書評「熱風2017年1月号 橋口亮輔ロング・インタビュー 映画たち-今は映画をつくりたいということが弱みになってしまう時代-」

スタジオジブリは、毎月10日に「熱風」という無料の小冊子を発行しているのですが、今月の特集は、「橋口亮輔ロング・インタビュー 映画たち-今は映画をつくりたいということが弱みになってしまう時代-」です。

「君の名は。」「シンゴジラ」の大ヒットが話題を呼んだ2016年の映画界ですが、色々な環境の変化に対応しなければならないという現状には変わりはありません。そこで、熱風は「ぐるりのこと。」「恋人たち」など、人間の奥底に潜むものをきちんと描く作品作りで高い評価を得ている、橋口亮輔監督のインタビューを特集として掲載。現在の日本映画について、語ってもらっています。

スマートフォンの普及による視聴環境の変化

橋口監督の言葉からは、現在の日本映画がさらされている環境の変化について、いかに向き合い、戦い、苦しんでいるかは伝わってきます。まず、スマートフォンが普及したことによって、小さな画面で動画を閲覧する機会が増え、今まで大きなスクリーン、テレビといったデバイスによる視聴環境とは異なり、全く違う作品、画作りをした作品が評価されるようになりました。そして、手軽に観れる作品が好まれるため、長時間の作品はなかなか作られなくなっています。作られるとしても、Netflixのようなサービスでオンデマンドで提供されるようになり、従来とは違う形式でコンテンツを届ける事が求められています。

漫画や小説が原作の作品が増えた

ただ、届けるコンテンツのパターンは、決して豊富とはいえない現状があります。漫画や小説を原作にした作品が多く、独自の脚本で描かれる作品を目にする機会は、年々減ってきています。そして、広告、キャスティング主導の作品も増えています。コンテンツを楽しめる環境は多様化しているにもかかわらず、コンテンツのパターンは画一的になっています。

橋口監督は、インタビューの中で、「日本の男は、女子高生がパンツ見せて頑張っている話が本当に好きだ」と語っていますが、当たるパターンをただ踏襲するだけの作品が増えているのを、作品を作る側としても実感されているのだと思います。

賛否両論が起こらない作品

そして、人間の奥底に潜む作品を丁寧に描こうとすると、立ちはだかるのが「自主規制」問題です。表現によっては、誤解を招くかもしれないから、分かりやすい表現に変える。あるいは、伝えたかったシーンをカットする。賛否両論あるということは、人の心を揺り動かしているということでもあるのですが、賛否両論巻き起こる事に耐えられない興行主、配給元、そしてスポンサーは、何も問題が起こらないようにコントロールしようとします。こうして、ますます作品が作りにくい環境ができあがっているのです。

本書で橋口監督が語っていることは、世界中の映画業界が抱えている問題でもあります。インスタントに楽しめるコンテンツが増える中で、じっくり、五感を使って楽しみ、人生を揺るがすような映画をいかにつくり、提供し続けていくのか。色々考えさせられる特集です。

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