書評「伝わる技術 力を引き出すコミュニケーション」(風間八宏)

本書「伝わる技術 力を引き出すコミュニケーション」は、2012年シーズン途中から2016年まで川崎フロンターレの監督を務め、2017年シーズンから名古屋グランパスの監督を務める風間八宏さんが、いかに選手、スタッフ、サポーターとコミュニケーションをとり、自分の考え、やりたい事を伝え、納得させているか、自らの体験を交えながら語っている書籍です。

時にたきつけ、時に頭にクエスチョンマークを浮かべさせ

風間さんの言葉遣いは独特で、「風間語」と表現される事もありますが、風間さんは意図して、時に即興で言葉を使い分けながら、選手、スタッフ、球団関係者とコミュニケーションをとっているように感じます。

風間さんは自分の意図をただ話すだけでなく、時にたきつけ、時に頭にクエスチョンマークを浮かべさせ、時に高揚させ、時に納得させる。立ち止まらせるのではなく、1歩でも、半歩でも、前に進めるための言葉を選び、話しています。「前に進めるためのコミュニケーション」が出来るのが、風間さんの強みです。

誤解されることも、敵を作ることも恐れない

そして、風間さんは自分のやりたい事を実現させるために、誤解されることを恐れないし、敵を作ることも恐れません。これは、なかなか出来ません。

風間さんは「守備のことは考えない」「守備の練習はしない」と、川崎フロンターレの監督就任当初に発言したことがありましたが、この発言は選手の発想を変えるために敢えて発言していたのであり、名古屋グランパスでは、就任初年度から守備の練習をきちんとしています。

名古屋グランパスの失点が多かったのは、川崎フロンターレの時とは全く理由が異なります。風間さんの守備がヨーロッパのスタンダードだけれど、他の選手が慣れ親しんだやり方ではないこと、チームとしてマイナスからの出発で、チームとしての基盤を作るのに時間がかかってしまったため、守備まで手が回りきらなかったことが要因であって、別に守備を軽視しているわけではありません。

風間さんは、メディアを通じて「わざと」誤解されるような発言をしつつ、裏ではしれっと準備を進め、上手くいったときに「練習していないわけないじゃん」とばかりにタネ明かしをして、にやっと笑う。そんな人でもあります。

未だに、風間さんのサッカーについて、「守備の練習はしない」「守備のことは考えない」と理解している方がいたら、それは風間さんの思惑にハマっているだけかもしれません。そして、風間さんはたぶんそんな発言を目にしたり、耳にしたりするたびに、苦笑いしながら、こんな事を口にしている気がします。「みんな信じやすいんだなぁ」と。

敵を作らなければ、味方も生まれない

風間さんは敵を作ること、誤解される事を恐れません。むしろ、敵が誰か分からなければ、戦う相手も分からないとばかりに、自分の言葉を、誰が、どう受け止めるのか、試しているように感じるときさえあります。

敵を作らなければ、味方は生まれません。自ら敵に立ち向かう姿勢を見せ、先頭に立つからこそ、独特の言葉遣いも伝わるのだと僕は感じています。本書は、コミュニケーションの技術について書いている本ですが、本書に書いてある事をそのまま真似しても、風間さんのようには上手くいきません。大切なのは、風間さんのやり方を踏まえて、自分なりのやり方を作ることだと思います。

風間さんはたぶんこう言うはずです。「俺の真似したって、上手くいかないぞ」と。

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