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書評「直撃 本田圭佑」(木崎伸也)

   

2010年のワールドカップで2得点を挙げて以降、本田圭佑は日本サッカーの希望の星になりました。はっきりした物言いと、実現させる能力。新しいスターの誕生に、多くの人々が魅了されました。しかし、2010年のワールドカップ以降、本田圭佑がメディアで発言する機会は、極端に少なくなります。

本田は何を考えているのか。多くのメディアがコメントを取ろうとするも、取材は拒否されます。そこで、1人のジャーナリストが行動に出ます。取材が拒否されるなら、会いに行って、直接交渉してしまえばいい。そんな考えを持って、行動に出ます。モスクワでは車に乗る本田圭佑のコメントをとり、バルセロナでリハビリしていると聞けば病院まで追いかける。ミラノでもその姿勢は変わりません。空港のラウンジ、ジム、本田のいるところが、インタビューの場所になりました。半ば強引な取材にもかかわらず、引き出される本田圭佑の言葉の面白さに、Numberで本田圭佑のインタビューが掲載される度に、大きな反響を巻き起こしました。

本書「直撃 本田圭佑」は、スポーツジャーナリストの木崎伸也さんが、2011年から足掛け5年かけて、ひたすら本田圭佑を追いかけ続け、本田圭佑の発言を引き出し続けた記録です。

浮かび上がる「2人の本田圭佑」

本書に掲載されているNumberの連載はほとんど読んでいたのですが、改めて本田圭佑の発言を読み直すと、言葉の力強さに引き込まれます。ただ、改めて全てのインタビューを読み直して感じたのは、「本田圭佑は2人いる」という事です。プレーヤーとして、ビジネスマンとして、人の思いもつかない事を口にして、行動する本田圭佑。これは、多くの人が知っている本田圭佑です。

しかし、本書を読んでいると、もう一人の本田圭佑がいるんじゃないかと感じます。少し引いた立場で、本田圭佑に何かをさせる本田圭佑。本田圭佑は2人いる。本書を読んでいるとそんな印象を受けました。

僕の場合、無理をして先に人格を作っちゃうんですよね。ヒーローとしての人格を作って、普段からそう振る舞うようにする。それを続けていたら、自分の本物と重なるんですよ。

ピッチにいるオレが、オレの人間としての哲学・考え方っていうところとまったく違うんじゃあ・・・オレはね、サッカーをやっている意味がないかなって、年々思うようになってきて。

人間って、気が緩んでいないと自分では思っていても、気が緩んでいるものだと思うんです。それをどうやって引き締めるかといったら、もうくどいほど、自問自答するしかないと思っているんですね。大丈夫かと。準備はちゃんとできているかと。くどいほどやれるかどうかが僕はキーポイントだと思っている。

もう一人の本田圭佑。この存在が浮かび上がった時、思い出したエピソードがあります。矢沢永吉さんが、あるライブ会場近くのホテルのスイートが予約出来なかったとスタッフから聞いた時、こう答えたそうです。

「オレはいいけど、YAZAWAはなんて言うかな?」

本書を読んでいると、本田圭佑には、2人の本田圭佑がいるのかもしれないと思うのです。そして、そんな本田圭佑の姿を浮かび上がらせたのは、しつこすぎるくらい追いかけ続けた、著者の執念であり、取材する力です。

木崎さんの凄さは「引き出す力」

僕は木崎さんと何度かお会いしたことがあります。会ったら立ち話しますし、西本直さんと3人で、食事もしたことがあります。お会いする度に感心するのは、「木崎さんは人から『引き出す』ことが本当に上手い」という事です。木崎さんは、文章に書かれている主張が強いため、押しの強い人だと思う人もいるかもしれません。しかし、僕が知っている木崎さんは、人の意見をじっくりと聞いて、「なぜそう思うのですか?」「どうしてそう思うのですか?」と、淡々とした口調で聞き出していく方です。自分の意見を強く主張する事は、ほとんどありません。僕はお会いする度に、いつも木崎さんの引き出し方に感心しています。こうやって、本田圭佑から発言を引き出してきたのだな、と。

本田圭佑については、「結果も出ていないのに何を言っているんだ」「結果出してから物を言え」という人もいます。本田圭佑のプレースタイル、パーソナリティに対して、批判的な人もいると思います。しかし、一つ何かをしたら、十叩かれる世の中で、それでも何かを成し遂げようとする人がいるからこそ、物事は進化していくのです。イノベーション、イノベーション、と口で喋っていても、行動する人がいなければ、何も起こりません。

本書は、矢沢永吉の「成り上がり」のように、一番星をつかもうと真っ直ぐに進む1人の人間の記録です。本田圭佑が矢沢永吉の役割ならば、木崎さんは横で話を聞き、文章にまとめた、糸井重里さんの役割でしょうか。読んでいると、まるで自分が本田圭佑の隣にいるような気分になりますし、力が湧いてくるような刺激を受けるはずです。ぜひ多くの方に読んで頂きたい1冊です。

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