女子プロテニスツアーの試合は「自分のテニス」だけやってたら勝てない

昨日は、日本スポーツアナリスト協会主催のセミナー「JSAA OPEN SEMINAR Vol.6 JSAA OPEN SEMINAR Vol.6 How dose WTA run digital transformation with SAP? 〜女子プロテニスを変えるデジタル革命〜」に参加してきました。

WTA(Women’s Tennis Association:女子プロテニス協会)では、コート上でコーチがタブレットを持ち、パフォーマンスデータを活用したコーチングが1セットに1度行われています(グランドスラムは対象外)。

また、可視化されたパフォーマンスデータや試合結果を観客やファンも手軽に楽しめる環境も整っています。2013年からはじまったこのWTAの取り組みを支えているのがSAPの技術だということで、セミナーでは、WTAツアーに同行し、選手、コーチにソリューションを提供し続けるSAP Global Technology LeadのJenni Lewis氏、WTAのDirectorの
Amy Hitchinson氏、そしてスペシャルゲストとして、コーチとして5度のグランドスラム制覇を経験している、Wim Fissette氏と、2016年の全豪オープンと全米オープンの優勝者である、Angelique Kerberが登場しました。

試合に勝つためにデータを活用するなんて当たり前

とても興味深い話が色々聞けたのですが、僕が印象に残ったのは、選手もコーチも「データを活用するのが当たり前」という考えを持っている事です。

僕はKerberに「コーチの指示するプレー、データが示す最適なプレー、そして自分がやりたいプレーが違っていたら、あなたはどれを選びますか?」と聞きました。僕はKerberが「そうね。やっぱり最後は自分がやりたいプレーを選ぶわ。」なんて答えるのだと思っていたのですが、Kerberの答えは僕の予想とはまるで違っていました。

Kerberの答えはこうでした。「100%コーチの指示通りにプレーします。以前はコーチの言うことに反発していたけど、今はデータでコーチの指示が正しい事が証明されているから、反論出来ない」と。

僕はKerberの答えに驚きました。確かにSAPのソフトウェアを使えば、試合中にリアルタイムに、「いつ」「誰が」「どんな」プレーを選択したのかということが、ひと目で分かります。例えば、サービスでどこを狙うのか、バックハンドが多いのか、フォアハンドが多いのかといった、プレーの特徴もすぐに分かります。

ただ、プロテニスプレーヤーなら、自分が打ちたいプレー、得意なプレーがあり、データが示すプレーより、自分が好きなプレーを選択しても不思議ではありません。僕はそう思っていました。だから、Kerberの答えに驚きました。

その後、コーチのFissetteは、コーチしている選手がKerberと対戦した時のエピソードを持ち出して、こんな事を語っていました。

「今年最初の対戦では我々が勝った。次の試合でも同じ戦術で試合に臨んだら、Kerberは違う戦術で向かってきて、準備していなかった我々は負けてしまった。だから、3回目の対戦では、我々もKerberの戦術を研究して試合に臨み、今回は我々が勝った」。

Fissetteの話を聞いたときに、初めてKerberの言っていた事の意味が理解出来ました。どういう事かというと、レベルの拮抗した相手と、1年で何度も戦うWTAツアーでは、自分がやりたいプレーより、勝つためのプレーを選択しないと生き残っていけないのです。生き残っていくために、データは必要不可欠なツールであり、活用しないなんてありえない。そう考えているのです。

ちょっと意地悪な受け止め方をすると、データが導くプレーに基づいて、選手はプレーしていると受け止める事もできます。もちろん、時と場合によるし、選手がとっさに判断した事が上手くいった事例もたくさんあるでしょう。ただ、言えることがあるとしたら、WTAツアーのように、世界中から選手が集まり、実力を競い合い、僅差で勝負が決まるような世界では、「自分のテニスをすれば勝てる」わけではないということです。「勝つためのプレーをしないと、勝てない」世界なのです。

自分のやりたいプレーだけで勝てる甘い世界じゃない

最近読んだ岩政大樹さんの著書でも「自分たちのサッカー」という言葉への疑問が投げかけられていましたが、今回のセミナーに参加して、「自分のやりたいプレー」で勝てるのは、圧倒的に力が強いか、周りのレベルが低いのだと思うことにしました。昨今のスペイン、イングランド、イタリア、ドイツ、オランダのクラブは、対戦相手によって戦い方を使い分け、より勝つ確率を高めようとしています、なぜそうするのかというと、相手にあわせて戦わないと勝てないからです。どんなに良い選手を集めても、実力差は僅差です。ちょっと油断したら、簡単に脱落していく残酷な世界です。だから、データを活用して、相手を分析し、出来るだけ勝つ確率を高めようとしているのだと思います。

日本スポーツアナリスト協会の活動に係わっていると、「アナリストの地位が低い」という声を耳にする事があるのですが、僕は今回のセミナーに参加して、本気で勝とうとするなら、分析する人材を採用しないなんてありえないなと、改めて感じました。そして、日本のスポーツが、テニスのような激烈な競争にさらされていないがゆえに、分析が取り入れられてないのだとしたら、それは残念なことでしかないとも思いました。

テニスのセミナーだったので、僕はそこまで期待せずに参加したのですが、とても学びの多いセミナーでした。開催に向けて尽力された、関係者の方々、本当にありがとうございました。

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