「新しい市場のつくりかた」に学ぶ、「ステータスと仲間を作れ」。ハーレーダビッドソンの場合

先日書評記事を書いた「新しい市場のつくりかた」という本には、新しい市場を作り方の例が掲載されています。今回は、「ステータスと仲間を作れ」という考え方をハーレーダビッドソン(以下ハーレー)の例に、紹介したいと思います。

日本のオートバイ市場は、すでに実用品としての需要を奪われて、さらに次の段階「ラクジュアリー化」という局面を迎えています。つまり、「今さらオートバイに乗る人は「良い意味で建てや酔狂」で乗る人であって、趣味的消費である」という段階にきています。

現在バイク市場の出荷台数は年々減少しているのですが、ハーレーは市場の出荷台数と反比例するかのように、年々販売台数が増加しています。ハーレーのバイクの平均単価は一台300万円、簡単に購入できる商品ではありません。なぜ市場規模が減少する中、ハーレーダビッドソンが成長を遂げることが出来たのでしょうか。

バイクという商品の再定義

ハーレーが行ったのは、バイクという商品の再定義でした。元々バイクは移動・輸送手段であり、「ヒト・モノを運ぶ機械」ですが、現在バイクに求められているのは、それに乗るヒトに心地よい情報刺激を伝達する、コミュニケーターとしてのバイクです。ハーレーは、自社製品をそのように定義し、商品の販売方法を変革しました。

ハーレーの販売店の方によると、バイクの姿かたちを鑑賞する上でそれが最も美しく見える角度があり、経験則からいうと、左後方からハーレーに近づくときに、艶めかしいフレームとシートが描く局面が見える、その姿が一番美しいのだそうです。

それをアピールするために、お店に入ってきたお客さんが店の中を歩き回ると、何気なくその角度から商品が目に入るように、店舗レイアウトを工夫しています。具体的には、バイクを店舗にぎっしり並べたりせず、思い切って広く通路を取って、展示車両の間を広く取って、ハーレーそれぞれのモデル、一台ごとの美しさが映えるようにしているのです。

奥さんに買うことを許してもらうには

ハーレーは簡単に購入できる商品ではありません。高額なので家庭のお父さんがそれに乗るつもりでも、実際に購入するかどうかは多くの日本の家庭では、奥さんが決定権を持っているのが大部分です。(こっそり買って、家から離れた場所にガレージを借りる人もいるそうです。)

そう考えると、奥さんはどうしたらハーレーを買うことを許してくれるでしょうか。ハーレーのバイクが世間的にイメージが悪く、それに乗る行為が外聞が悪いものであったら、奥さんは買うことを許してくれないでしょう。もし、「うるさいから近所から苦情がくるバイク」だとしたら、許しをもらうのは難しいでしょう。

そこで、ハーレーの日本支社は、アメリカの本社と交渉して、日本向けのハーレーは日本の厳しい騒音基準に対応した設計にしました。そして、販売店に対しても、純正のマフラーをつけたバイク以外は整備しない、という方針を徹底し、排ガス規制にもいち早く対応しました。

これらの措置は、「商品の物理的機能の設計変更」をしたことになりますが、ハーレーがそれをした意図は、単にバイクのモノとしての特性に手をつけたわけではなく、それを通して「ハーレーのバイク」とそれに乗る行為が世間でどのような意味情報を持つか、それを制御・設計しなおしたわけです。

ハーレーは顧客にとってより魅力的になるために、障害となっている規制を緩和させることを思いつきました。在日アメリカ大使館を訪れ、大型バイクの免許を教習所で取得できるようにし、高速道路でのバイクと乗用車の制限速度を統一すること、高速道路でのバイクの二人乗りができるようにすること、この三つの規制を緩和するように、アメリカ国防省から日本政府への働きかけを要請し、実現させました。

ハーレーは「家族から見て、歓迎すべきイメージをもつ」バイクを目指しました。なぜなら、「自分の旦那をかっこいいと思いたくない嫁はいない」からです。ハーレーに乗る夫=かっこいい。これを目指したというわけです。そのために、ものとしてのハーレーと、ハーレーを使用する社会がうまくリンクするように、統合していったのです。

モノもサービスもひっくるめたライフスタイル支援が商品

ハーレーは、バイクに乗るための楽しさを広めるため、積極的にユーザーのコミュニティを組織しました。HOG(ハーレー・オーナーズ・グループ)を組織し、「新しくハーレーを購入したお客さん」と「すでにハーレーを購入していたお客さんのコミュニティ」にうまくなじめるように、販売店からスタッフがツーリングに同行するのだそうです。もちろん、同行は仕事です。

同行するときに、「この間購入したアクセサリーの調子はいかがですか?」とか、「そろそろ点検されては?」みたいな営業もします。言い換えると、アフターサービスです。つまり、モノもサービスもひっくるめたライフスタイル支援が、商品になっているのです。

近年、コミュニティの大切さを伝える記事をよく見かけます。しかし、地域のコミュニティが崩壊している中、新たにコミュニティを築くのは簡単ではありません。ハーレーの例は、商品がもつ魅力によって作られたコミュニティが、地域のコミュニティに変わる優れた社会的価値を持つということなのです。

自社の商品のユーザーは、よい関係の友だちを見つけているのか。
自社はその手伝いが出来ているのか。
商品の物理的機能も大事だが、社会的機能も視野に入っているのか。
今の日本社会で物理的機能と社会的機能のどちらが大切なのか。

ちょっとマニアックな暮らしのツールのほうが、新しい文化を背負った新しい「部族」を生み出す。
ハーレーの事例は、それを雄弁に物語っているのです。

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