今日の常識が明日の非常識。書評「風間塾」(風間八宏)

風間塾 サッカーを進化させる「非常識」論

本書は、川崎フロンターレの風間八宏監督がその独特の理論を余すところなく綴った有料メールマガジン『風間塾』に記載されていた内容をまとめた1冊です。スポーツの監督が書籍を出すケースはありますが、有料メールマガジンの内容を書籍にまとめたのは、初めてのケースではないかと思います。

なお、風間八宏はこれまでに4冊(絶版になった書籍は除く)の書籍と、4枚のDVDを発表しています。風間八宏は、自分の考えをテレビ、新聞、本、DVD、メールマガジンといった様々な媒体で発表してきました。自身の考えを積極的に発表してきたことが、解説者としての人気と、川崎フロンターレの監督就任につながっているのだとすれば、今後スポーツの指導者も、自らのビジョンやノウハウを、積極的に発表していくことが、自身のキャリアアップにつながる時代になったのだと言えます。

風間八宏はなぜ解説者として人気があったのか

本書を読んで、わかったことがあります。風間八宏は「サッカーで使われている技術をわかりやすく解説できる」から、解説者として人気があったのだ、ということです。

例えば、「ボールを止める」という技術について、風間八宏は、本書でこのように説明しています。

「止める」という動作で一番難しいことは、「どこに、どう」止めるかという結論、これを常にプレーの中で持てるかどうかです。
今は敵がいるからここに止める、あるいは敵がいないからここに止める、
このような判断も含め、「止める」というのは、
どこにボールを置くと最も良いのか、それを判断する技術です。
これが私の考える「ボールを止める」という動作です。

メッシやクリスティアーノ・ロナウドなどのスーパースターのプレーは、簡単にやっているように見えますが、実際は高度な技術を駆使して初めて実現するプレーばかりです。風間八宏は、視聴者が分かったつもりでいた高度な技術を、上述の「止める」のように、テレビで分かりやすく解説したので、人気があったのです。

本書には、上述の「止める」以外にも「蹴る」「運ぶ」「相手を外す」「ボールを受ける」という言葉で、サッカーの世界では常識となっている技術を、風間八宏独自の切り口で分かりやすく説明しています。本書を読むことで、改めてサッカーをプレーする上で必要な技術が何か、理解を深めることができました。

指導者としての風間八宏が目指すサッカーとは

現在は川崎フロンターレの監督を務める風間八宏が、どのようなサッカーを目指しているのかという点については、本書では、「ボールを持てば相手は関係ない」「チームが個を生かす」などの言葉で説明されています。

例えば、「ボールを持てば相手は関係ない」という考え方について、本書ではこのように説明しています。

サッカーには、勝利へと向かう普遍の方法論があります。
それは、相手にボールを奪われないこと。私はこれを絶対的な正解と捉えています。
(中略)
そもそも、相手がボールを持っているという状態からサッカーを考えること自体がナンセンスだと思ってきました。
それは本末転倒だと思うのです。
なぜ、勝つために一番確率の高い考え方を放棄してしまうのか。

サッカー関係者の言葉で「自分たちのサッカーをすれば勝てる」という言葉をよく聞きます。しかし、発言者は「自分たちのサッカー」をわかっているのでしょうか。どうすれば試合に勝てるのか、突き詰めて考えているのでしょうか。風間八宏の「相手にボールを奪われないこと」という言葉は極論に聞こえますですが、たしかに実現すれば、試合に勝つことができます。どんな相手でも試合に勝つことができます。

どんな相手でも試合に勝てるサッカー。言い換えると風間八宏が目指しているのは、「サンフレッチェに勝っても、FCバルセロナに負ける」サッカーではありません。「サンフレッチェにも、FCバルセロナにも勝つサッカー」なのです。

本書を読んで、風間八宏が目指している理想が他の日本人指導者とは全く違う所にあることが、よくわかりました。風間八宏は、本気でFCバルセロナに勝つつもりなのです。世界一のサッカーチームを作るつもりなのです。

今日の常識が明日の非常識

Jリーグのチームが本気でFCバルセロナに勝とうとしていることを、「バカだ」とか「Jリーグでも勝てていないじゃないか」と笑う人もいると思います。でも、風間八宏は本気です。彼がどれくらい本気なのか。それは、序章「今日の常識が明日の非常識」に現れています。
長文ですが、サッカーだけではなくこれからの時代を生き抜くために必要な考え方だと思いましたので、掲載します。

サッカーの世界では、今日の常識が明日の非常識になることがあります。逆に言えば、今非常識と思えることが、明日の常識になることもあります。

我々も含め、人は常識にとらわれます。しかし、常識とはいったい何でしょうか。ふと振り返ってみたときに、常識というのは、意外と未来と結びつかないものが多いことに気がつきます。
 
たとえば、今のバルセロナを考えてみてください。十数年前、ボールを持っているだけと揶揄されることもあったバルセロナが、これほど強くなると誰が思ったでしょう。世界の最先端のサッカーになると誰が想像できたでしょう。ですがそれを見据えて、見極めてやってきた人たちがいます。この人たちはそのときに、「非常識だ」とたくさん言われたと思います。
 
「非常識だ」と他人から言われることは、すごく可能性がある、あるいは、今までやっていないことをやろうとしている、とも言えるのです。その可能性を自覚して、勇気を持って進んでいくべきではないかと考えます。
 
今、我々が思うサッカーも、何年か先には非常識になるかもしれません。常に、非常識でいること。スポーツの世界では、それは最先端を走っていることになるんだと思います。
 
私自身も、常識にとらわれず、非常識と言われる中で生きていきたいと思います。そしてそれが、みんなの観たいものであると、信じています。誰でもできる、普通のものでは、プロスポーツは成り立ちません。それはプロの商品ではありません。誰もできない、「それは無理だよ」と言われるものを実現することこそが、みんなの心を打つのだと思います。

他人にとっては非常識、だけども私にとっては常識、こういう考え方でやっていきたいなと思います。
 
きっと、皆さんの中にも非常識が眠っているはずです。自分の考えを信じて、自分に期待して、勇気を持つこと。そういった視点でサッカーを見ていくこと。それがトレンドになる可能性があるのです。

一つの考え、一つの面から見るのではなく、多面的に見ること。それができるのが、サッカーというスポーツの魅力だと思います。

川崎フロンターレが今シーズン以降どのようなチームになるのかは、選手・スタッフ・サポーターが彼の覚悟を信じられるかにかかっているのではないのでしょうか。

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本書に書かれている内容を、木崎伸也さんの視点でまとめたのが、こちらの「革命前夜」
書評も書いていますので、併せて読んでみてください。

風間八宏が考える「止める」「運ぶ・外す」「受ける」「シュート」という技術について、
解説したDVDはこちら。サッカーが上達したい人は、特に「受ける」がおすすめです。