書評「モンベル 7つの決断 アウトドアビジネスの舞台裏」(辰野勇)

アウトドアメーカー「モンベル」が、日本のメーカーだと知らない人もいるかもしれません。クライマーとして活動してきた辰野さんが創業した会社「モンベル」は、アウトドア製品の販売だけでなく、環境を保護するための様々な活動、そして気軽にアウトドアに楽しむための様々なツアーを企画しています。最近は、ほぼ日刊イトイ新聞が主催する「生活のたのしみ展」で、モンベルが作った「軽くて丈夫な傘」が販売されるなど、高い機能を有した製品が、生活に役立つ製品として、アウトドアに興味がない人も手に取るようになっています。余談ですが、アウトドアに全く興味がないうちの嫁が履いているレインシューズは、モンベルのレインシューズです。

モンベルという会社は、どのように始まったのか。そして、現在に至るまでどのような活動を続け、どのように変化してきたのか。本書「モンベル 7つの決断 アウトドアビジネスの舞台裏」は、モンベルの創業者である辰野さんによる、モンベルのこれまでの歩みを「7つの決断(+1)」を軸に振り返った書籍です。

アウトドアから身につけた「決断の早さ」「用心深さ」

本書の冒頭で、辰野さんは以下のように語っています。

登山家は、用心深く、怖がりでなければならない。目もくらむ岩山に挑む彼らは、一見、向こう見ずに思われがちだが、実は最新の注意を払って準備をしている。天気のいい日にもザックに雨具をしのばせて、日帰りの山行でもヘッドランプは必ず持っていく。「雨が降ったらどうしよう」「風が吹いたらどうしよう」などといつも先々を心配している。
だから「決断」が早い。ビジネスの世界では、これを「リスクマネージメント」と呼ぶ。私は、きっと登山という行為を通じて、そんな力を身につけてきたに違いない。

やりたいことを「事業」として成立させるために考えること

アウトドアは、環境が厳しいところに行けば行くほど、生命の危機に瀕する事もあります。自分の生命をどう守るか。アウトドアから身につけた「決断の早さ」「用心深さ」。この2点が、モンベルという企業のビジネスのベースになっているのだと、感じました。

アウトドアメーカーの社員は、「好きなことを仕事にしている」社員が多いと感じている人もいると思います。ただ、好きなことを仕事にするというのは、ただ自分のやりたい事をやるだけではありません。自由には「義務」と「権利」が伴います。パタゴニア、スノーピークなど、アウトドアのメーカーは、自然と対峙することで、自然と身に着けている気がします。

ただ、本書を読んで、辰野さんが「モンベル」を創業する時に、きちんと事業として成り立たせようと考えて創業していたのは意外でした。

創業にあたって私は、モンベルの将来像について考えていた。それは、会社を「家業」にするか、「企業」にするかの選択である。
(中略)
(企業として存続し続けるには)組織として常に社員の平均年齢を低く保って会社の競争力をつけなければならないことに気づいた。そうしなければ、会社は高齢化して、いつしか活力を失ってしまう。平均年齢を低く保つには、常に若い社員を迎え入れなければならない。それはすなわち、企業規模の拡大を意味する。同時に、若年層からベテランまでの多様な年齢構成によるさまざまな優位性も期待できる。キャリアを積んだ年長社員が知識と経験を生かし、若い社員が時代のニーズを読む感性と行動力を発揮することで、会社はバランスのとれた推進力を維持する事ができる。
「家業ではなく、組織として企業を起こす」
これが、私が思い至った結論だった。

事業と成り立たせていくために、こんなことも考えたそうです。

毎年社員を増やし続けるには、当然それに見合った売り上げを確保しなければならない。収益を上げるために人を増やすのではなく、企業を存続させるために人を増やし続け、結果として会社の規模を拡大せざるを得ないという理屈である。私は、この先延々と続く右肩上がりの規模拡大経営を覚悟した。
(中略)
「いつ、どこまで」大きくすればいいのだろうか。これが私の次なる疑問だった。未来永劫にわたって規模を拡大し続けることは、物理的にもありえない話である。そしてまた、それはわれわれが望むところでもない。そこで私は、ひとつの数字をイメージした。それは「少なくとも「30年間」は、規模を拡大し続ける必要がある」ということだった。「30年」という期間は、20代で入社した社員が50代となり、会社の世代循環サイクルがひとまわりするひとつの目安と考えた。

好きなことを仕事にするためには、どうすれば自分のやりたいことが人の役に立てるのか考え、行動する必要がある。そのことを分かりやすく教えてくれる1冊です。本書を読み終えて、改めてパタゴニアの創業者イヴォン・シュイナードの著書「社員をサーフィンに行かせよう―――パタゴニア経営のすべて」を読み直したくなりました。ちょうど新版が出たので。近々読みたいと思います。

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