時、エドゥアルド・ネットがエドゥアルドの左隣りに下がってくるようになり、エドゥアルド・ネットをマークしていた横谷が、自分のポジションを捨ててマークに行くのを躊躇し、マークに来なくなりました。ただ、まだ中村が大山に捕まっていること、江坂とムルジャの挟み込むような守備は機能していたため、なかなか中央から攻め込む事が出来ませんでした。

そこで、川崎フロンターレは普段とは違う攻め方を選択します。普段なら強引に中央にいる選手に対してパスを出すのですが、この試合では大宮アルディージャのDFの背後にパスを出していました。このパスの狙いは、大宮アルディージャの守備を外すこともありますが、大宮アルディージャに「無駄走り」をさせることだったと思います。

前方向への矢印を出していた大宮アルディージャの選手に対して、後方向に走らせるパスを出すことで、大宮アルディージャの選手たちの体力を消耗させること。これが狙いだったと思います。大宮アルディージャのDFはボールをつなぐのが得意なプレーヤーが少ないため、一度相手にボールを奪われても、再び奪い返したり、相手の攻撃に時間をかけさせることで、失点するリスクも軽減させていました。

この試合の前半は、川崎フロンターレが普段披露しているような、パスを数多くつないで、相手の守備を揺さぶるような攻撃が出来ていなかったため、「出来が悪い」と感じていた人もいたかもしれません。ただ、僕はそうは思いませんでした。この試合のような展開で、愚直にパスをつなごうとして、相手の術中にハマっていたのが、これまでの川崎フロンターレでした。ただ、この試合は相手の出方を見極め、グラウンド状態もパスをつなぐのに適していないと判断し、違う攻撃の仕方に切り替えていました。そして、この前半の選択が後半の展開につながっていきます。

仕留めるために必要な手を打った後半

後半開始直後、大宮アルディージャが攻撃する時間が長く続きました。ハーフタイムに、川崎フロンターレの対応を踏まえて、大宮アルディージャはマークとやるべきことを整理したのだと思います。川崎フロンターレに対して再び積極的にボールを奪いに行くようになり、奪ったボールを江坂がDFとMFで受けて、チャンスを作り出しました。泉澤がポストに当てたシュートを、ムルジャが決めていれば違った試合展開になったと思います。このプレー以降、大宮アルディージャはチャンスをなかなか作れなくなっていきました。

川崎フロンターレは、後半15分に登里に替えて、大島を入れます。中村を大島とエドゥアルド・ネットの前、小林を右MFに配置し、エウシーニョを右DFに配置する、4-2-3-1のフォーメーションに変更します。驚いたのは、右DFでスタメン出場していた田坂を、左MFに移した事です。これは、田坂を活かそうというよりは、小林と中村の状態を見極めたかったからだと思います。この試合の小林は、中央でも、背後でもなかなかボールを受けることが出来ていませんでした。また、中村は大山と横谷のマークに苦しみ、なかなか良いタイミングでボールを受けることが出来ていませんでした。動きの量も少く、コンディションも良くなかったのだと思います。

ただ、2人ともエース格の選手です。どちらかを交代するとしても、慎重に見極めたい。次に交代出場させるとしたら三好なのですが、三好を入れる時は、勝負を決めにいく時です。まずは、中村はポジションを移して守備の負担を軽くし、相手にとってマークしずらい位置に移動させる。小林はサイドに移して、ボールを受ける動きが改善されるか見極めよう。そんな考えが、田坂のポジションチェンジにつながっていたのだと思います。

大島が入った後、大宮アルディージャは家長を入れ、江坂が右サイドに移ります。ただ、この交代以降、江坂がサイドに移ったことで、ボランチのエドゥアルド・ネットと大島に対する守備が甘くなり、少しずつ川崎フロンターレが中央で前を向いてボールを受けられるようになります。中村へのマークも緩くなりはじめ、中村を経由した攻撃が増えていきました。ただ、小林は右サイドより中央でボールを受けようと動いてしまい、中央でボールを受けても、ボールを正確にコントロールすることが出来ませんでした。したがって、小林を交代させたのは必然だったと思います。そして、交代した三好がファウルを受けて得たフリーキックからコーナーキックの流れで決勝点を奪いました。狙い通りだったと思います。

ギリギリに見えて余裕を残した勝利

この試合、風間監督は2人しか交代枠を使いませんでした。大宮アルディージャは失点後に菊池をFWの位置に上げていたので、板倉を入れて、菊池をマークさせるという選択肢もありました。しかし、風間監督は交代枠を使いませんでした。これは、延長戦を見越してだと思います。同点ゴールを奪われたとき、森本や中野を入れて、もう1点とりに行く。そんな場面に備えて、慎重に手を打ったのだと思います。

僕は川崎フロンターレが追い込まれているように見えて、実はある程度余裕をもって試合を進めていたのではないかと感じています。交代枠を1人残して試合を勝ちきったところから、僕はそう感じました。この試合のプレビューのタイトルは、「Focus on now.Make the right play(今に集中しろ。正しいプレーをするんだ)」でした。このタイトル通りのプレーをしたことが、勝利につながったと思います。

鹿島アントラーズに心理戦を仕掛けられるか

天皇杯の決勝は、チャンピオンシップの準決勝で敗れた鹿島アントラーズとの対戦です。鹿島アントラーズは、大宮アルディージャがやってきた事を、さらにいやらしく、徹底してくると思います。また、立ち上がりにガツンとファウルになってもいいくらい身体をぶつけにくるような守備をして、相手をビビらせるような心理戦も仕掛けてくるはずです。

むしろ、こうした心理戦を仕掛けてくる事を前提で、川崎フロンターレが逆に相手に心理戦を仕掛けてきたら面白いと思います。小笠原を中村が思いっきりけずるくらいのファウルを開始早々に出来たら、面白い決勝戦になる気がします。僕の経験則ですが、心理戦を仕掛けるのが好きな相手は、仕掛けられるのには慣れてないものです。

2016年シーズンもあと1試合。3年間続けてきたプレビュー・レビューもあと1試合です。どんな決勝戦になるか、楽しみです。

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