「新しい市場のつくりかた」に学ぶ、新しい商品を開発するための組織づくり

2014/04/01

先日書評記事を書いた「新しい市場のつくりかた」という本には、新しい市場を作り方の例が掲載されています。今回は、株式会社フットマークという会社が作った、水中運動用水着を紹介したいと思います。

運動を妨げているのは水着のせいではないか

1996年にフットマークの磯部社長が介護についての講演を行った時、聴衆に対して、「この中にプールに行く人はどのくらいいますか?」と聴いた所、100人中2人ほど手を挙げたそうです。

普通なら、2%しかいないなら商品開発してもしょうがないと考えがちですが、磯部社長は高齢者が水中で運動するメリットを認識していたため、「水中の運動を妨げているのは、適した水着がないからではないか?」と考えるようになりました。これが「問題の開発」です。

働きかけて「情報を発生」させる

そこで、磯部さんは社長直属で「アクアヘルス部」を新設し、当時入社してきた新入社員の駒田さんに水中運動用水着の開発を指示します。まず、駒田さんは実際に既存の商品を着用し、自分が水中で運動をしてみて周囲のユーザーからも消費した情報を聞き出しました。

ここで注意しなければならないのは、この時代における水中運動のように、社会にまだその消費習慣が存在しない時期、消費文化の草創期には、「この商品のここをこうしてよ」と「ずばり改善点を指摘してくれる」消費者はいない、ということです。文化が生まれるときには、そういう人は、まだ消費社会のどこにもいないのです。

ここで獲得したいのは、まだ存在するかどうかもあやふやなニーズについての知識ですから、積極的に消費者に働きかけて、そこで情報を「発生」させなければなりません。すでに、誰かの認識のうちに存在する情報を取りにいくのではなく、まだ存在しない情報を発生させなければなりません。

商品の「ねらい-働き-形」の関係を組みかえる

駒田さんは、消費現場に入って現場に働きかけ、旧来の水着は水中運動用水着としては、保温性が不足していたことが分かりました。プール内を歩いていると、身体がすぐ冷えて大変なのです。スポーツとしての水泳をするための水着は、激しい運動をすることを前提にしています。しかし、「水中運動用水着」の消費者は、さほど激しくない運動をしたい方です。ここが「新しい商品コンセプトと旧来の消費環境との不整合=すき間」です。

「水中運動用水着」という新しい商品コンセプトに則った商品を開発しようというのですから、商品の「ねらい-働き-形」の関係を組みかえなければなりません。保温性が低いという問題を解決するために、消費者の身体を広く覆うように商品の形を変えました。すると、また別の問題が発生します。身体を広く覆う水着は、脱ぎにくいという問題が発生してしまうのです。

駒田さんはどう解決したかというと、水着の生地が競泳用の場合は身体にきつくフィットするように、あまり伸縮しない素材を選んでいましたが、伸縮性のある生地を使用しました。水中運動では、タイムを競うことはないので、フィット感を重視する必要はありません。求められている機能に対して、従来の製品仕様を見なおし、改良を加えました。

商品デザインを新コンセプトに合わせて最適化するということは「1つ変えたら他にも波及してしまう」ような、こんがらがった関係を、あるところまで解きほぐすことなのです。つまり、連鎖する問題を解決していくと、いつしか「水中運動用水着としての改善は競泳用水着としては改悪である」というところまで、設計が突き詰められます。そこまでして、ようやく違う商品カテゴリーを打ち立てる事ができます。

「寿司屋の出前方式」で商品を開発する

駒田さんとは、生産の場から試作品という形で消費の場へメッセージを送り、そこで新しい情報の発生を働きかけ、それを消費者からの反応情報として生産の場へフィードバックし、その情報を得たことで生産の場での認識、もとづくりが1つグレートアップするように働きかける。これを繰り返しました。

フットマークの磯部社長は、「水中運動用水着」を開発した時の組織のことを、「寿司屋の出前方式」と読んでいます。一般的はお寿司屋さんは、板前さんが自分で築地に魚を仕入れに行って、自分でさばき、下ろし、さくに切って、寿司に握り、桶に詰め、出前も自分で持っていきます。

そのように、ある1つの商品がただコンセプトがぽつんとある状態から商品として店頭に並ぶまで、一人の担当者が全部にかかわる。そうやって、スポーツクラブや縫製工場と情報のやりとりをすることで、「一気通貫」で商品設計のそれぞれの要素がすりあわされ、商品としての完成度が高いものになるのです。これを担当者を別々にしていたら、旧来の商品を大きく変えることは出来なかったでしょう。

また、「水中運動用水着」を開発するプロセスで、フットマーク社内で、商品企画の意図や商品設計仕様の細部まで情報化し、文書化する習慣が確立されたのだそうです。ここで重要なのは、ただ記録を残すことではありません。担当者が自分で働きかけて、「それまではなかった情報を世界に発生させた」情報を文章化することで、問題が引き継がれることに価値があるのです。

担当者が一貫した意思決定を行う

新製品開発を成功させるのは、もちろん最初は地道なネタ集めであり、認識の革新に基づく新問題の開発であり、上流下流を巻き込むダイナミックなプロセスを回すことです。ただ、それらのパフォーマンスを「人次第」と言ってしまっては短絡的です。その人を活かす組織の文化や風土は、組織の側が整備しなくてはなりません。

新しいコンセプトを実体化するときには、実際の職位・権限にかかわらず、担当者が「問題の設定から解決手段の決定まで」一貫した意思決定を出来る立場でなければ、中途半端にしかできません。つまり、既存の組織とは別のポジションを設定する必要があるのではないのでしょうか。

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