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「くり返し」の物語はどのようにして産まれるのか。熱風2012年12月号 特集「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」

      2013/07/05

小冊子『熱風』最新刊 2012年12号

スタジオジブリは、毎月10日に「熱風」という無料の文芸誌を発行しているのですが、今月の特集は「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」。「熱風」では、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」の内容について語るのではなく、新劇場版が”どのように作られ、宣伝広告され、観客のもとに届けられたのか”という視点で特集をしています。あえて、作品の内容を”語らない”ところが、スタジオジブリらしいなぁ、と思いました。

他にも面白い連載があるのですが、今回は「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」特集に絞って書きます。

「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」特集のラインナップは、以下のとおりです。

  • 「アニメーションの感動」を伝導し続ける「ヱヴァンゲリヲン」(氷川竜介)
  • カントク不行届Q(安野モヨコ)
  • 庵野秀明の考える”普通じゃないこと”を、実現させるのが僕の仕事。(轟木一騎)
  • ワンステップ上がってより深化した、庵野秀明とヱヴァンゲリヲン(樋口真嗣)
  • 私はやり直すことにきめた(大月俊倫)

ヱヴァンゲリヲンの世界観を生み出す制作体制

この特集を読んで、一番印象的だったのは、ヱヴァンゲリヲンの制作体制です。ヱヴァンゲリヲンを制作するにあたって、妥協のない映像を作り上げるために、「カラー」という会社を新設し、原作・脚本・総監督のほかに、製作・宣伝・配給まで一手に引き受ける体制を作り上げたとは、知りませんでした。

制作体制については、氷川竜介さんの「「アニメーションの感動」を伝導し続ける「ヱヴァンゲリヲン」」に詳しく書かれていますが、通常は製作(資金集め)はどこか他の企業の出資を受けて、行うのが一般的で、スタジオジブリも協賛企業や広告代理店の出資を受けて、制作が行われています。

しかし、ヱヴァンゲリヲンは、クリエイター個人の裁量がすべてに反映されるようにするため、資金集めも自社でやっています。ハイリスク・ハイリターンだが、挑戦的な内容と表現や、事前情報をいっさいシャットアウトするという宣伝手法も、すべてを一手に引き受ける現在の制作体制が可能にしているのだと、理解できました。この制作手法は、まるでインディーズのロックバンドが音楽活動をするような手法といえます。これは僕にとって驚きでした。

庵野秀明の世界観を具現化するスタッフと制作ディレクション

紹介したヱヴァンゲリヲンの世界観を生み出す制作体制は、言い換えると、総監督を務める庵野秀明さんの世界観を、具現化するための制作体制です。では、実際に現在の制作体制で働いているスタッフは、どう考えているのか。

その点は、轟木一騎さんの「庵野秀明の考える”普通じゃないこと”を、実現させるのが僕の仕事。」と、樋口真嗣さんの「ワンステップ上がってより深化した、庵野秀明とヱヴァンゲリヲン」という記事に、詳しく書かれています。総監督助手である轟木さんは、制作プロデュースの立場から、樋口真嗣さんは制作現場の立場から、それぞれの意見を述べています。

僕が特におもしろいと感じたのは、樋口さんの記事に書かれていた、庵野さんの制作ディレクションの手法です。樋口さんによると、庵野さんのディレクション方法は、宮崎駿監督のように、自分の中にすべてがあって、それを等しくみんなに徹底させる「専制君主的なディレクション」ではなく、相手にあるもの全部引っ張り出させて選ぶ手法をとっている、ということです。

これは、樋口さんもおっしゃってますが、作業効率としては最悪です。なぜなら、相手から「これしかない」という答えが出てくるまで、徹底的に搾り取るからです。搾り取るには、時間も労力もかかります。時間がかかるということは、お金もかかります。

さらに、庵野さんは、相手にあるもの全部引っ張り出した上で、最終的には自分で決定しているそうです。つまり、民主的にみえるけど、専制君主的なディレクションと変わらないわけです。これは本当につらいと思います。

スタッフは、搾り出しされて「これ以上出ない!」という状況に追い込まれても、さらに搾り出すことを求められるのです。これは、精神的につらい。僕も自分の仕事に照らし合わせると、スタッフの気持ちが痛いほどわかります。

また、庵野さんにとってもこれはつらい手法です。なぜなら、スタッフから搾り出した上で、自分が出した結論が、圧倒的なクオリティを伴っていなければ、人が離れていく可能性があるわけです。

自分自身の責任を背負い、なおかつ制作体制においても妥協のない体制を作り上げ、圧倒的な作品を作ろうと努力する、庵野さんの生き様をスタッフが見ているこそ、スタッフもついていくのだろうと思います。

樋口さんは、記事の中でスタッフについて、こんなことを書いています。以下の文章に書かれているスタッフの姿勢が、ヱヴァンゲリヲンを作っているんだなぁと思うと、ちょっと感動しました。

普通だったら、何をやってもOKが出ないとか、一回OKしたのにひっくり返されるとか、そういう追い込みの時は雰囲気が悪くなったり、人が辞めちゃったりするんです。現場の空気としてはギスギスするはずなのに、カラーはそれがないんですね。
(中略)
結果が説得している、というのはあるかもしれないです。ちょっと綺麗に話がまとまりすぎたけど、みんな本当に作品愛しているなあ、と。

ヱヴァンゲリヲンは「くり返し」の物語

本書にも記載されておりますが、庵野さんはヱヴァンゲリヲンについて、6年前に作られた「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズポスターについて、こんな事を書いています。

「エヴァ」はくり返しの物語です。主人公が何度も同じ目に遭いながら、ひたすら立ち上がっていく話です。わずかでも前に進もうとする、意思の話です。
曖昧な孤独に耐え他者に触れるのが怖くても一緒にいたいと思う、覚悟の話です。

今回の特集で「くり返し」の物語について語っているのが、プロデューサーを務める、大月俊倫さんの記事「私はやり直すことにきめた」です。

作品に関するインタビューを受けたものの、自身の執筆原稿に差し替えたという記事は、一読すると何も作品について語られていないように読めますが、ヱヴァンゲリヲンのテーマである「くり返し」「孤独」「覚悟」といったテーマについて、大月さん自身の体験や考え方を基に、書かれたエッセイです。

このエッセイを読んだとき、ヱヴァンゲリヲンの人気の秘密がわかりました。
ヱヴァンゲリヲンは「くり返し」の物語ですが、くり返すのは物語だけではなく、僕らもだからです。
そのことを強く伝えたくて、大月さんは、インタビューを執筆原稿に差し替えたのだと、読み終わって感じました。

庵野さんは、6年前に作られた「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズポスターの最後をこのように結んでいます。そこに書かれている文章に、改めて庵野さんの作品にかける情熱と、覚悟を感じました。

ヱヴァンゲリヲンは続きます。なぜなら、ヱヴァンゲリヲンは「くり返し」の物語だからです。

最後に、我々の仕事はサービス業でもあります。
当然ながら、ヱヴァンゲリヲンを知らない人たちが触れやすいよう、劇場用映画として面白さを凝縮し、世界観を再構築し、
誰もが楽しめるエンターテイメント映像を目指します。

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