人が育てば、自分も成長出来る。書評「サッカー日本代表の育て方 子供の人生を変える新・育成論」(小澤一郎)

2015/06/14

サッカー日本代表になった選手は、何か特別な教育やトレーニングをしたから日本代表になれたと思ってはいませんか。そんなことはありません。

本書「サッカー日本代表の育て方 子供の人生を変える新・育成論」を読んで頂ければ、日本代表の選手といえども、普通の家庭に育ち、プロになるための特別なトレーニングだけを受けてきたわけじゃないことが、わかると思います。

まず親が出来ているのか

親はこともに対して知らず知らずのうちに、自分が出来なかったことを実現させようとしたり、自分が歩んできた道と同じ事をさせようとしていることがあります。子供の人生なのだからやりたいことをさせるべきと聞きますが、自分も2人の子供の父親になって、簡単なことではないと実感します。

僕は子供に何かを伝えたいと思ったら、まず”自分が出来ているのか”考え、”出来ている”と判断してから伝えなければいけないと考えています。例えば「使ったものを片付けなさい」と子供に注意をしても、親である自分が出来ていなければ、注意しても説得力がありません。

岡崎慎司のお母さんが本書の中で「まずは自分の人生を充実させるべき」と語り、清武弘嗣のお父さんも「自分はサラリーマンのプロとして、仕事で成果を出すことでお金をもらっている」と自らの仕事への誇りを語っています。別の本で、元テニスプレーヤーの杉山愛のお母さんも「娘が大人になったら、お茶したいと思ってもらえる素敵な女性でいたい」と語っていたのを読んだことがあります。

子供は親の背中を見て育ちます。子供に何かを伝えたければ、まず親自身が自分の人生を精一杯生きる姿を子供に見せる必要があると思います。実はそれこそが、子供にとって最高の教育なのかもしれません。

コーチングの意味を改めて考える

本書を読んでいて思い出したのは、「コーチング」という言葉の語源です。以前「モウリーニョのリーダー論」という書籍の書評でも書いたのですが、「コーチ」という言葉の語源は、目的地に運ぶ馬車の事なのだそうです。したがって、コーチとは目的地に馬車(チーム)を運ぶ人の事のことであり、決して頭ごなしに命令する人のことではありません。

本書で登場する柏レイソルの吉田達磨さん、元ガンバ大阪の上野山信行さん、元日本代表で現在は成立学園高校サッカー部の監督を務める宮内聡さん、福岡大学サッカー部監督の乾真寛さんは、各々指導方針や指導方法に違いはあるものの、「コーチング」という言葉の意味を理解したうえで、現場で指導をされている方々だと思いました。

本書では、現役時代に名選手だったアヤックスのフランク・デ・ブール(現監督)が吉田達磨さんに指導法を質問するというエピソードが出てきますが、このエピソードは「コーチング」に正解がないということを示す一例だと思います。FCバルセロナにはFCバルセロナのやり方、アヤックスにはアヤックスのやり方、国見高校には国見高校のやり方がありますが、どれが正しくてどれが間違っているというわけではありません。大事なのは「目的地に馬車を運ぶこと」なのです。

コーチは「目的地に馬車を運ぶ」ための最適な方法を探して、学び続けなければならないのです。フランク・デ・ブールはその事がわかっているからこそ、吉田さんの指導方法に興味を持ったのだと思います。

自分で問題を解決できる子供が日本代表になる

永田農法という栽培方法をご存知でしょうか。作物を栽培するときに、わざと痩せた土地で栽培し、肥料や水も最低限にして栽培することで、作物の生きようとする力を最大限に引き出し、通常のやり方より、栄養価が高くておいしい作物を作るための栽培方法です。

本書には福岡大学の乾監督が韓国に遠征する時、わざとフェリーで移動するようにしているというエピソードが出てきます。フェリーは大部屋で、選手たちは他の選手達と雑魚寝しなければなりません。1人部屋に慣れている子供には、ストレスのたまる環境です。しかし、乾監督はわざとストレスのたまる環境に身を置かせることで、子供たちの生きようと力を引き出そうとします。

自分が親になってわかったことがあります。
子供向けのモノや情報がたくさんあふれているので、子供の求めに応じて親として何かを与えることは、それほど難しくありません。しかし、親が子供に対してモノを与え続け、答えを教え続けていると、子供は自分で問題を解決しようとしなくなってしまうのだと思います。

本書に登場する指導者の方々が語っていますが、日本代表になっている選手たちの共通点として、「自分の事を自分で解決し、自らの力で成長し続けられる子供」だという点を挙げています。言い換えると「コーチや親を必要としない自立した選手」が日本代表になっているということです。コーチや親を必要としない人間を育てるのは簡単ではありませんが、簡単ではないからこそ、本書で紹介されたコーチは日々現場で創意工夫しながら、選手たちと向き合っているのだろうと思います。

本書には、サッカー日本代表を育てるための正解は書いてありませんが、育てるためのエッセンスやヒントが散りばめられています。興味をもったかたはぜひ一読して、自分の子供の子育て、子供を教える立場の方はコーチング、あるいは自分自身の人生について、考えてはいかがでしょうか。

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