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あなたは2020年に「サツキとメイの家」を建てられなくなる理由を知っていますか?書評:熱風2015年8月号 特集「サツキとメイの家の10年」

      2015/10/04

スタジオジブリは、毎月10日に「熱風」という無料の小冊子を発行しているのですが、2015年8月の特集は、「サツキとメイの家の10年」です。映画「となりのトトロ」の舞台となった草壁家。古びていて「お化け屋敷」と言われるような家ですが、どこか不思議な魅力をもったあの家が、物語を引き立てる役割を担っていたのは、「となりのトトロ」を観たことがある人は、みな知っています。

この「サツキとメイの家」の家は、「本当に住める家」をモットーに、大工の親方、中村武司さんの主導で作られました。しかし、この「サツキとメイの家」のような伝統的な木造建築の工法を使った家は、2020年には建てられなくなるというのです。それは、なぜなのか。その事を様々な視点から問いかけるのが、今回の特集です。

「サツキとメイの家の10年」特集のラインナップは、以下のとおりです。

掃除して、空気を入れ換えていれば「サツキとメイの家」のような土壁の木造建築は100年もつ。
[話し合った人々]
鈴木敏夫・中村武司・大江 忍・安井聡太郎

「サツキとメイの家」の僕の目論見(宮崎吾朗)
2020年は日本の家がなくなる日。(古川 保)
木の家を愛する者として(浜 美枝)
茶室と改正省エネ法――危機に瀕した日本の空間美――(藤岡伸子)
木造の受難史(藤森照信)

なぜ「サツキとメイの家」は2020年以降建てられなくなるのか

なぜ、「サツキとメイの家」のような、伝統的な木造建築が2020年以降建てられなくなるのか。それは、2020年に改定される建築基準法が要因です。国土交通省・経済産業省・環境省が合同で設置する「低炭素社会に向けた住まいと住まい方推進会議」は、2020年までにすべての新築住宅・建築物を対象に省エネルギー基準への適合を義務付ける方針を打ち出しています。(くわしくはこちら

端的にいうと、2020年以降に新築住宅・建築物については、一定基準の断熱性能を保持していなければ、建築してはいけないというのです。基準としている断熱性能をクリアしようとすれば、外部建具はアルミまたは樹脂サッシになり、ペアガラス(複層ガラス)を使い、壁材には樹脂など熱伝導率が低い素材を使う必要があります。もちろん、断熱材は必須です。

そして、こうした断熱性能を適用すると、既存の木造建築は、全く建てられなくなってしまいます。特に「サツキとメイの家」のように、開口部が大きくて、木製建具を用いた家は、エネルギーロスが大きいとされてしまい、基準を満たすことは、到底不可能です。断熱性能を高めようと思ったら、極端なことを言うと、窓の面積を小さくするのが一番です。そう考えると、広くて開放感がある縁側があるような家も、当然性能を満たすのは不可能です。

住宅のエネルギー効率を見直す必要がある理由

なぜ、このような法律が適用されるのかというと、東日本大震災以降、耐震性能だけでなくエネルギー効率を高めようという動きが、産業全体で起きているからです。資源エネルギー庁の資料によると、住宅含めた民生部門のエネルギー消費の割合は、全体の3割を占めています。エネルギー効率を下げようと考えた時に、住宅含めた建築物の見直しが行われたのは、当然の動きといえます。当然、2020年ということは、東京オリンピックも視野に入れた法律改定なのだと思います。

しかし、こうしたエネルギー効率の問題を、一様に他の産業と同様に適用して良いのかというのが、今回の特集が提起している問題です。日本伝統の木造建築は、夏は蒸し暑く、冬は寒い日本独特の気候に対応するために、長い年月をかけて最適化されてきました。しかし、ハウスメーカーが台頭し、都心ではマンションが乱立し、伝統的な木造建築を建てられる大工は少なくなりつつあります。そこで、今回の建築基準法が適用されれば、伝統的な木造建築を建てようとする大工は減り、木造建築を建てるための技術もなくなってしまうことが予想されます。

家をどう住むかは「人の生き方の問題」

今回の特集で宮崎吾朗さんが語っていましたが、家をどう住むか、どんな家を建てるのかというのは、「生き方」の問題です。寒い家に住む、狭い家に住む、人里離れた家に住む、など。どんな家に住むかは、はからずもその人の生き方を示しています。しかし、2020年以降この建築基準法が適用されたら、今後新しく家を建てる時の選択肢は、ほとんどないに等しいのです。気密性が高い家に住んだ子供が、身体を壊したという話もよく聞きます。その事は、もっと議論されてしかるべきだと思うのです。

僕は今回の特集を読むまで、2020年にこうした法律が適用されるということを、知りませんでした。知らない人の方が多いのではないのでしょうか。僕は、今回の改定はもっと多くの人に知られて欲しいニュースだと思います。産業界にとって都合のよい話で、子どもや将来大人になっていく人々について、本当に考えられた法律なのか、あまりニュースになっていない時点で、僕は疑問を抱いています。そう考えると、今回の「熱風」の特集はもっと読まれてしかるべきだと思います。

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