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書評:熱風2013年5月号 特集「グローバル企業とタックスヘイヴン」-税をめぐる道徳と正義について-

      2013/07/05

スタジオジブリは、毎月10日に「熱風」という無料の小冊子を発行しているのですが、今月の特集は「特集 グローバル企業とタックスヘイヴン」です。地方自治体といえども破綻する時代となった現代では、各国とも税収を増やして財源を確保することが緊急課題となっているなか、多くのグローバル企業の「租税回避」が国際的な問題になっています。その拠点となっているのが法人税や所得税などの税率がゼロか極めて低い、ケイマン諸島、バミューダ諸島、スイスなどの「タックスヘイブン(租税回避地)」です。

先日、ユニクロの柳井正会長がオランダにある自身の資産管理会社にファーストリテイリングの株を移したことによる、”合法的な節税対策”がニュースになりましたが、こうした事をグローバル企業は当たり前のように行なっているのです。

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「特集 グローバル企業とタックスヘイヴン」特集のラインナップは、以下のとおりです。

  • ボーダーレス化する時代に求められる新たな「税」の形 (大元隆志)
  • タックスヘイヴン、あるいはフリードマンの亡霊--グローバル時代の自由とは (中山智香子)
  • 国家を超えて帝国化する企業とともに 私たちは21世紀をどう生きるのか (松井 博)
  • 第三の産業革命が政治や社会のシステムを変えていく (佐々木俊尚)
  • 企業と税 (村瀬拓男)
  • 税をめぐる道徳と正義について (橘玲)
  • 税の恨みはどこまでも追いかけてくる (岩崎夏海)

今月号の特集では、「タックスヘイブン」をキーワードに、国家とは何か、税金とは何か、といった社会のシステムのあり方まで考える特集になっています。熱風は毎月特集と連載の内容が充実しているので、今回から個々の記事に書かれた内容を取り上げていきたいと思います。

本日は、橘玲(@ak_tch)さんが書いた「税をめぐる道徳と正義について」を取り上げます。

富裕層に高額の税金を負担させるのは、是か非か

この記事では2つの事件を題材に、税をめぐる道徳と正義について説明しています。

1つ目は、フランスで起こった事件です。フランスでは昨年5月に、格差是正を掲げたオランドが大統領に就任しました。オランド政権は富裕層への所得税増税を選挙の公約に掲げ、年収100万ユーロ(約1億3000万円)を超える個人の所得税率を40%から75%へと大幅に引き上げようとしました。反発の大きさに新政権は、増税を2年間の時限措置にすることを発表しましたらルイ・ヴィトンの最高責任者がベルギー国籍の取得を申請するなど、富裕層の国外脱出が加速することが予想されています。サッカー選手も例外ではなく、リーグ1に所属する有力選手の移籍が噂されています。

ここで問題なのは、”富裕層がなぜ高額の税金を払わなければならないのか”という事です。現在、所得税は所得の金額によって税率が決まる”累進課税制度”が一般的です。累進課税制度によって、所得の大きい人が多くの税金を払う仕組みになっています。しかし、1人1人平等の権利を保有している現代社会であって、所得によって税金が異なることは、現代社会の考え方から矛盾してはいないでしょうか。

節税は株主に対する義務

2つ目は、イギリスで起こった事件です。イギリスでは昨年10月、コーヒーチェーン大手のスターバックス英国法人が、過去3年間に4億ポンド(約600億円)の売上げがありながら法人税をほとんど納めていなかったことがわかり、消費者団体から不買運動を起こされました。これを受けてスターバックスは、2013年度と14年度の2年間は、利益の有無にかかわらず法人税として毎年1000万ポンド(約15億円)を納めると発表します。

この問題の論点として記事で取り上げているのは、「法人税はなぜあるのか」です。スターバックス英国法人は、「英国人」としての納税義務を果たしていないされて不買運動を起こされました。しかし、「企業と税」という記事で取り上げましたが、法人には「内国法人」と「外国法人」があり、内国法人にはその年度の「全世界」での所得に対する納税義務があります。外国法人は「国内源泉所得」がある場合は、それについての納税義務があります。この場合、スターバックス英国法人は「外国法人」にあたり当然納税義務はあるのですが、「内国法人」と「外国法人」の顔を使い分け、納税を間逃れた。つまり「タックスヘイヴン」を活用したというわけです。

しかし、筆者は記事の中で「タックスヘイヴンに対する批判にはただちに賛同はできない」と述べています。それは、資本主義の原則に沿って考えた場合、節税は株主に対する「義務」と言えるからだというのです。株主が会社に投資するのは、事業のリスクを追う代償として利益の分配を受けるためであり、経営者は株主から事業の運営を委託されている立場であり、株主に利益を還元する義務を負っていると考えれば、経営者にとってはもっとも税率の低い国で納税することは経営努力の1つであり、「道徳的に正しい」というわけです。

雇用を増やすことで税収を増やす

また、スターバックスはイギリスで何もしていなかったわけではなく、きちんとビジネスを行い、8500人以上の雇用を増やしています。8500人の従業員は、スターバックスでの労働で得た賃金を元に、所得税を支払っています。不買運動でスターバックスが撤退すれば、8500人の従業員が職を失い所得税を払えなくなることで、イギリス政府は税収が下がるだけでなく、失業保険や生活保護も彼らに払わなければならなくなるというわけです。企業は雇用を生み出すことで従業員の税金を支払う機会を与えることで、社会的責任を果たしているといえるのではないか。というわけです。

タックスヘイヴンはグローバル社会の矛盾の産物

記事によると、現在もっとも効率的な税の仕組みを構築しているのは北欧諸国なのだそうです。スウェーデンは贈与税や相続税などの「富裕税」を廃止し、デンマークは国民の大半が定率課税で納税しています。年収によって3段階に分かれ、国と地方を合せた所得税が課税されているそうです。

北欧諸国の税制度をみると、富裕層に対しての負担を軽減させようとしていることがわかります。それは、富裕層は雇用を生み出す存在であることが多く、国にとどまらせることで結果税収が増えるという考えを持っているからではないのでしょうか。

記事の終わりにも書かれていましたが、タックスヘイヴンが諸悪の根源で、先進諸国の「正しい」税制を破壊しているという認識は確かに間違っていると思います。企業だって、税金を全く払わないと考えているわけではないのでしょう。

しかし、現在の税制は企業にとって「公平・中立・簡素」なものではありませんし、あっという間に他社に遅れを取ってしまう厳しい競争社会の中にいる中、納税額を削減することで、内部留保を多くすることは、死活問題なのです。

タックスヘイヴンの問題は、単に税制の問題によって起こっているのではありません。グローバル化した企業、力を失いつつある国家、機能していない税金制度など、現代社会の様々な矛盾が引き起こした問題が、タックスヘイヴンなのです。考えれば考えるほどこの問題は難しく、解決することが簡単ではないことを実感します。

明日は、岩崎夏海さんの記事「税の恨みはどこまでも追いかけてくる」をご紹介します。

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