国民作家の出発点を読み解く1冊。書評「ジブリの教科書1 風の谷のナウシカ (文春ジブリ文庫)」

2014/10/04

ジブリの教科書1 風の谷のナウシカ (文春ジブリ文庫)

本書にて立花隆は「国民作家」という言葉で宮崎駿の事を紹介していますが、「風の谷のナウシカ」は国民作家となった宮崎駿の出発点とも言える作品です。そんな「風の谷のナウシカ」がどのような背景で製作されたのかを解説/紹介したのが、本書「ジブリの教科書 風の谷のナウシカ」です。

「風の谷のナウシカ」は漫画と映画という2つの作品が存在し、しかも、漫画と映画が似て非なる作品という不思議な作品で、他にあまり例がありません。しかし、「風の谷のナウシカ」には今後の宮崎作品に頻繁に登場するモチーフが描かれており、そういう意味では出発点として「風の谷のナウシカ」は改めておさえておきたい作品といえます。

自然の中で微妙な調和を保ちながら生きている人を描く

「風の谷のナウシカ」以降の宮崎作品に登場するモチーフが、「自然との調和」です。特に宮崎作品は、「自然の中で調和を保ちながら生きている”人”」を描いているのが大きな特徴だと思います。そのことについて、宮崎さんは本書の中で以下のように語っています。

ナウシカも、大国のお姫さまというイメージじゃないんです。
職業集団、いや、というよりも、
その特殊事情のなかで、風を読み取って生きていかなければならない人というか・・・。

映画でやらなきゃいけないのは、
自然に対決して生きるんじゃなくって、
自然の中に微妙な調和を保ちながら生きているっていう人々だと思うんですけどね。
(「風の谷のナウシカ」の基本設定をめぐって より)

「戦闘機や戦車は大好きだけど、戦争は正しくない」という矛盾

宮崎作品における大きな特徴として、「戦闘機や戦車は大好きだけど、戦争は正しくない」という矛盾が、作品に反映されていることです。本書の中で大塚康生さんも書かれていましたが、「紅の豚」では女たちが戦闘機を作り、男たちは「ごっこの戦争」に興じ、「もののけ姫」で鉄や銃を女が管理するといった具合です。「風の谷のナウシカ」にもナウシカが戦うシーンなどに反映されています。

「プロデューサーとしては万々歳、友人としては30点」

「風の谷のナウシカ」のプロデューサーは、高畑勲が務めています。(鈴木敏夫さんは製作委員会のメンバーとして参加)
しかし、高畑勲さんの「風の谷のナウシカ」評は強烈です。

プロデューサーとしては万々歳なんです。
ただ、宮さんの友人としての僕の評価は、30点なんです。
(中略)
プロデューサーをひきうけ、制作発表とのときに文章にしたように、
僕としては「巨大産業文明崩壊後1000年という未来から現代を照らし返してもらいたい」と思っていたのですが、
映画は必ずしもそういうふうになったとはいえないのではないか。
(高畑勲「僕は”助っ人”プロデューサーなんです」より)

僕はここで使われている「友人として」という言葉は、「ライバルとして」という言葉にも置き換えられるんじゃないかと思いました。高畑さんと宮崎さんはある時期まで師弟関係にありましたが、「風の谷のナウシカ」の製作時期はお互いライバルとして認め合う関係になっていたのではないかと想像します。

プロデューサーとして作品を完成させることができたので、万々歳。でもライバルとしては、30点。本当に作りたかった作品はこんなもんじゃないんじゃないか。もっといい作品を作って、自分を脅かしてみろ。満足するな。師匠格として宮崎さんに様々な要求を突きつけてきた、高畑さんの叱咤激励がこのメッセージから読み取れます。

宮崎さんも悔しかったはずです。現在2年与えられている製作期間ですが、「風の谷のナウシカ」は8ヶ月という短期間で製作されました。宮崎さんは毎朝9時から深夜3時まで働き、土日の休みも返上して、「風の谷のナウシカ」を完成させました。そこまで苦労して作った作品が「30点」と言われて、悔しくないハズがありません。この「30点」という言葉が、宮崎駿が今後の作品を作るにあたって、よくも悪くも高畑さんを意識するきっかけになったのだと思います。

「風」というモチーフ、「生きねば」という言葉の意味

宮崎駿さんの最新作「風立ちぬ」には、「風の谷のナウシカ」以来「風」という文字がタイトルに登場します。「風立ちぬ」と「風の谷のナウシカ」。時代背景も異なる2つの作品ですが、「風」をタイトルに使ったという以外にも、共通点が存在します。

漫画版の「風の谷のナウシカ」のラストシーンには、ナウシカのこんなセリフがあります。

さあみんな、出発しましょう。
どんなに苦しくとも。生きねば

ここで登場する「生きねば」という言葉。これは、「風立ちぬ」のコピーとして使われた言葉です。
「風立ちぬ」の中では、ラストシーンにカプローニの言葉として登場します。

君はまだ生きねばならない

この言葉を聴いた時、宮崎駿という監督は「風立ちぬ」という作品で、30年の時を経て再び「風の谷のナウシカ」を作った時の状態に戻ったということなのだと思いました。本書を読むと「風立ちぬ」で伝えたかったメッセージと、「風の谷のナウシカ」で伝えたかったメッセージは、ほとんど変わっていないと思いました。「風の谷のナウシカ」とはどういう作品だったのか。本書をきっかけに改めて考えなおしてみてはいかがでしょうか。

関連商品