「新しい市場のつくりかた」に学ぶ、価値のエコシステムのデザインとは

先日書評記事を書いた「新しい市場のつくりかた」という本には、新しい市場を作り方の例が掲載されています。今回は、「価値のエコシステム」のデザインについて、考え方を紹介したいと思います。

モノやサービスという商品の価値とは、社会全体との関係で決まります。新商品は一度社会に投げ込まれると、事前には思いもしなかった変化を周囲に及ぼします。商品というのは、「暮らし」という製品の一部、部品でしかないからです。

新たな問題に取り組んだ大阪ガスの例

「新しい市場のつくりかた」では、大阪ガスを例に、近年のガスコンロ開発が紹介されています。「ガスコンロなどのガス機器は、開発するガス機器メーカーがいて、大阪ガスはそれを販売しているだけじゃないの?」と思うかもしれませんが、大阪ガスは非常に深く開発に関わり、最上位機器のコンセプトを決定する段階では主導でき役割を果たしているのだというのです。

なぜかというと、近年調理用熱源としてガス調理器の手強い競争相手となったIH調理器は、「オール電化」というスローガンを掲げて、事業基盤そのものを破壊しようとしてきます。そこで、「電気という選択肢もあるけど、やはりガスを使う暮らしが大前提」という見地から商品開発をする必要があります。これは、ガス事業者でなければ出来ないことです。

IH機器は、旧来製品にくらべて調理後の手入れが楽です。そこで、大阪ガスは「対IH機器競合」の視点から、「清掃性」を重視した商品の開発を依頼しました。従来のガス機器メーカー同士が競合する視点では、得られなかった商品開発の視点です。

大阪ガスが開発した商品は、「今の暮らし方にはまるモノ」ではなく。「今後の暮らしをより便利にするためのモノ」です。「暮らしを変えにいく」意図が無くては、魅力を維持することは出来ないのです。

暮らしをプロデュースした阪急東宝グループ

阪急東宝グループの創立者に、小林一三さんという方がいます。小林さんは公共交通機関が都市の人々の暮らしの中核としてライフスタイルを大きく左右することを大変深く理解し、その可能性を大いに活かしきった人でした。

小林さんは鉄道事業を展開する時、鉄道会社だけが開発できる商品を発見し、自社事業の主軸に据えました。それは「駅前」です。彼は自社が敷設する路線の周囲に、併せて宅地開発用の土地を買収し、駅の設置とともにその周辺に通勤生活者用の住宅地を開発したのです。

阪急の駅前には広場と生活用品を買えるスーパーマーケットを作ります。これが私鉄系スーパーのはしりとなりました。都心のターミナル駅には、ターミナルデパートを開発しました。会社帰りのお父さんや休日のお母さんたちがそこに生活を彩るさまざまな商品を買いに来ました。

小林さんは、阪神間住民たちの余暇も開発しました。郊外のターミナルには、温泉を開発し、遊園地と動物園をつくり、家族連れが楽しめるようにしました。温水プールを設営したときには、ボイラーの出力がうまく機能しなかったので、代わりに劇場に仕立て直し、そこで少女たちに歌と踊りをさせることにしました。これが、宝塚歌劇団の始まりです。

宝塚歌劇団が成功すると、今度は阪急各駅で上映する映画のコンテンツの開発も手がけました。こうして、阪急電鉄は流通とレジャーも傘下に収め、先端的ライフスタイル、阪急文化をプロデュースし、社会に提案したのです。

エコシステムとは、「複数の企業が商品開発や事業活動などでパートナーシップを組み、互いの技術や資本を生かしながら、開発業者・代理店・販売店・宣伝媒体、さらには消費者や社会を巻き込み、業界の枠や国境を超えて広く共存共栄していく仕組み。」という意味です。

大阪ガスが阪急電鉄が行ったのは、新しい価値のプロデュースであり、言い換えるなら新しい文化の開発です。新しい文化を作ることは、新しい市場を作ることでもあります。新しい文化を開発し続けることによって、初めて企業としての存在価値を示し続けることが出来るのです。

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