編集者の時代に現れた新たなクリエイター。書評「本の声を聴け ブックディレクター幅允孝の仕事」(高瀬 毅)

2014/07/22

なぜ、人は本屋に足を運ぶのでしょうか。

買いたい本があれば、たいていの本はAmazonで買えます。その事が分かっているのに、人は本屋に向かう。僕もそうです。なぜだろうか。

それは、予想もしなかった本や雑誌に、偶然出会いたいからだし、本棚に並んでいる本を、「立ち読み」という名の”つまみ食い”をすることで、本当に自分が欲しい本や雑誌を見定めたかったりするからです。こういう楽しみは、Amazonでは味わえない。Amazonでは”つまみ食い”は出来ないからです。

訪れた人に、本を“つまみ食い”させるには、本棚に魅力的に本を並べる必要があります。そんな本棚作りのプロフェッショナルがいます。幅允孝さん。彼の職業は「ブックディレクター」と呼ばれています。「ブックディレクター」を言い換えると、「本棚を編集する人」と言えばよいでしょうか。

「本を編集する」のではなく、「本棚を編集する」ブックディレクターとはどんな仕事なのか。
そして、幅允孝とは一体何者なのでしょうか。

「リンク」する本棚

通常、本棚に本を並べる時、ジャンル毎や作家毎に本を並べますが、幅さんの本の並べ方は違います。

例えば、千里リハビリテーション病院というリハビリテーション専門の病院のライブラリーの本棚には、「美味礼賛」「伊藤若沖大全」といった本だけでなく、木村伊兵衛の「パリ」という写真集を並べました。

この病院は、脳や脊髄を損傷した患者などが、日常生活の改善を目的としたリハビリを集中的に行うために作られた病院です。病院の関係者から、「ページをめくる行為自体がリハビリに効果がある」と聞いた幅さんは、ページをめくることで現れる「愉しさ」「嬉しさ」「照れくささ」といった感情を引き出すための本を選び、本棚に並べました。

また、幅さんがブックディレクターという仕事をやるきっかけになったTSUTAYA ROPPONGI TOKYOでは、食べ物関連の本棚には宮沢賢治の「注文の多い料理店」を並べたり、東京の本棚に安藤忠雄の書籍を並べたりしました。

例えば、料理の本を探していた本を読んだ人が、パスタの作り方について書いた本を読んで、パスタを作ったイタリアのレストランに興味をもったら、レストランをきっかけにイタリアの文化に興味を持ったり、レストランの場所を調べたりすることがあります。

インターネットであるページを見たことがきっかけで、どんどんページのリンクをたどっていったら当初の目的とは全く違うページに辿り着いたなんて経験をしたことがあると思いますが、それと同じです。幅さんの作る本棚は、密接にリンクしているインターネットの環境のようなものです。

インターネットは、乱暴に言ってしまうと、目的を持ったユーザーの問題を解決する機能を持っています。本屋を訪れる人も、様々な目的を持って訪れます。幅さんの本棚は、目的を持って訪れた人の本能を刺激し、眠っていた問題を解決する機能を持っているのです。

自分の体験と本を結びつける

なぜ、幅さんは人の本能を刺激する本棚が作れるのでしょうか。

1つ目は、圧倒的な読書量です。古典、ベストセラーだけでなく、知る人ぞ知る書籍も知っている。まずは、どんな本があるのか知らなければ、本棚は作れません。

2つ目は、圧倒的な読書量で身につけた本の関連付けです。どの本にどんな情報が書いてあるのか把握し、情報と本の関連性を整理し、本を並べる時に本棚に表現する。人がある感性で整理した分類分けは、均一でないからこそ、人の気を引くのかもしれません。

3つ目は、自分の体験を本に結びつけることです。本を関連付けるときの判断基準は自身の感性ですが、感性の土台となっているのは、自分の体験した事です。自分が本を読んだ時に、どんな気持ちになったのか。あるいは、どんな時に本を読んだのか。本の内容より、本を読んだ時の状況の方が強く印象に残り、本の印象そのものになっている。僕にもそんな本があります。

この3つが上手く組み合わさった時、魅力的で思わず手にとってしまう本棚が出来上がるのです。

編集者の時代

ブックディレクターという職業の台頭から感じるのは、現代における編集者の重要性です。佐々木俊尚さんが「キュレーションの時代」という書籍で、菅付雅信さんが「中身化する社会」という書籍で、情報を「キュレーション」、あるいは「編集」する人材の台頭と、こうした人材を求める人々のニーズについて書いています。

編集する人の評価が高まってることを示す例が、DJです。人々を楽しませるために、その場に最適な曲をかけるDJという仕事は日本では軽視されているが、世界一のDJと呼ばれるTiestoの年収は32億円にもなり、オリジナルの楽曲を作るクリエイターより高い年収をもらっています。

現代はインターネットの発達により、簡単に情報が手に入る時代だと言われています。しかし、インターネット上で簡単に手に入る情報は、手に入るコストが低い分、その情報だけでは価値が低いのです。だから、情報と情報を組み合わせ、誰も知らない情報や体験を作り出す事ができる「編集者」の価値が、現代では高まっているのです。

幅さんという、編集者の時代に出現した新しい価値を提供するクリエイターの考え方がよくわかる1冊です。

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