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最後の新聞は最強の新聞。書評「「最後」の新聞。サッカー専門紙「エル・ゴラッソ」の成功」(山田泰)

   

「最後」の新聞 ~サッカー専門紙「エル・ゴラッソ」の成功~

メディアに関する書籍で、久々に「面白い」と思える書籍に出会いました。

僕は新聞を定期購読していません。僕の友人にも新聞を定期購読しなくなった人間がいます。新聞の発行部数は年々減少しているというニュースを耳にしますが、僕のような人が増えていけば、それも当然の事だと思うのです。

そんな新聞業界に新たに参入し、独自のポジションを築き上げた新聞があります。それは、サッカー専門紙「エル・ゴラッソ」です。2004年の創刊後、サッカーファンの支持を集め、全国の駅の販売店やコンビニで週3回の頻度で販売されています。

しかし、新聞業界は新規参入が難しい業界です。独自の流通ネットワークが構築され、簡単には新規参入できない仕組みになっています。そんな新聞業界で「エル・ゴラッソ」を立ち上げた著者が、「エル・ゴラッソ」創刊までのエピソード、「エル・ゴラッソ」と従来の”新聞”との違い、「エル・ゴラッソ」が考える”新聞の未来”について書いたのが、本書「「最後」の新聞。サッカー専門紙「エル・ゴラッソ」の成功」です。

特に「「エル・ゴラッソ」と従来の”新聞”との違い」と「「エル・ゴラッソ」が考える”新聞の未来”」について書いていることが面白かったので、詳しく紹介します。

結論から言うと、本書は広告・メディアに関係する人だけでなく、デザインやWebサイト制作などに関わる人も読むべき1冊です。なぜなら、新聞というメディアの可能性からまだ我々は学ぶべきことがあることが、本書を読むとよくわかるからです。

「エル・ゴラッソ」と従来の”新聞”との違い

「エル・ゴラッソ」と従来のスポーツ新聞との違いは、大きく分けて以下の3点が挙げられます。

  1. 追求するポイントを明確にした
  2. 提供するのはユーザーエクスペリエンス
  3. 読者に共感してもらうための紙面デザイン

1.追求するポイントを明確にした

エル・ゴラッソが他のスポーツ新聞と明確に違うところ。それは、明確にターゲットを選択したことです。本書の第4章に「「エル・ゴラッソ」が目指した読者層」として、スポーツ新聞、雑誌との比較が「リテラシーレベル」「速報性」「価格」「通勤中の暇つぶし適度」「アイテム・コレクションバリュー」「文芸・読み物度」の6項目のチャート別に掲載されています。

エル・ゴラッソは、「読者の専門性」「速報性」「通勤中の暇つぶし適度」を追求することを決め、徹底しました。その結果、雑誌とは「速報性」「通勤中の暇つぶし適度」で差別化をはかり、スポーツ新聞とは「読者の専門性」で差別化をはかることで、唯一無二のサッカー専門紙として立ち位置と強みが明確になることで、商品訴求力が高まった結果、読者の支持を集めたのだと思います。

ここで重要なのは、「追求するポイントを明確に、徹底したこと」。マーケティングに必要な考え方として、「やることを決めるより、やらないことを決めること」が重要だと聞いたことがありますが、エル・ゴラッソはそれをきちんと守って実践したよい事例だと言えます。

2.提供するのはユーザーエクスペリエンス

本書には「エル・ゴラッソは、ユーザーエクスペリエンスを提供している」という言葉が数多く登場します。アミューズメントパークやサービス施設では当たり前の考え方ですが、新聞という媒体が「ユーザーエクスペリエンスを提供する」という考え方には、違和感を持つ人もいると思います。しかし、そこにエル・ゴラッソが成功した秘密があります。

「応援しているクラブが勝ったシーンが、駅や電車で多くの人の目に触れる」
「応援しているクラブの勝利を祝ってもらえる」などが、
「エル・ゴラッソ」におけるユーザー・エクスペリエンスの一つの例です。
(中略)
言い方を換えると、この場合「エル・ゴラッソ」は、
勝利の翌朝「エル・ゴラッソ」を買い、
電車の中で読むという一連の行動まで含んだ商品だということです。

エル・ゴラッソは徹底的に「ユーザーエクスペリエンスを提供する」事にこだわります。情報ではなく、「ユーザーエクスペリエンス」であることがポイントです。商品をただ売るのではなく、新聞を買った人にどんな体験を与えるのか。与える体験で買った人を満足させたい。そんな思いが、エル・ゴラッソの紙面づくりを支えているのです。

3.読者に共感してもらうための紙面デザイン

エル・ゴラッソのユーザーエクスペリエンスへのこだわりが強く現れているのが、紙面デザインです。エル・ゴラッソは、紙面デザインを「インターフェイス」と表現しています。「インターフェイス」はコンピュータの画面のレイアウト、配置するボタン、色使いに使われる言葉で、「インターフェイス」の良し悪しがソフトウェアの使いやすさやわかりやすさにつながります。

従来の新聞は、大量に印刷するための「機能性」を優先した紙面デザインになっていましたが、エル・ゴラッソは「ユーザーエクスペリエンスを提供する」ために、「インターフェイス」を変更しました。写真を大きく使ったり、レイアウトを工夫することで、サッカーの楽しさ、ゲームの興奮をより的確に、ダイレクトに読者に伝えるための「インターフェイス」にすることで、読者の共感をよび、支持を集めているのです。

「エル・ゴラッソ」が考える”新聞の未来”とは

本書の巻末には、新聞の未来について、著者の見解が書かれています。

著者は「フリー ―<無料>からお金を生みだす新戦略」を例に挙げた上で、「情報はタダになりたがっていない」と持論を展開した上で、ただで仕入れられる「一次情報」に付加価値をつけて、提供することが重要だと説明しています。

また、新聞の強みとして、完成された流通ネットワークを挙げています。前日の深夜~早朝に作られた新聞が、翌朝朝刊として、手元に届く。しかも、新聞の流通コストは圧倒的に安い。このネットワークを有効に活用して、「一次情報」に付加価値をつけて提供出来れば、まだまだ新聞としての価値はあると書いています。

昨今iPadやAmazon Kindleで読める電子書籍やインターネットメディアの台頭により、新聞が今後斜陽の時代を迎えるのではないかといわれており、早急に新たなデバイスに適応したコンテンツ提供が求められていると言われています。

アプリケーションやiPadなどのデバイスを使うことで、流通コストは下がるかもしれません。しかし、その分新聞が持っている「ユーザーエクスペリエンス」を失っては、新聞そのものの価値を失ってしまいます。どんなデバイスでコンテンツを提供していくとしても、新聞にとって重要なのは、あくまで付加価値をつけて「ユーザーエクスペリエンスを提供する」ことなのです。

本書を読み終えて、改めて以下のことを実感しました。

新聞はどんな強みがあるのか。どんなユーザーエクスペリエンスが提供できるのか。
これらを徹底的に掘り下げて、実践したところが生き残るのだ、と。

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本書を読んで、まだ読んでいないのですが「MEDIA MAKERS」を読んでみようかなと思いました。

本書で語られている「一次情報」の取扱について、
最も詳しく論述したのは、佐々木俊尚さんの「当事者の時代」だと思います。
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これからのメディアに求められる「編集力」について、
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