天才の育て方-丸山茂樹はどのように育てられたのか-

いつの世にも、どんな分野にも「天才」と称される人がいます。自分たちの価値観、あるいは想像から外れた人の事を「天才」とよぶのであれば、そんな「天才」はどのようにしてうまれるのか。その事を解き明かそうと試みたのが、吉井妙子さんの著書「天才は親が作る」です。

「天才は親が作る」には、10人のアスリートの親たちのインタビューが収められていますが、そこには数多くの共通点があったといいます。親たちは特殊な才能ではなく、どこにでもいる平凡な親ですが、子供に対する愛情のかけ方や接し方がちょっとだけ違ったというのです。

そこで、「天才は親が作る」で取り上げられているアスリートのエピソードから、親たちは「天才」と呼ばれる人物をどのように育てたのか紹介します。今回はプロゴルファー丸山茂樹のエピソードです。近年は、石川遼や松山英樹といった若手プレイヤーがゴルフ界の人気を牽引していますが、それまでゴルフの人気を牽引してきたのは、丸山茂樹です。

プロゴルファーにしようという意識で息子を育てる

「マルちゃん」の愛称で、ゴルフ愛好者以外にも多くのファンを持つ丸山は、父親の芸術作品とも言っても良いほど、丁寧に、時間をかけ、愛情を注ぎ、お金を費やし、一時も目をそらすことなく、育て上げられました。
丸山は、尊敬する人の名に父を挙げます。2002年のインタビューでは、以下のように語っています。

おやじの教え方は上手かった。
「練習を休もうかな」と言うと、
「休め、休め。でもな、ゴルフというのは1日休むと(感覚が戻るのに)2日かかる。
2日休むと4日かかる」とやんわり言われる。
なんだ、休めねえな(笑)と。
(中略)
世の中には「おやじを抜いた」とか言う人がいるけど、
僕にはありえないよね。

丸山の父親は、子供の頃からプロゴルファーにしようという意識を持って、丸山に接していました。松坂やイチローの父親が子どもの成長過程で気づいたことを、丸山の父親は既に知識として持っていました。そして、それを丸山に投入しました。それが、他の選手の親たちとは大きく違っているところです。丸山の父親は、2人の息子の父親になった時、自分の人生の最大のテーマは「男子たるもの、息子をして世の中でどうやって人生を送らせたらよいのか」だったそうです。

知識がないと人生も切り開けない

丸山の父親は11人の兄弟がいましたが、父親が4歳の時に亡くなったため、当面の生活に追われ、自分の人生を考える余裕はなかったそうです。出会った人からは「プロゴルファーも夢じゃなかったのに」と言われたそうですが、そのために何をすればいいのかという方法論がまるで分からなかったといいます。知識がないと人生も切り開けない。自分の子どもにはそんな思いはさせたくなかったのだといいます。

ゴルフの真似事をしょっちゅうやる息子を見て、「息子はゴルフで飯が食える」と確信した父親は、身体が柔らかい子どものうちに、関節や靭帯の可能性をひろげてやる運動をさせて、持って生まれた身体の不足分を補おうと、四股を踏ませ、股割りをさせました。柔軟性をつけさせるには相撲界の稽古をヒントにしたのです。

真面目であることと正しいことは違う

丸山は勝負師に必要な負けず嫌いと向上心を、幼いころから持ち合わせていたそうです。母が自転車で兄を送って行く時は、丸山は買い物かごに乗っていたのですが、車に追い抜かれると「追い抜け」と買い物かごから激を飛ばしたそうです。車の助手席に載せても「よその車に抜かれちゃだめ」と、運転する父親に文句を言ったそうです。しかし、丸山の父親は「負けず嫌いというのは、何をする上でも自分を引き上げる基本的な精神。摘み取らないように大事にしたい」と考え、よその車に負けるなと言われれば、アクセルを踏んだそうです。

丸山は幼稚園のお遊戯の時間になると「面白くない。女の子がやってればいいんだ」と言い、虫採りの時間には「僕は虫のいる場所をたくさん知ってる。自分で採りに行くからいいんだ」とさっさと家に帰ってきたそうです。一般的な親なら、なんとか子どもを幼稚園に行かせようと苦心しますが、丸山の父親は違いました。息子は面白い発想をしていると感心し、こう考えたそうです。

真面目であることと正しいことは違うんです。
この区別を間違えちゃいけない。
物事は正しいほうがいい。
僕は息子の言っていることは正しいと思ったので、
行きたくない幼稚園に無理に通わせるのは、やめました。

高校を選択する時、多くの高校から推薦入学の話がきたそうです。父親はゴルフに力を入れている高校を勧めたそうですが、丸山は普通高校への進学を望みます。丸山の言い分はこうだったそうです。

熱心に勧誘してくれるほうが僕は恐い。
ゴルフ推薦で入学すると、僕も生身の人間なので、
もしゴルフができなくなった場合、身の置き場がなくなっちゃう。

中学生の時点で、これほどしっかりした考えを持っていることにも感心しますが、それも父親が幼い頃から子どもの感性を傷つけないように育ててきたからだと思うのです。

子供を育てるために、親も学び続ける

丸山の父親は、3歳でゴルフの基本や面白さを教えたものの、その後は一切ゴルフクラブを握らせなかったそうです。骨格筋が出来上がってないうちに負荷の運動をさせたくない、という配慮からでした。この間、父親は一流選手に育てるために、ありとあらゆる文献を読みます。

この頃はコーチング理論とかコーチ学という学問が今ほど一般化されていた時代ではないので、父親が読んだのは一子相伝の伝統芸能に関するもので、囲碁、将棋、歌舞伎、能など。あるいは中世ヨーロッパお受けの帝王学から歴史、経済、人類学、宗教、哲学、儒学、地質学などの書物を読んだそうです。しかし、丸山の父親は勝負師のバイブルと言われる宮本武蔵の「五輪書」は読まなかったそうです。「宮本武蔵は天才で、凡才を育てるのに、天才の発想とか考え方はかえって危険」だからと考えたからなのだそうです。

子供を育てるのが第一

丸山の父親は、丸山が9歳になった頃から、仕事を早めに切り上げ、3時半から4時には自宅に戻り、息子と毎日のようにゴルフ練習場に向かったそうです。当時、父親は都内で7人の従業員を雇いながら道路関係の出版社を経営していたが、仕事より子供との時間を優先させたそうです。

僕にとっては子供を育てるのが第一だから、
儲かるとか儲からないとかは、どうでも良かった。
仕事は、飯を食うための手段であって、
ゴルフが出来、週末に家族でどこかのレストランに行ける金さえあれば、
それ以上稼ぐ必要はない。
(中略)
何度も言うけど、僕の人生にとっては仕事より子供のほうが大事なんだから

丸山の父親は、毎日学校から帰ってくる丸山を車に乗せて、ゴルフ場に言っては手ほどきをしました。仕事そっちのけで息子のゴルフレッスンに夢中になっている父親を、近所の人や仕事先の人は「親ばか」と陰口を叩いたそうです。しかし、父親は「上等じゃねえか」とすら思ったといいます。

「弱い者いじめするな」「他人に迷惑をかけるな」

丸山の父親は、ひたすら褒めて伸ばしたそうです。子供の才能を本当に伸ばそうと思ったら、面白がるような練習を考えるように努力し、どうしても叱らなければならないときは、三つも四つも良い所を挙げて、「ただし、これをこうすると、もっと良くなる」という言い方をして、子供を正すようにしたそうです。

また、枠にはめて育てようとはしなかったものの「弱い者いじめはするな」「他人に迷惑をかけるな」の2点だけは、事ある毎に言い聞かせてきたそうです。こうしたことを言い聞かせ続けた結果、大学の後輩がプロデビューした時、後輩の父親に「丸山先輩に学生時代に大事にしていただいた」と丸山の父親はお礼を言われたそうです。

親は人生の第一を仕事にするのか、子育てにするのか、見極めなければならない

丸山の父親は、自らの子育てを振り返って、こんなことを語っています。

僕は、息子をゴルファーで成功させようと時間をうんとかけたけど、
親とすれば人生の第一を仕事にするのか、子育てにするのか、
見極めなければならないだろうね。
中途半端が1番いけない。子供が不幸でしょう。
(中略)
名選手、名監督にあらず。
僕は素人だから良かったんだと思います。
常識にとらわれることなく、その都度その都度一番良い方法を選択出来ました。
(中略)
僕は幸せものだと思いますよ。60歳を過ぎても、まだ勉強しなきゃならないんだから。

丸山茂樹の育て方から学べること

  • 知識がないと人生も切り開けない
  • 子供を育てるために、親も学び続ける
  • 子供の感性で判断した正しいことを尊重する
  • どうしても叱らなければならないときは、三つも四つも良い所を挙げてから正す。
  • 親は人生の第一を仕事にするのか、子育てにするのか、見極めなければならない

関連記事

天才の育て方-清水宏保はどのように育てられたのか-
天才の育て方-イチローはどのように育てられたのか-
天才の育て方-松坂大輔はどのように育てられたのか-

関連商品