21世紀の新たなライフスタイルを提唱した1冊。書評「簡単、なのに美味い! 家めしこそ、最高のごちそうである。」(佐々木俊尚)

2016/03/13

最初、佐々木俊尚さん(以下、著者)が食に関する本を書いたと聞いて、驚きました。なぜなら、著者はずっと「ITテクノロジーと社会」をテーマにした書籍を書いてきた人だったからです。

人と人とのつながりを介して、情報をやりとりする時代について書かれた「キュレーションの時代」、現代の言論社会の文脈を踏まえ、日本人の集合的無意識を解き明かそうとした「当事者の時代」、情報技術の革新が現代社会をどう変えたのかを書いた「レイヤー化する社会」。いずれも「ITテクノロジーと社会」というテーマが基になっている作品です。

だからこそ、本書「簡単、なのに美味い! 家めしこそ、最高のごちそうである」をいう書籍を著者が書いたと聞いて、僕は凄く驚きました。そして、僕は読み終えて、さらに驚きました。本書は、決して著名人の料理エッセイ本でもなければ、著名人の料理レシピ本でもありませんでした。

本書は、21世紀の新たなライフスタイルを「家めし」というテーマから提唱した本だったからです。

新しいライフスタイル

本書は、著者のこんな言葉から始まります。

この本のメッセージは、たいへんシンプルです。
(中略)
値段の高いスーツを着て食べに行くフレンチレストランみたいな派手な「美食」ではなく、
かといって散らかった家でジャージを着てむさぼり食うコンビニ弁当や、
「鍋の素」でつくった人工的な味の鍋のごとき「ファスト食」でもない。
さらにいえば、やたらと無農薬有機野菜やオーガニックにこだわるような「自然食」派でもない。

その外側に、もっと別の素晴らしい食文化が可能なのでは、
というメッセージです。

それはどういう生活なのか。著者はこう続けます。

しっくりなじむ洗いざらしの綿のパンツと清潔なシャツを着て、
簡素な台所に立ち、素早く手軽に、
しかもお金をかけずに健康的な家めしを作る。
そういう生活が、いま求められているのではないのでしょうか。

なぜ、上記のような生活が、いま求められているのか。それは、著者が近年の著作で書いてきた社会環境の変化が要因です。特に、「レイヤー化する社会」に詳しく書かれているのですが、インターネットやコンピュータを使った様々な技術革新、「第三の産業革命」によって、先進国では、雇用が増えるのではなく、むしろ減り始めています。

日本も例外ではなく、「残業の禁止」や「週3日の労働」といった具合に労働時間が短くなったり、残業代でまかなっていた所得が減った家族が出てきています。お金はないけど、時間はある。時間があるから、家で家族で団らんする時間が持てる。そこから生まれた生活スタイルが「家めしこそ、最高のごちそう」なのです。

「家めし」を美味しく作るという「ライフハック」

本書には、「家めし」を美味しく作るためのコツが書かれています。

  1. 「料理が見た目が九割」と覚えよ
  2. 食材に驚きのアクセントを
  3. タイムラインを意識し、手際よく
  4. 酒に合う料理こそが、センスのよい料理

ただ、本書に書かれている「コツ」というのは、「レシピ」や「マニュアル」とは少し違います。本書に書かれている「コツ」とは、言い換えるなら、「ライフハック」みたいなものです。本書に書かれているのは、「こうやったら手軽に、美味しく料理が作れる」という「ライフハック」なのです。

実際、本書に掲載されていた「スーパーで売っている「焼きそばセット」を美味しく食べるすごい秘訣」という「ライフハック」に基づいて焼きそばを作ってみたのですが、本当に美味しかったです。家族にも好評でした。

生活を構成する要素は「衣・食・住」

人間の生活を構成している要素は、端的にいうと「衣・食・住」だと思います。この3つの要素を充実させることが、すなわち生活を充実させることに繋がるのだと思います。恋愛や仕事は、「衣・食・住」という要素を充実させる構成要素の1つだと、僕は思っています。

本書は、「衣・食・住」の「食」について、新たなライフスタイルに関する考えがまとめられた1冊です。「衣・食・住」は関連する要素なので、近々著者による「衣」や「住」に関する書籍も出版されるんじゃないかと、僕は勝手に期待しています。

最後に、ひとこと。

本書に書かれている料理に関する文章を読んでいるだけで、お腹が空いてきます。
帰宅時に読むと、その日の「家めし」が楽しみになること間違いなしです。

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