新しいモノづくりの教科書。書評「新しい市場のつくりかた」(三宅 秀道)

久々に読み応えのある本を読みました。

読み応えのある本を読むと、ブログに書評を書くのに苦労します。なぜなら、あれもこれも書きたくなって、何を書いたらよいか分からなくなるからです。したがって、あまりおもしろくなかった本のほうが、書きたいことが明確にできる分、実は書きやすいのです。

本書「新しい市場のつくりかた」は、経営学の研究者として、主としてものづくりの現場を歩き、新市場の創造に成功した企業を多く見てきた著者が、経営学をベースに新しいビジネスの戦い方、企画発想のヒントを説いた1冊です。

新しい市場を作るには、新しい市場を開発する

本書で主張していることは、明解です。本書で主張していることは、日本の製造業の不振が続いているのは、「よい物を作れば売れる」という技術神話を信奉しているからであり、技術を高めることではなく、新しい「市場」を作ることが重要なのだということです。

新しい市場を作るには、どうするべきか。本書では、新しい市場を作るには、「新しい問題を開発するべきだ」と説きます。

新しい市場を作ったウォークマン

「新しい問題」の例としてわかりやすいのは、ウォークマンの開発例です。ウォークマンは、SONYの盛田昭夫さんが、「道を歩きながら音楽を聴きたい」という問題を開発し、自ら開発した問題を解決するために作られた商品です。

ウォークマンを作るときに、盛田さんはお客様から「道を歩きながら音楽を聴きたい」という声をマーケティング・リサーチして聞いたわけではありません。本書にも書かれていますが、既存のマーケティング・リサーチは設定した問題に対する答え合わせをすることは出来ても、新しい問題を開発することは出来ないのです。ここが、重要なポイントです。

問題開発と問題解決は異なる

企業で新しい企画を考えようことになった場合、大抵は新しい「問題を開発」することを考えるのではなく、既に見つかっている「問題を解決」するための方法を考えてしまいがちです。これだと、本来企画しなければならない、「新しい市場」を作ることは出来ないのです。

よく、問題解決の手法として「ロジックツリー」が使われる事があります。この「ロジックツリー」は、根本的な問題点を把握するには有効な手法なのですが、「ロジックツリー」を企画を考えるときの手法として持ち込んでいるケースがあります。僕もそうしていた気がしますが、それは大きな間違いです。

問題を解決するために別の問題を作ってしまう

余談ですが、「紅の豚」の制作でこんなエピソードがあります。

制作が遅れ、スタッフの人員を増やして対応しなければならなくなったのですが、当時のスタジオジブリの制作現場は手狭になっており、簡単には人員を増やすことは出来ませんでした。そこで、宮﨑駿監督は制作が遅れているにもかかわらず、なんと「新しいスタジオを建てる」ことを決意。自ら構想を練り、内装資材の選定も行いました。

何を言いたいのかというと、宮﨑駿監督は「制作が遅れていて、スタッフの人員を増やさなければならない」という問題に対して、解決策を考えるのではなく「新しいスタジオを建てる」という新しい問題を開発し、新しい問題に取組むことで、既存の問題を解決しようと試みたのです。

スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーは、そんな宮﨑駿監督の手法を「大きな問題にぶつかって大変になった時は、別の問題を作って大変にさせて紛らわせる」と語っていたことがありますが、本書を読んでいると、ある問題を解決するために、別の問題を作ってしまって解決するという手法が、実は凄く有効な方法であるということが分かります。

どうなっていたら幸せか

では、問題を開発するためにはどうしたら良いのでしょうか。

結論を言ってしまうと、「どうなっていたら幸せなのか」かがわかっていなければならないのです。どうなっていたら幸せかわからなければ、何が問題かも分かりません。ウォークマンの例でいえば、盛田昭夫さんは「外で音楽が聴けたら楽しい」と感じていたから、「外で音楽を聴ける機械を作りたい」と考えたわけです。

本書でも指摘していますが、日本の製造業の発展において、問題を開発してから、製品開発までつなげた例はあまりありません。

車もテレビもビデオデッキも、大抵アメリカやヨーロッパの企業が考えた問題であって、その問題を解決するための方法として、日本の製造業の技術がマッチしたと考えれば、日本の企業が技術開発に注力する理由と、技術を追い求める考え方がいかに間違っているかは、よく分かります。

新しい問題は新しい文化を作り、新しい市場を育てていく

そして、問題を開発し、解決方法を作るということは新たな習慣や文化を作ることになるのです。

僕が本書を読んでいて思いだしたのは、エジソンがトースターを発明した時の話です。エジソンがトースターを発明した時、トースターを世の中に流行らせたいと思った販売業者は、パンを朝焼いて食べると健康にいいと提唱し、その結果今まで1日2食だった人々が1日3食になったのだそうです。つまり、トースターという機械が、「朝食を食べる」という文化を作ったのそうです。

他には、サンタクロースの赤い服はコカコーラがクリスマスの宣伝用に着せたのが最初だと言われていますし、バレンタインデーにチョコレートを送るようになったのは、チョコレート業者がチョコレートを売るために考えた施策が始まりだと言われています。

紹介した3つの例で共通するのは、商品を売るための解決方法として、まったく違う問題を開発し、その問題を解決することで、元々の問題も解決しようとしたことです。そして、3つの例ともに新しく作った問題と解決方法が、結果的に新しい習慣や文化へと発展しました。これが「新しい市場をつくる」ということなのです。

なお、本書ではこうした「問題を開発」することで、新しい市場を作った例を幾つも挙げています。
明日以降、本書で紹介されている事例を紹介したいと思います。

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