人間、北野武の素顔。書評「Kitano par Kitano: 北野武による「たけし」 」

2014/09/30

日本で最も有名な芸人であるビートたけし、そして映画監督としても確固たる地位を築いている北野武。総理大臣の名前は知らなくても、ビートたけし、あるいは北野武のことは知っている。そんな人もいると思います。

でも、北野武の素顔は、これまであまり公になっていません。ロッキング・オン社が刊行する「SIGHT」という雑誌の連載で、北野武のインタビューが連載されていて、そこでは様々なテーマに関する彼の考えを読むことが出来るのですが、読めば読むほど、北野武のことを理解した気分にはなれません。逆に、北野武という人物の底知れない深さを感じるのです。

北野武の言葉や考え方に、底知れない深さと興味を持っているのは、日本人だけではありません。本書「Kitano par Kitano: 北野武による「たけし」 」は、日本在住のフランス人のジャーナリストが、5年にわたる徹底取材を行い、「栄光と挫折」、「家族」、「女」、「映画」、「メディア」、「政治」などについて語った言葉をまとめた1冊です。

「照れ隠し」のないストレートな言葉

本書を読んでいて、気がついたことがあります。それは、北野武独特の「照れ隠し」が、本書の言葉からはあまり感じられないのです。北野武は、何かを言う時、ちょっと照れくさそうな顔をすることがあります。そんな照れくさそうな態度は、北野武の魅力の一つでもありますが、どこか彼の本心を伝わりにくくしていた気がします。

しかし、本書からは、そんな「照れ隠し」が感じられません。フランス人ジャーナリストとのやりとりということで、通訳(「ここがヘンだよ日本人」で有名になったゾマホンが担当。駐日ベナン大使でもある)が間に入っていることも要因だと思いますが、本書に掲載されている言葉は、いつになくストレートです。

北野武が人知れず行うアフリカへの支援

特に印象に残ったのは、北野武が長年にわたって密かに続けているアフリカへの支援活動の話です。北野武は、ゾマホンと出会ってから、ゾマホンが立ち上げたNGOを通じて、学校を作ったり、ベナンの学生を日本に留学させるといった支援活動を長年にわたって行っています。この支援活動には、所ジョージも協力し、子供が通学するためのバスを寄付したりしているそうです。

こうした支援活動を行う北野武の姿は、あまり公にはなっていません。北野武自身も、これまで公にはしてきませんでした。

北野武は、なぜ支援活動を行うのか。自身の考えをこのように語っています。

貧しい子供時代を過ごした俺にとって、
困っている人達を助けるのって当然のことなのね。
道徳上の義務って言ってもいいかもしれない。
大金を持っているのに分け合うことをしないで、
ひとりで資産を抱え込んでる人間って、恥ずかしくないのかな。

分かち合う意識を持つこと、
でも、それを鼻にかけない感覚って基本だよ。
これはあくまでも個人的な選択で、公表したりするようなことじゃない。
だって、人に何かしてあげたり何かをあげたりすることって、
そんなに偉かったり、素晴らしかったりするの?
自然なことでしょ。

先日、ALSのアイスバケツチャレンジについて、北野武が「俺は氷水はかぶらないよ」と語っていましたが、こういう考えに基づいての言葉だというのが、本書を読んでいるとよく分かります。

照れ屋だけれど、情に厚く、優しい。そして、苦労を笑えるユーモア。そして、そんなユーモアや照れ隠しに隠された、熱き情熱と、長年第一線で活躍しているがゆえに感じている孤独。本書に映しだされているのは、ビートたけしではなく、映画監督の北野武でもなく、一人の人間としての北野武の姿です。

北野武に興味がある人もない人も、読んで損はない1冊です。

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