リーダーシップはあなたの心の中にある。書評「あなたの中のリーダーへ」(西水美恵子)

2013/12/06

現代は、経営者や政治家だけでなく、企業で働くサラリーマンにも、道筋を示すリーダーシップが求められる時代といえるのかもしれません。

リーダーはどうあるべきか。不透明な時代に道筋を示してくれるリーダーに、求められる能力とは何か。

本書は、世界銀行副総裁として途上国の貧困と闘い、巨大組織の改革に挑んできた著者が、自らの経験や考えを、「リーダー」というテーマでまとめた1冊です。

先頭に立つ

本書ではブータンのことが紹介されています。ブータンはインドと中国の間にある小国として、「いかにして生き延びていくのか」を国王が考えた結果、「経済成長ではなく、国民の幸福を追求する」という独自のアイデンティティの構築に至りました。

しかし、国王がいくら考えても、国民に伝わらなければ意味がありません。ブータンの前国王は、海抜200メートル前後にあるインド国境の熱帯ジャングルから、7000メートル級のヒマラヤ巨峰が連なる中国国境まで、野宿を続けながら、1人でも多くの国民の声を聴こうと、歩き続けました。その真摯な姿勢に心をうたれた国民は、国王に自らの思いを伝え、国王を自然と支持するに至ったそうです。

国王の行動からは、国のリーダーとして、先頭に立つ者の覚悟が伝わってくるとともに、リーダーとは「人の上に立つ」人物なのではなく、「先頭に立つ」人物のことを指すのだと思うのです。先頭に立って、吹き荒れる風を真正面か受け止めつつ、あるべき場所に導く。それがリーダーの役割なのだと、本書は伝えてくれます。

変化し続ける

本書の中で、ブータンの国王は「人の世に不変なものは変化のみ」と語っていますが、リーダーとして先頭に立ったら、変化を怖がってはならないのだと、改めて思い知らされます。生き残るためには、常に変化し続ける。リーダーは変化し続ける事が最大の安定なのだと理解した上で、自ら実践することが求められるのです。

佐野元春さんの「インディビジュアリスト」という歌に「何も変わらないものは、何も変えられない」という歌詞があります。リーダーとして、何かを変えようと思ったら、まずは自分が変わること。それは、本書の中で紹介している人々はもちろん、著者自身が実践していることです。

やるしかない

本書は著者のこんな言葉で始まります。

パキスタンの山奥で鬼を見た。

著者が貧困の体験学習を勧める現地NGOの世話になって、パキスタン北部の離村にホームステイした時、著者の心のなかで「水道も電気も何もない貧しい村で、読み書きもできない無学な人に身の安全を委ねることなど、できない!」という鬼が暴れだし、貧しい人を見下していた自分を見た体験を、赤裸々に書いています。

その後、著者を見た現地の人は、やさしく著者の背中をさすり、翌日の日課を語り始めます。日課を語り終わった後、一息つくと、こう語ったそうです。

「くる日もくる日も、同じことの繰り返し。
気が狂ってしまうかと思う時さえある。
これは人間が営む生活ではない。
動物のように、ただ体を生かしているだけ・・・」

「夢はただひとつ。
子供たちが教育を受けて、こんな生活を繰り返さないように。
けれど、それさえかなわない。
自分が病気になったら皆飢え死にする。
それが恐ろしい・・・」

この後、著者は「本気にスイッチが入ったのだと思う。」と語っています。このエピソードは、「先頭に立つ」「変化し続ける」といったリーダーに必要なことは頭で分かっているだけではダメなのだ、ということを読み手に突きつけています。

読み終えて、大事なのは心から理解していることであり、リーダーは常に自らの心のあり方が問われていることを認識して、行動すべきなのだと、本書を通じて著者は伝えている気がします。

世界中の名だたるリーダーと会い、自らもリーダーとして行動した著者の言葉は重く、読み進めていくうちに、読み手自身にとって「リーダーとはどうあるべきか」を突きつけます。それは、他人にリーダーシップを求めている人に対する、著者の強烈なメッセージでもあるのです。

自分自身にとってのリーダーとは何か。考えさせられる1冊です。

関連記事

為末大が伝える「勝利のセオリー」とは何か
Keep walking.Don`t settle.書評「裸でも生きる2」(山口絵理子)
真のベンチャースピリッツの持ち主。書評「アフリカの奇跡」(佐藤芳之)
パタゴニアが提示する「未来への羅針盤」
退職したマネージャーから学んだこと

関連商品