誠実で純粋な文学者。情熱大陸「田中慎弥」

2013/07/15

共喰い

昨日の情熱大陸は、ちょうど1年前に第146回芥川賞を受賞し、会見で「もらっといてやる」発言が話題となった作家・田中慎弥さん。会見のことは知っていても、田中慎弥さんの作品は読んだことはなかったので何気なく見始めたのですが、彼のたたずまいや小説に対する姿勢が魅力的で、思わず見入ってしまいました。

「小説を書くのは「苦しいこと」ではなく、「難しいこと」」

田中さんは、小説を書くのにパソコンを使いません。原稿はコピー用紙の裏紙に、2Bの鉛筆で書いています。現代で携帯電話もPCも使わない人というだけで珍しいですが、彼独特のぶっきらぼうな語り口が、取っつきにくさは、こんなコメントにも現れています。

プリペイド携帯を持たされたことがあるんだけど、
胸のポケットに携帯が入っているだけで気持ち悪い。

そもそも、人と関わりたくなくて小説家やっているので、
携帯電話を持つ理由がない。

しかし、田中さんの小説に向き合う姿勢は、とてもストイックです。「次の行に書こうとしている事が必ずどこかにあるはずだ」「小説を書くのは「苦しいこと」ではなく、「難しいこと」」と語り、1日1行でも書こうと努力する田中さんの姿からは、小説に対する真摯な気持ちが感じられました。

人はなぜ小説を書くのか。

そもそも、人はなぜ小説を書くのでしょうか。なぜ物語を書くのでしょうか。

田中さんは、4歳の時に亡くなった父親の書棚に残っていた小説を読んだことがきっかけで、小説の魅力を知ります。しかし、自ら書き始めた時、小説を書くことの”難しさ”にも気づいたはずです。

小説を書く難しさから逃げることもできたはずですが、田中さんは小説と向き合って書き続ける道を選びます。そんな田中さんの姿を見ていると、「小説に魂を売った」とさえ思うほど、小説を書くこと、物語を書くことにすべてを捧げているように見えます。

そこまでして、人はなぜ小説を書くのでしょうか。なぜ物語を書くのでしょうか。

僕が思うに、人は持っている情報をただ正確に伝えるより、物語にして伝えるほうが、相手により深く伝わることを、本能的に理解しているからじゃないのでしょうか。物語を書き上げることは簡単ではありませんが、自らの感情や考え方を正確な文章で書き上げ、人に伝わった時の快感の魅力を知る作家達が、毎年無数の物語を生み出していることが、それを現れています。

そう考えると、芥川賞のコメントは照れ隠しもあるけど「賞をとることが自分にとって重要なことではない」という素直な気持ちの現われだったのではないのでしょうか。それは、田中さん自身が番組の最後に語っている、このような言葉にも現れています。

小説家をやっていることで世の中の流れにはのっているわけではないけど、
逆に、世の中の奴隷にはなっていない、という自負はある。

(中略)

村上春樹さんが悲しむ人はたくさんいるだろうけど、
僕が死んでも悲しむ人はほとんどいないと思う。

でも、いなくなったら困る人がいないとしても、
喜ぶ人がいるとしたら絶対死んでたまるかと思う。

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田中慎弥さんの小説はまだ読んだことはないのですが、
今回の放送を観て、読んでみたくなりました。