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契約社会に残る「人の想い」が生み出す絆。書評「とても気が重く、とっても大切なプロモーション」(天野春果、いしかわごう)

      2014/06/17

本書「とても気が重く、とっても大切なプロモーション」は、川崎フロンターレが毎年訪れる「選手たちとの別れ」をどのようにプロモーションしているかを書いた1冊です。ちなみに本書は、川崎フロンターレのファン感謝イベント(ファン感)で、限定商品として販売された本なので、書店では手に入りません。僕もファン感に参加して買いました。

川崎フロンターレでは、「退団する選手はクラブの卒業生」という考えを持っているそうです。川崎フロンターレに加入した選手は皆、「川崎を元気にしたい」「サポーターの笑顔をつくりたい」という同じベクトルを持った同志だと思っている。だからこそ、同志が卒業する時はきちんと選手への想いを伝えて、送り出そう。そう考えているそうです。

SPECIAL THANKS VTR

選手に想いを伝える手段は、2つあります。

1つ目は、「SPECIAL THANKS VTR」です。別名「煽りVTR」とも言われているそうで、その選手への想いを表現したメッセージ映像を、等々力陸上競技場の大型ビジョンや、年末年始に実施する「川崎フロンターレ展」で流しています。この「SPECIAL THANKS VTR」がサポーターが見たらグッと来る内容になっていて、本当によく出来ています。

「SPECIAL THANKS VTR」は、まず選手のイメージを具体化するための「キーワード」を見つける作業から始まります。「キーワード」を見つけるのに役に立つのが、川崎フロンターレのWebサイトに掲載されている「ピックアッププレーヤー」というコラムと、選手のアンケートです。これを熟読することで、選手がどんなことを考えているのか把握し、「キーワード」を見つけます。

「キーワード」を基に、選手の写真を選びます。写真はオフィシャルカメラマンの写真だけでなく、長い間サポートしているサポーターから集めた写真も使います。

そして、「SPECIAL THANKS VTR」を作るのに重要なのは、「曲」選びです。いかに「キーワード」と「写真」が伝わる曲を選ぶか。それこそ何百回も聴いて、選曲するのだそうです。選曲中は、その選手への想いが溢れ出てしまい、泣きながら作業することもあるそうです。

こうして、手間暇かけて選んだ「キーワード」「写真」「曲」を編集し、想いのこもった「SPECIAL THANKS VTR」が作られます。

選手送別会

2つ目は、「選手送別会」です。「選手送別会」には、クラブが主催するものと、サポーターが主催するものがあります。通常どのクラブでも実施しているのが、クラブが主催する「選手送別会」です。自らの意志で対談を選択した選手に対して、クラブがホームゲームの試合終了後に、選手からサポーターに対してメッセージを伝える場を設けています。

もう1つのサポーター主催の「選手送別会」とは、文字通りサポーターが企画・運営する「選手送別会」で、契約満了などで退団する選手に対して、サポーターが選手に感謝の意志を表明するための場です。クラブから契約満了という形で退団する選手に対して、クラブ主催で送別会を行うのは難しいですが、サポーター主催なら大きな問題にはなりません。こうした場を、サポーターとクラブが連携して作り上げているところが、川崎フロンターレの強みだと思います。

契約社会に残る「想い」

プロサッカーは契約社会です。選手が「チームから必要ない」と言われた場合、選手は黙ってチームを去るしかありません。契約社会なのだから、選手との関係はドライであるべきだという考えもあるでしょう。実際にそうしているクラブもあります。ましてや、チームを去る選手に、手間をかけたイベントやVTRを作る必要があるのか。そういう考えもあるでしょう、しかし、川崎フロンターレはそうではありません。

川崎フロンターレがこのようなプロモーションをするのは、「退団する選手はクラブの卒業生」という考えを持っているからです。「必要なくなった選手」ではなく、「クラブの卒業生」。卒業生だからこそ、学校の卒業式同様に、相応の準備をして、想いを込めて送り出す。選手との関係を繋ぐのは「契約」ではなく「想い」。サッカーの世界はとかくお金や契約で物事が動きがちですが、本当に重要なのは、人の「想い」であるはずです。

そして、「想い」を伝え合うことで生まれるのが、人と人との絆です。絆が生まれることで、お互いの関係は特別なものになります。川崎フロンターレの別れのプロモーションは、そこを目指しているのです。

川崎フロンターレの「別れのプロモーション」は、プロサッカーの世界で軽視されつつある、人の「想い」がいかに大切で、強いものなのかを、伝えてくれます。本書は、限定販売するにはもったいないくらいクオリティの高い1冊です。ぜひ、機会があったら読んで欲しいと思います。

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