書評「ボクたちはみんな大人になれなかった」(燃え殻)

本書を読み終えた時、僕はこう思いました。本書に書かれている事に共感出来る人は、「なぜ自分の事が書いてあるのだろう」と、思うのではないかと。

17年前、渋谷。大好きだった彼女は別れ際、「今度、CD持ってくるね」と言った。それがボクたちの最終回になった。17年後、満員電車。43歳になったボクは、人波に飲まれて、知らないうちにフェイスブックの「友達申請」を送信してしまっていた。あの最愛の彼女に。

本書「ボクたちはみんな大人になれなかった」は、燃え殻という変わったペンネームの作者の処女作です。cakesに連載されていた頃から作者の文章は読んでいたので、本書の発売を楽しみにしていました。

目の前の出来事に注力することで、どこかにたどり着こうとしている人の物語

僕は本書を読みながら、なぜか本書には登場しない、大好きなTha Blue Herbの「未来は俺等の手の中」という曲の歌詞を思い出しました。

負けるためじゃなく花を咲かせに 耐えに耐え吹かぬ風に焦り
先のない土砂降りの掃き溜めに へとへとの仕事帰りの繰り返し
これ以上きれい事はなしにしようや このままじゃついに膝から落ちそうだ
理想は余裕のあるヤツのものだ 希望は今の俺にはまるで人ごとだ
すそのほつれたいつものジーンズひきづり戻っていく 煙い休憩室に
生きてくのでやっとだが これだけは言える それは俺等の手の中
(Tha Blue Herb「未来は俺等の手の中」より)

スタジオジブリの鈴木敏夫ブロデューサーが、「人間のタイプは大きく分けて二つに分けられる」と語っていた事があります。

一つは、目標や夢に向かって努力しながら進んでいく人。そしてもう一つは、目の前の出来事に注力することで、どこかにたどり着こうとしている人。この二つのタイプに分けられるというのです。

本書は、目の前の出来事に注力することで、どこかにたどり着こうとしている人の物語です。大きな夢もないし、有名になりたいわけでもないし、メディアに取り上げられるわけでもありません。

でも、日々の仕事に一生懸命取り組み、時に上司の愚痴を言ったり、時に理不尽な扱いを受けたり、仕事が終わったら家族に文句を言われたり、恋人に文句を言われたり、友達とケンカしたり、泣いたり笑ったりしながら、時にSNSにつぶやいてみたりする。そんな、必死に生きている名もない人々の物語です。

作者は、テレビの美術制作会社の仕事を続けながら本書を書いたそうです。そして、本書はなんとスマホで書かれたのだそうです。スマホで書かれたからこそ、読者に「なぜ自分の事が書いてあるのだろう」と思うのかもしれません。

「未来は俺等の手の中」は、最後はこんなリフレインとともに終わります。

終わらないものはないが 変わらないものは果たしてあるのか?
ゆっくりとすこしづつ失いながら それぞれの安らぎと生きてる
だがまだ行くな 少なくともまだある
たっぷりある
(Tha Blue Herb「未来は俺等の手の中」より)

そして、「未来は俺等の手の中」はこの言葉で終わります。

どん底まで そのまま
掴んだその手をはなすな

僕は本書を、病気で休職中の同僚に贈りました。ぜひ読んでみてください。

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